現代の風景

《1》 支え合う小さな命 小児がんの子どもたち

《1》 支え合う小さな命 小児がんの子どもたち

21世紀は、なにやら混沌とした時代だ。科学技術は進化を続けているのに、人間の心は進化しない。争いごとがやまない時代を私たちはどう送ればいいのだろうか。この地球に生まれてきた以上、人を思いやる心といのちを大事にしたい。
そんな思いで現代の風景を文字で描いてみる。
私は昨年11月14日の午後、東京駅からJR京葉線に乗り、海浜幕張駅で降りた。埋め立て地帯に出現した幕張新都心の中心にある幕張メッセで開かれた小さな展覧会の「小児がんと闘う子どもたちの絵画展」(主催・財団法人がんの子供を守る会)をのぞいた。その会場で「石川ふくみ相談会」と書いてある1枚のポスターに目を奪われた。
急性の白血病で入院していた静岡県伊東市の石川福美ちゃんが、入院した病院でいろいろな人の悩み事相談に乗ったときのポスターだった。
それには「皆さん悩みってどこで作るのでしょう。知ってますか、それは心と気持ち!たった2つの見えないものがそんないやなものを作ってしまうのです。時によってうれしい幸せを運ぶことも、どんな悩みがあっても隠さずに言ってください。悩みを1つ抱えると、10個、20個、悩みが増えますよ。人生1つ、命1つ、悩みや困ったことを抱えて生きるのはもったいない。せっかくもらった命だから、楽しく、悩みや困ったことのない人生に」とあり、これを読んだだけで私の涙腺はおかしくなった。福美ちゃんは、文字通り、様々な相談を受け、とうてい小学生では考えがつかないような奇想天外な回答をする。
福美ちゃんと同じ部屋にいた結城桜ちゃんは福美ちゃんが骨髄移植のため無菌室に入る際、「ふくちゃんおうえんしてるよ」という絵を描いた。それも、福美ちゃんのポスターの隣に展示されていた。
2人は短い生涯を閉じる。福美ちゃんは8歳11ヵ月、桜ちゃんは6歳6ヵ月しか生きることができなかった。家族の悲しみは深かっただろう。絵画展を見て、帰路私は複雑な気持ちを抱いた。こんなに心が澄み渡った素晴らしい子どもたちが短い生涯しか送ることができないのに、私を含め命のありがたさに気がつかず、多くの人はともすれば命を粗末にしてしまう。
この絵画展は後日談がある。ことしになって、NHKがこの2人の話題をニュース番組「首都圏ネットワーク」の特集に組んだのだ。「悩み事相談会」と「応援しているよ」の作品を紹介し、病院で仲よしになった2人がどんな少女だったかを家族や看護師が証言した。福美ちゃんの母親の春美さんの言葉が印象に残った。
「(福美を含め子どもたちの)肉体はがんに蝕まれたけれど、(弱まる)体に反比例して子どもたちの心がどんどんきれいになって行きました。そして(子どもたちは)支えあって、ふだん、見えないものが見えてきたのだと思います」
NHKの報道については、事前に福美ちゃんのお父さんから連絡があった。私は家族にビデオに録ってもらい夜遅く1人で見た。涙がとまらなかった。何しろ特集を紹介したNHKの若い男性アナウンサーが涙ぐんだのだから、涙腺が弱くなった私が涙を流してもおかしくない。
近くに「こども病院」という子どもを専門にした病院がある。日常、その建物を目にしながら、何気なく通り過ぎていた。だが福美ちゃんと桜ちゃんのことを知ってからは自然に足が止まるようになった。この病院には2人と同じく、病気と闘いながら明日を信じる大勢の子どもたちが頑張っているのだ。