現代の風景

[ 2009-12-21]

現代の風景

石井 克則


《20》 平和は自分が構築するもの パキスタンに生きて

子どもたちには笑顔が似合う
子どもたちには笑顔が似合う

自爆テロが相次ぐパキスタン。そのニュースに接する度に一人の若者の顔を思い浮かべる。童顔で、気負ったところがないその若者は「平和学」を学んだ千葉市出身の櫻井佑樹さん(31)だ。彼はいま、日本地雷処理を支援する会(JMAS)に所属し、首都、イスラマバードから約130㌔離れた村で水道をつくる仕事に従事している。彼が国際協力へ目を向けることになったきかっけは何だったのだろう。

かつて杉原千畝(ちうね)という外交官がいた。第二次大戦中、リトアニアの在カウナス領事館の領事代理だった杉原は、ナチス・ドイツの迫害を逃れるためポーランドから亡命してきたユダヤ人難民に日本の通過ビザを発給し、約6000人の国外脱出を助けた。外務省の指示に反して人道的行動をとった勇気ある人物だ。

中学2年生の時、この杉原を描いた加藤剛主演のテレビドラマを見た櫻井さんは「日本にもこんな人がいたのだ。私も世界のために働きたい」と、強い思いを抱いた。考古学へ進もうという夢がこのドラマによって大きく変わり、大学では国際関係を学び日本に住む外国人の子どもたちを支援するボランティア活動もやった。しかし卒業後はいったん別の道を選択、4年間ある研究団体に勤務した。ある日、ふとドラマを思い出した。「何をやりたいのか」と考え直した結果、思い切って仕事をやめ、英国の「平和学」研究で知られる国立ブラッドフォード大学に留学することを決意した。

平和学科で学んだ櫻井さんはJMASに入り、ことし7月パキスタンに赴任した。もともと、JMASはカンボジア、ラオス、アフガニスタンなどで地雷や不発弾の処理事業を支援している。アフガンについては日本政府の退避勧告で、現在、日本人スタッフはカブールからパキスタンのイスラマバードに避難し、ここからアフガンの地雷処理の支援をしている。

パキスタンでは人道援助として、イスラマバードから130㌔のマリー地区郊外のカカライ村を中心に、山の湧水の水源地からパイプで麓の村に水を供給する水道事業を進めている。櫻井さんは予算管理・執行、工事の進捗状況の確認などを担当、カカライ村では12月中旬、水道の竣工式が行われた。これで、1日かけて村から水源地まで女性や子どもたちが水汲みに行く必要はなくなった。

日本人は時間に正確だ。だが、パキスタンではそうは行かない。「地元の人と時間の流れを感じる速度が違うための衝突もある。開発は根気のいる仕事だ」というのが現地で暮らしてみての実感だ。そんな櫻井さんだが、カカライ村の現地に行ったとき、村の女性が薪を使ってつくってくれた伝統的パキスタン料理が心に残っている。「もてなしの心」が伝わり、忘れることができないおいしさだった。

外務省の「海外安全ホームページ」をのぞくと、パキスタンについて逐次新しい情報が掲載されている。もちろん、櫻井さんが所属するJMASパキスタンにもその情報は入る。12月7日、8日と連続してマーケットや裁判所などで爆弾テロがあり、多くの死傷者が出た。パキスタン政府がタリバン掃討作戦を実施していることに対する報復で、テロがいつ終わるのかは予想もつかない。現地スタッフの身近な情報を含めたさまざまな情報を頼りに行動するが、外出の際は細心の注意が必要だ。

パキスタンで約半年。厳しい日常を生きる櫻井さんは「人は己の安全が保たれて生活ができる。平和ほど身近なものはない」と考える。さらに「平和は自分が構築するものだ。自分の周囲にいる人を大切にしていくことが大きな世界平和につながるものだと思う」と自問する。マザー・テレサが「世界平和のために何をしたらいいのか」と聞かれて「帰って家族を大切にしてあげて下さい」と話したことに平和に対する考え方が集約されていると櫻井さんは言う。「価値観や意見が違っても、出会った人それぞれに敬意を持てることが大切なのだ」という彼の言葉を世界の指導者に聞かせたいと思う。

国際協力という天職を見つけた櫻井さんは、同世代や年少の若者に「夢や情熱を忘れないで」という。それが「生きる原動力になる」と信じているからだ。同じ道を目指す後輩には「現実にがっかりする人が多いが、郷に入れば郷に従いで、根気よく現地の人との信頼関係をつくろう」と語りかける。


パキスタンの子どもたち(JMAS提供)
パキスタンの子どもたち(JMAS提供)

櫻井さんのパキスタンの人々に対する見方は温かい。「みんな生きていることに真摯で、いま生きている瞬間を大切にしている。明日はどうなるかわからないからこそ、いまこのときを大切に生きている」。パキスタンの人々だけでなく、同じ思いで日々を生きる人々が、いまの世界には決して少なくないのが現実なのだ。

(櫻井さんは最近、パキスタンで交通事故に遭遇、右腕を骨折するけがをした。一日も早い快復を祈念します)



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