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[ 2005-02-09]

マダガスカルにおけるハンセン病制圧活動


WHOハンセン病制圧特別大使 笹川陽平

2月6日から9日まで、マダガスカル共和国を訪問しました。首相、保健大臣など政治指導者にハンセン病制圧への更なる努力をお願いすることと、マダガスカル保健省がフランスのラウル・フォレロ財団から協力を得て主催する世界ハンセン病の日の式典に出席し、マダガスカルの地方のハンセン病制圧状況を視察・激励するのが目的でした。今回の訪問は2003年9月の訪問に続いて2回目となりましたが、前回の訪問時には1万人あたり4人いた患者数は、2004年の時点で1万人あたり2.93人にまで減少していました。国の中部に山岳地帯があり、激しい雨季、不十分なインフラ等の悪条件により、国土の60%がアクセス困難なこの国において、このような成果は目を見張るものがあります。今回の訪問では、目標である今年末までの制圧達成に向け、世界保健機関(WHO)、政府、NGO等が精一杯活動に力を注いでいる姿を見ることができました。

マダガスカルの風景
マダガスカルの風景

ヘルスセンターに通う患者さん
ヘルスセンターに通う患者さん

世界ハンセン病の日の式典はチュレアールで開催されました。チュレアールは、南西部の海岸沿いに位置する人口5−6万人程の地方都市で、ハンセン病のまん延率はいまだに1万人あたり4人以上と高いレベルにあります。世界ハンセン病の日は、ラウル・フォレロ氏が1954年にスタートさせ、現在でも毎年1月下旬から2月の上旬にかけて、ハンセン病制圧の啓蒙活動のために開催されています。今回のマダガスカルでの式典が地方都市で開催されたのも、このイベントをきっかけとして、「ハンセン病は治る病気です」、「薬は無料です」、「社会的差別は絶対許されません」、という3つのメッセージを首都アンタナナリボから遠い地方にまで広めるためでした。

お芝居などで啓蒙活動を行う
お芝居などで啓蒙活動を行う

式典は、音楽、ダンス、お芝居、映画等を通じて、地域住民のための娯楽を提供すると共に、ハンセン病に関する正しい知識を伝える効果的な機会となっていました。首相や保健大臣もこの式典に参加し、制圧に向けての努力を惜しまないと、強い政治的コミットメントを改めて表明されました。私も、開会式で、今後は制圧に向けて更に全力をあげ、目標が達成された暁にはマダガスカルの国民とともに成功を祝いたいと挨拶をしました。ただ、ハンセン病の制圧には、患者の早期発見と治療だけでなく、差別という社会の病を治していくプロセスも同様に重要であるということを、国民の一人一人が理解して欲しいと訴えました。

ヘルスワーカーと会談
ヘルスワーカーと会談

式典への出席後、マナンジャリ、マナカラ、ファラファンガナという三つの東海岸沿いの町を訪問しました。それぞれまん延率の高い地域ばかりですが、これらの町では地域病院でヘルス・ワーカー達との会談の場を持ちました。保健医療制度の末端にあたるベーシック・ヘルス・センター(保健所)は人口約5000−6000人毎に一つ設置され、国内に全部で約2500カ所ありますが、これらのセンターを拠点として働いているヘルス・ワーカー達は、ハンセン病についての知識を地域住民へ教育し、患者の早期発見と治療につなげていくという、制圧のための重要な仕事を担っています。しかし彼らは、ハンセン病だけでなく、担当する地域の保健全てを担っているので、持たなければいけない技術的な知識は膨大なものとなっています。彼らの話を聞くと、マダガスカルにはインドのように各家を訪問してスキン・チェックを行うというシステムは制度化されていないようです。しかし、社会的差別のために家からなかなか出られない患者が多い地方では、ヘルス・ワーカーが自宅を訪問しない限り患者は発見されません。私は、ヘルス・ワーカー達のこれまでの労をねぎらいながら、更なる努力を続けてくれるよう激励とお願いをしました。マダガスカルにおける最高指導者たちは既に制圧に向けてのコミットメントを強く表明してくださっていますが、最も重要な役割は末端で活躍するヘルス・ワーカーである彼らが担っているからです。

ヘルスセンターの現状について話を聞く筆者
ヘルスセンターの現状について話を聞く筆者

地域病院を訪問した後、各町の保健所を訪問し、それぞれの運営状況を確認しました。ハンセン病患者を登録する登録簿やMDTの在庫の確認作業をしましたが、残念ながら、これらの末端の保健所では必ずしもうまく患者や薬の把握ができていないようでした。特にMDTの在庫管理に関しては、地域病院から保健所までの配布システムが確立しておらず、ある地域の保健所にはMDTの在庫が十分過ぎるほどあるのに対し、他の地域では不足しているという状況が見られました。MDTの効率的な管理・配布システムの確立は、ハンセン病の制圧には欠かせない要素ですが、マダガスカルの地方ではまだこのシステムが浸透していないのです。日本の国土の1.6倍もの面積がある貧しいマダガスカルの島で、制圧活動を推し進めることは非常に困難なことなのです。

MDT(多剤併用療法)の管理状況を確認
MDT(多剤併用療法)の管理状況を確認

私は、世界各国を訪問する度に、なるべく多くのハンセン病患者とお会いすることにしていますが、今回はチュレアールのマロバヒ民間ハンセン病・結核センター、アンバトアボ民間ハンセン病・結核センター、聖ヴィンセント病院等でお話をする機会がありました。これらの病院は、過去に患者を多く入院させていた専門病院ですが、今ではハンセン病患者は、重度の症状が出た場合、または遠方からの来院の場合を除いて入院の必要はなく、基本的には薬のみで治療を受けています。しかし、今回お会いした患者たちは、表情に活気のない方が目立ちました。ハンセン病が治る病気だと医療スタッフに教えられていても、社会の差別が彼らの現実を暗くしてしまっているのです。

首相に対し、制圧に向けて更なる協力を約束
首相に対し、制圧に向けて更なる協力を約束

マダガスカルのハンセン病制圧活動は、着実に制圧に向かって最後の1里を歩んでいます。しかし、その反面偏見や差別をなくすための活動はまだ本格化しておらず、この社会の病は根強く残っています。ハンセン病の制圧には、私が世界各地で言い続けている「ハンセン病は治る病気です」、「薬は無料です」、「社会的差別は絶対許されません」、という3つのメッセージを全ての人に知ってもらう必要がありますが、特に3つ目のメッセージは、2005年末の制圧以降も人々の頭に残っていなければなりません。人々の脳裏にメッセージを残すことは、一つの病気を治療することよりも更に難しいことかもしれません。今、私達は、ハンセン病の医学的な制圧に向けての最後の1里を歩んでいますが、社会的差別の問題は最初の1里目を踏み出したばかりです。もっとも困難な最後の1里と、歩みはじめた1里のために私の人生を捧げます。