現代の風景

[ 2009-12-07]

現代の風景

石井 克則


《19》 企業の良心ここに ある個人体験

澄み切った瀬戸内海のように
澄み切った瀬戸内海のように

「薄皮まんじゅう」といえば、福島県郡山市の老舗「柏屋」の名物まんじゅうだ。CSR(企業の社会的責任)が問われる時代に、柏屋は地域だけでなく全国的にも評価されるCSR活動をしているという。

「白い恋人」の事件を覚えているだろうか。2007年8月、北海道の名物チョコレート菓子として人気が高かった「白い恋人」の一部を製造元の石屋製菓が賞味期限を延ばして販売していたことが発覚し、社会問題になったあの事件である。その後、さらに伊勢の名物「赤福餅」でも同じような問題が明るみに出て、企業の社会的責任を考えさせられたものだった。2つの商品とも販売を再開し、人気商品として復活しているようだが、私個人も企業の責任、あるいは良心を象徴する体験をした。うそのようで、本当の話である。

もう25年前のことになる。私の在籍していた職場では毎年、お盆や年末年始のころ、地方の名産品を共同して購入していた。以前、その地方に勤務したことがある同僚や地方に知人がいる人が世話役になっていた。西日本の乾麺もその一つだった。ひと箱買うと、半年は持つくらい量があり、けっこうおいしいので、希望者は少なくなかった。

その夏も購入希望の張り紙に記入して、うどんが届いた。早速茹でて食べてみると、異臭がある。油のにおいがひどいのだ。念のため別の束を茹でてみた。結果は同じだった。あきらめて、残りは箱にしまい込んだまま放置し、あとでゴミとして廃棄した。いまなら直接メーカーに連絡するか、世話役に事情を話しただろうが、当時は忙しい日々を送っていたため、連絡をするのをいつしか忘れてしまった。その後、人事異動などで共同購入の枠からも外れて年月が経過した。

昨年末、ある会合でうどんの購入の世話役をしていた元同僚と会い、昔話をする機会があった。懐かしい話題だった。「宮崎の車エビは生きていて、新鮮でしたね」という話の中にうどんも出てきた。「そういえば、こういうことがあったよ」と、私は油のにおいがひどくて、箱ごと廃棄したことを彼に打ち明けた。もうふた昔以上も前の話であり、別に彼を責めたわけではなかった。その場はそれで終わったと思っていた。

ところが、ことしの夏前「近くうどんが送られてきます」という元同僚からのファクスがあり、その通りに翌日、箱に入ったあのメーカーのうどん(乾麺)が宅配便で届いたのである。ファクスには「油くさくて1箱そのまま捨てたとおしゃっていましたね。私も同じ感じを持ちましたが、そのまま食べてしまいました。ことしもうどんの季節になり、あの話を思い出して、メーカーに連絡しました。当時、まとめて注文していた責任者として、これで少し安心しました」と書いてあった。

うどんの箱には手紙が同封され「以前にお送りいたしました製品におきまして、ご不快をおかけいたしましたこと、深くお詫び申し上げます。日頃より、製品の品質には十分管理し、最良の商品を召し上がっていただくべく努力しておりますが、ご不快をお掛けしたことを重ねて陳謝申し上げます」と、書かれてあった。

元同僚は、その後もメーカーと付き合いがあったのだろう。たまたま私の話をしたにしてもとうに時効になっており、聞き流してしまうのが普通だ。そうしなかったこのメーカーの良心を感じ、企業の社会的責任とはなんだろうかと、あらためて思った。

冒頭に紹介した柏屋は1852年(嘉永5年)の創業以来「餡に真心を包む」という伝統があり、子どもたちの詩を集めた詩集の刊行をはじめCSR活動にも熱心だという。しかし、一部の企業を除いては、まだ日本の企業のCSR意識は薄いようだ。儲けに走るあまりに不祥事を起こす企業は後を絶たない。

しかも「経済的、環境的側面」のみを重視し、世界の貧困問題や人権問題にまで目が向かない。近江商人には「売り手よし、買い手よし、世間よし」という「三方よし」の家訓がある。売り手と買い手が満足するだけでなく「世間よし」という呼び方で社会や地域に貢献する必要性を説いているのだ。柏屋にも「世間よし」の伝統が受け継がれているのだろう。


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