アフリカ視察報告5

海洋グループ
海洋技術開発チーム
日本財団は、2009年3月11日~25日まで、アフリカの南アフリカ共和国とコンゴ民主共和国へ貧困視察調査を行いました。国土交通省、厚生労働省、国立感染研究所、警察庁、防衛省からの参加者も含めて総勢15人の調査団です。(当初はマダガスカルに行く計画でしたが、マダガスカルの政情不安により、急遽経由地であった南アフリカの貧困を視察することになりました。)
南アフリカ共和国(以下、南ア)では、HIV・エイズは深刻な社会問題となっています。国連エイズ合同計画( UNAIDS)の2008年データによると、南アでHIVに感染している人々は約570万人(人口4869万人)で、15歳から49歳のHIV感染率は18.1%、0歳から14歳までの子供でHIVに感染している子供の数は28万人に上り、年間35万人がエイズによって死亡しており、0歳から17歳までのエイズ孤児の人数は14万人と記されています。
私たちが南アで最初に訪れたのは、ヨハネスブルグにあるエイズホスピスとエイズにより親を亡くした孤児を預かる施設、St Francis Care Center です。ここは日本人の根本昭雄神父が開設したホスピスで、過去には日本人の看護師も働いていました。このホスピスではほかに貧しい人たちのためスラムにクリニックを経営し、地域のエイズ患者を支える仕事もしています。
設立時エイズホスピスは15床でしたが、今では85床にもなり、以前より多くの人を受け入れられるようになっています。しかし、近年、抗HIV薬の普及により状態を安定させることが可能となったため、入院患者の30%が自宅に戻っており、中には再び働きに出る人も出てきています。スラムのクリニックも含め、このホスピスでは毎月1200人に抗HIV薬を渡しています。
孤児院の方は、30人の子供を受け入れることが可能です。子供たちはHIV陽性の子、エイズにより孤児になった子(HIV陰性)の2つのグループに分けられますが、保母さんは同じように接しています。8-9年前は5歳まで生きることができる子供はほとんどいませんでしたが、良い薬ができてここ1-2年、亡くなった子供はいません。しかし、その薬は肝障害や皮膚病などの副作用の症状が出ることもあり、飲ませることをためらうことも度々あります。
また、妊娠中の女性の感染率が29.5%(2005年)であるとの統計もあります。分娩時に妊婦に抗HIV予防薬を飲ませ、生まれた子にも同じ薬を与えると子供がHIVになることを防げるので、最近はHIV陽性の子供は少なくなっています。
なぜ、南アではこのようにHIV・エイズが広がってしまったのでしょうか。このホスピスで働くトゥリ氏はHIVがなくならない理由として、以下の2点を挙げました。
1.西洋医学よりも伝統医学を信用している。→そのために病院に来るのが遅い。
2.HIVに対する知識のない人が保健大臣に就任していた。(現在はきちんと知識のある人が就任しています。)この当時は予防について「にんにく・オリーブオイルを摂取すればよい」「セックスの後、シャワーを浴びれば感染しない」などの発言があり、予防教育が停滞することとなりました。
伝統医療に関しては、アフリカ諸国に共通する問題で、長年信じてきたものを否定することは難しく、若年層の教育により徐々に西洋医学を普及させていくしか方策はないのです。

このホスピスで、印象的だったのは食事風景です。エイズ病棟にうかがった時、やせた生気のない患者さんが15人ほど食事をされている時間でした。1枚のお皿に少量の料理が盛られており、静かなというより、ひっそりとしたという言葉がふさわしい感じでした。
その一方で、孤児院の子供たちは、エイズ病棟の食事よりも多いのではと思うくらいの量をもりもりとたいらげています。私たちが中に入っていくと好奇心に満ちた目で見上げ、食事もそこそこに近寄ってきました。1人を抱き上げると、あとに続けとばかりみんなが私たちを取り巻きました。彼らは生命力にあふれ、その場の空気を何倍にも膨らませたのではないかと思わせるくらいの力があふれ出ていました。
このホスピスには生と死がほんの数メートル離れた敷地の中に存在し、彼らの共通項がHIV・エイズであることが不思議なくらい対照的な場所だと思いました。