日教組華やかなりし頃、今では私のところにも訪ねて来る槙枝委員長ですが、当時は笹川良一と厳しく意見が対立していました。「親孝行をしろ、交通ルールを守れなどとテレビで余計なことを言うな」と槙枝さんは言いましたが、父は作家の今東光さんと2人で「教育の弊害、これ100年祟る」と言いながら演説して回り、日教組の批判活動をしていました。その時の、あの赤旗のはためきと先生方の嵐のような反対運動は忘れられません。
その様子を、見て見ぬ振りをしておきながら、日本の知識人たちは、今になって教育が間違っていた、学校の先生がダメになってしまったなどと、すべてを他人のせいにする人たちがいます。志というものや男気というものが失われてきた戦後だとは思いますが、最近の若い人たちは違います。しっかりしています。
ここで私は、イラク派兵についてどうこう意見を述べるつもりはありませんが、35歳未満の人たちは、多くが賛成の声をあげています。国際社会で日本が何をすべきかといことについて、なまじ私たちのように半端な戦争体験をしている世代より、彼らのほうが割り切りの良さや、見通しの良さに関して言えば、しっかりしています。
皆さん、茶髪やピアスの若者を見て、けしからんと思うでしょう。確かに、けしからん若者もいるでしょうが、我々が支援している福祉施設などに行くと、茶髪の人もしっかり働いています。骨折をした私どもの役員が乗り物で席を譲ってくれたのは、すべて茶髪の人だったそうで、「俺は茶髪を見直した」と、その彼は言っていました。外見だけで判断してはいけないのです。いまの若者は、世の中のことで見るべきところはしっかり見ている、そんな気がします。
父、良一は、80歳を超えて96歳で亡くなるまでの間、実に103回も海外へ渡航しています。平均すると1年に8回ほどになります。それも、あるときはブラジルから乗り継いで24時間もかけて成田に着き、その足で大阪へ向かったこともありました。暑いとか寒いということも言ったことがありません。アフリカの灼熱の大地に行っても、背広とネクタイを着用し、どんなに寒いところでもオーバーコートを脱ぎました。辛い、悲しい、困ったといった弱音も、私はそばにいて一度も聞いたことはありません。そして、土日も祭日も働き詰めで、まさに年中無休のスケジュールは自転車操業。とにかく、自分の熱意を行動で示していました。
私はニクソン元大統領の「指導者とは」という本を読みました。日本の若い政治家にニクソンから直接「指導者とはどういうものなのか」ということを伝えてもらうために来日して欲しいと連絡を取り合っていましたが、残念ながら日程が折り合わないまま、彼は亡くなってしまいました。かつて、私は父に指導者とはどういうものなのか尋ねたことがあります。父は、「何事にも恐れず、バタバタするな。腹を据えて熟考しろ。そして、世の中の人たちは、目先のことしか分からないものなのだから、自分の信念に基づいて、こうあるべきだと口に出してしゃべり、行動しろ。それが指導者だ」と言いました。
また、「その結果、自分の意見が受け入れられなくても、それはそれで立派な指導者なのだ。しかし、どんなことを言えば国民が喜び、一票をもらえるか、そんなことを考えている人は真の指導者とは言えない。言うべきことを言い、なすべきことをしっかり行い、休暇は死んでからまとめてもらう。それが指導者というものだ」とも加えました。
そういう一途な人生、命を懸けて生きた人を、皆さんのように戦前戦後の混乱の時代を良くご存知の方なら実感としてお分かりいただけるかと思います。皆さん方それぞれも、地域における指導者でいらっしゃいます。どうかひとつ、日本の将来が間違いのないように尽力していただきたいと思うのであります。
父、良一は、日教組が激しい運動を展開していた時から、B&Gの施設を使って、知育、体育、徳育の3つのバランスが取れた人間をつくらないといけないと言い続けてきました。私は、世界の有名大学70校を見て回りましたが、いずれの大学も学業が優秀なだけでは入学させてもらえません。学業の成績と同時に、どんなスポーツをしてきたのか、どんなボランティア活動で社会貢献してきたのかを細かく問われるのです。
私の倅に学業優秀な友人がいまして、ハーバード大学を受験しましたが受かりませんでした。何故かと言えば、他の人がスポーツやボランティアをしている時に、一人だけ勉強していたら学業ができて当たり前だと言われたそうです。それではアンフェアだと言うことなのです。とかく、日本は体育と徳育の2つが遅れがちなのです。
B&G財団設立の精神は、笹川良一がドイツのオリンピック委員会専務理事、ゲルト・アーベルベック氏を訪問した際、次のように進言されたところにあります。
「笹川さん、どの国に行っても立派な競技場がつくられていますが、年に1度か2度しか使われていないのが現状です。そのような競技場をつくって何になるのでしょうか。これからは、スポーツで青少年を鍛える場において地域コミュニティーを活性化させ、お年寄りから孫の世代までがスポーツを通じて語り合えるような環境を整えていくべきだと思いますし、ドイツではすでに目指しています」
その結果生まれたのが、B&Gによって建設された現在ある全国の施設なのです。先ほど、私はご出席された皆さんの名簿を拝見して、とても懐かしく思いました。私は、皆さんの施設をつくる委員長を長年務め、多いときには5時間もずっと調査のビデオを見て評価しながら、皆さん方の熱意をかたちにさせていただいてきました。今、それぞれの施設が、たいへん立派な活動をされているようなので、嬉しく思う次第です。
これからはネットワークの時代です。先ほど、会長の梶田さんがお話しされたように、B&G財団を中心に全国にある皆さん方の施設をネットワークで組んで、あらゆる情報を共有していきたいと考えております。日本財団も、そのお仲間になれたらと思います。
日本財団は競艇の収益金の3.3パーセントをいただきながら、皆さんの市町村に老人や障害者の移動のための車両を提供させていただいています。今では全国で1万台もの車両が走っています。また、日本財団のホームページは50万ページを超えており(*註)、先ほど、ある市長さんからもご質問を受けましたが、老人介護に関する資料や情報も数多く含まれております。
今は、もう病院で人生の最後を迎える時代ではありません。ホスピスという、すばらしい看護師のもとで専門の施設、あるいは自宅にいながら終末医療が行なわれていますし、遺族の悲しみに対するケアも始めなければいけません。
こうした介護・医療の問題をはじめ、不登校の問題、里山の問題、在日外国人の問題など、あらゆるジャンルの問題を日本財団は精力的に取り扱っており、その情報は専門的ですばらしいものであると自負しております。ですから、ぜひB&G財団と併せて日本財団の活動にも関心をお寄せいただきたいと思います。
また、最後になりましたが、モーターボート競走も昨今の経済事情の影響を受けて厳しい状況が続いておりますが、社会の考え方も次第に変わってきております。先日の調査によれば、東京都民の70パーセントはカジノができると良いと答えており、賛成意見が増えてきています。
皆さんのなかには、競艇なんてけしからんと思っている人もいるかと思うのですが、今パチンコの売り上げは29兆円で、1日1人あたりの消費は2から3万円になるそうです。それに比べ、競艇は1日1人、1万円程度の遊びなのです。
また、皆さんの市町村に舟券の機械を5台か10台置いていただければ、年間で億のお金が入ってきます。場合によっては、私たち日本財団が施設をつくり、3年間運営して十分な利益が上がり始めたら、地元で運営していただくという仕組みも考えられます。
人に頭を下げて予算をもらいに行くよりも、職員が働いて汗をかいて集めたお金の方がどれだけ貴重か計り知れません。そういう施設をつくり、そこで得た収益は情報公開で住民に明らかにしながら、地域のために活用していただけたらと思います。
つたない話ではございましたが、ご清聴ありがとうございました。
(*註)日本財団ホームページは複数のサイトに分かれています。スピーチのあった2004年当時は、
日本財団公式サイト:http://www.nippon-foundation.or.jp/
日本財団図書館:http://nippon.zaidan.info/
の2つからなっていました。