現代の風景

[ 2011-03-01]

現代の風景

石井 克則


《52》NZ地震!瓦礫の中に人が 災害現場に救助犬も出動

鎮魂の十字架があるテカポ湖
鎮魂の十字架があるテカポ湖

ニュージーランド南島最大の都市で「ガーデンシティ」と呼ばれるほど美しいクライストチャーチが大地震に見舞われた。レンガ造りの大聖堂など歴史的建造物が壊れ、語学学校の入ったビルも倒壊し日本からの留学生28人も依然行方不明だ。瓦礫と化した観光の街の悲惨な現場を伝えるテレビの映像に、救助隊員とともに動く犬たちの姿が映ったのを見た人は多いかもしれない。「(災害)救助犬」である。視覚障害者を助ける盲導犬に比べて育成の歴史は新しいが、地震や土砂崩れなどの災害現場で活動する救助犬の姿が目に付くようになっており、活動の場が広がりつつある。

以前、クライストチャーチ中心部のクライストチャーチ・シティセンターにある大聖堂付近を歩いたことがある。まさかこの大聖堂の尖塔部分が地震で崩壊するとは夢にも思わなかった。この大聖堂は1864年に建造が始まり、40年後の1904年に完成したという。1882年の着工以来、129年が過ぎても未完成のスペイン・バルセロナの「サグラダ・ファミリア」(聖家族教会)に比べたら完成は早く、ニュージーランドを象徴する観光名所として著名な建物になっていた。

真昼の地震発生当時、大聖堂のカフェテリアにはカナダからの観光客が何人もいたという。観光客が「大きな揺れで大聖堂の尖塔が崩れ砂塵が立ち込めた。キッチンの小さなドアから脱出した。まるで9・11みたいだった」と語っている映像を見た。しかし、この大聖堂以上にショッキングだったのは、大聖堂からそう遠くないCTVというテレビ局のビルが倒壊したことだ。このビルには、キングズ・エデュケーションという語学学校が入っており、日本からの28人の語学留学生たちを含む多くの海外からの留学生が行方不明となり、懸命の救助作業が続いている。「志や夢」を持って語学を学ぼうとした人たちが瓦礫の下敷きになるという不条理に、掛ける言葉も浮かばない。

こうした災害現場で活動するのが、救助犬という特別の訓練を受けた犬たちだ。犬の嗅覚は人間に比べ1000倍—1億倍といわれる。においによって倍率に幅があるが、基本的に動物のにおい(有機物)には特に敏感という性質を利用して、倒壊した家屋や土砂に埋まった人を捜して救助隊員に知らせるのが役割だ。災害で下敷きになった場合、生存の目安は「72時間前後」といわれており、災害現場でいち早くこうした人たちを発見、救出する必要があり、救助犬の働きは重要だ。今回、警視庁の3頭の救助犬が日本の国際緊急援助隊とともにクライストチャーチの現場に入って活動した。

救助犬を訓練する民間の組織も着実に増えており、2009年9月30日のインドネシアのスマトラ沖地震(マグニチュード7・5、犠牲者は1100人以上)の際、世界各国の救助チームに交じって、日本のNPO救助犬訓練士協会(RDTA・神奈川県藤沢市)の村瀬博英さんもジャーマンシェパードのエロスと共に現地に入って活動している。

村瀬さんは、最初から犬にかかわったわけではない。競走馬の世話をする厩務員をしたあと、警察犬の訓練所に入り、犬と関係のある仕事に目を向ける。シェパードの優秀さに心を動かされ、国際大会にも参加する。ヨーロッパでは犬のしつけに厳しいが、それを日本国内にも普及させようと活動を始め、これが救助犬を訓練するNPOへと発展する。RDTAは国際救助犬連盟(IRO)に加盟し、世界各地で災害が発生した場合、出動要請があれば直ちに駆け付けるよう備えているという。

日本では、1995年1月の阪神淡路大震災で、スイスとフランスから派遣された救助犬が被災者の捜索活動をする姿がテレビなどで紹介され、救助犬の必要性がクローズアップされた。しかし、国際基準はかなり厳しく救助犬として認定される関門は高い。救助犬になるには犬種は問われない。海外では一般家庭で飼われている犬が多いというから、飼い主に愛され「人間が大好きになった」犬たちが、人間の危機を救おうと危険な現場で嗅覚という力を働かせ、活動してくれるのだ。

このごろ、犬には不思議な力があると信じるようになった。家族のだれかが帰ってきたのを一番早くキャッチするのは飼い犬だ。近所の犬は、股関節の病気で車いすを使わなければ歩けなかったのに、結婚して家を離れた娘さんが赤ちゃんを産んで家に戻ると、赤ちゃんに対抗するかのように自力歩行を試み、ついに車いすなしでも歩くことができるようになった。一番大事な人が戦争で亡くなった同じ時間帯に、遠吠えを続けたという犬の話を聞いたこともある。

クライストチャーチから車で3時間半のところに「善き羊飼いの教会」で知られるテカポ湖がある。氷河が削った岩石の粉が溶け込んだ青緑色の湖面が特徴だ。教会の近くには1968年に建てられた「牧羊犬の像」があり、銘板には「もし牧羊犬の助けがなかったならば、この山間の土地での牧畜は不可能だっただろう」と記されている。この世界から自然災害がなくなることはない。救助犬は災害現場で人間たちの命を助けるため救助隊のパートナーとして、牧羊犬に劣らずその役割を果たし続けることだろう。


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