風の香り

[ 2010-01-18]

風の香り

宮崎 正


《8》果たして何が期待できるのか?新政権発足4ヶ月

朝もやに包まれる伊勢神宮の森
朝もやに包まれる伊勢神宮の森

政権交代で鳩山内閣が誕生して既に4ヶ月、批判を控えるハネムーン期間も終わり、鳩山政権に対するメディアの批判も厳しさを増している。新政権の誕生が、激動する内外の情勢に対応能力を無くした自民党に対する失望と民主党が持つ可能性に期待した結果であったのは間違いない。「何もしない」自民党より、せめて「何かが期待できる」民主党ということだ。


しかし、事業仕分けなど一見、活発に動いているかに見える新政権も、その実は首相以下閣僚がその時々に勝手な思いを述べ、これに伴う混乱が話題を提供しているだけで、懸案は増える一方だ。加えて鳩山首相、小沢民主党幹事長の資金問題—。このままでは鳩山新政権は「何も期待できない」政権に成り下がる恐れすらある。新政権に替わる新たな勢力が存在しない現実がこの国を余計、暗くしている。



▼疑問符
新政権の特徴として最も目立っているのは閣僚発言の足並みの乱れだ。懸案の米軍普天間飛行場移設問題を筆頭に首相以下、関係者の発言の落差は大きく、国の将来より党や自分の立場を優先した無責任な発言も目立つ。こんな中、鳩山首相も秘書が政治資金規正法違反に問われた政治資金に関し「周りの人々が私たちのことを何くれなく面倒を見ていただく環境にありました」「正直申し上げて親や周りの者とお金の話を直接することはほとんどありませんでした」と言ってのけた。

親から年間1億8千万円の支援を受け、金の心配をしたことがないと公言してはばからない首相が「格差」や「貧困」対策を叫んだところで、どこまで説得性を持つかー。そうでなくとも国の命運を左右する安全保障や外交で、国の責任者として当然持つべき明確なビジョンや決意があるのか、首を傾げざるを得ないようは発言のブレが続いている。普天間飛行場問題にしても、移転先について首相として具体案を持っているのであれば「国外、県外」と言うのもいい。しかし、なんら候補地がないまま約束の5月を迎えれば、沖縄県民の気持ちを弄び日米同盟に亀裂を与えただけの結果に終わる。

それでは国のリーダーの在り方として疑問符が付けざるを得ない。1月16日に業務を終えた海上自衛隊によるインド洋での給油活動も然り。鳩山政権は給油活動の実績が減ってきている点を打ち切りの根拠としている。しかし、昨年秋、笹川平和財団主催の日米フォーラムが開かれた際にも触れたように給油活動は「ローリスク、ハイリターン」の効率のいい国際貢献である。「ほかの方法の支援策を検討する」と言うのが総選挙での民主党の公約だが、自衛隊の海外派遣には制約があり、危険地への民間派遣も難しい。さりとて資金拠出となれば、湾岸戦争で135億ドルに上る巨額の資金援助をしながら国際社会でまったく評価されなかった苦い経験につながる。

新政権、とりわけ首相にどのような展望があるのかー。外交や安全保障は理想よりも冷厳な国際政治の現実が前提となる。自衛隊撤退後の給油活動を中国海軍が引き継ぐ動きもある。原油の大半を中東に依存する日本がシーレーンを安全に確保して行く上でも撤退が正しい選択であったのか、理解に苦しむ。対米関係も同様である。一定の関係見直しは今後の日本の選択肢の一つとして、あり得るかもしれない。しかし、この場合は日本としてどのように安全保障を確立するのか、明確な展望がなければならない。観念的に「対等」を叫ぶだけでは、かえって米中接近を促進し、国際社会で日本を漂流させることになる。「対等」「友愛」といった言葉は、北朝鮮の動向など厳しさを増す極東情勢を前にあまりに軽く、逆に国内の核武装論を助長する恐れすらある。



▼酷似
次いで小沢幹事長。1月15、16日にかけ資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡り同会の事務担当者だった石川知裕衆院議員ら3人が東京地検特捜部に政治資金規正法違反容疑で逮捕された。その後の記者会見で「検察と全面的に戦う」と“宣言”する小沢氏の姿を見ながら、かつてロッキード事件で展開された田中角栄元首相と検察の死闘を改めて想起した。

1976年2月に発覚したこの事件で田中元首相は5億円の受託収賄罪で起訴され、83年10月、懲役5年、追徴金5億円の一審判決を受け、控訴審も支持。上告審中の93年12月、田中元首相の死亡で公訴棄却(被告の死亡に伴う審理打ち切り)となった。一審だけでも6年9ヶ月。この間、田中元首相は100人を超す最大派閥田中派の数の力を背景にキングメーカーとして君臨し、ロッキード裁判を軸にした政局はあるべき政治の姿を歪める結果にもなった。120人に上る小沢チルドレンを抱え、第一人者として新政権に君臨する小沢氏が検察と全面対決する姿は師・田中角栄元首相とあまりにも酷似している。

記者現役時代、200回近くに上った田中元首相の一審全公判を取材し、傍聴席で審理を見守る小沢氏を何度か見かけた。この事件は、領収証など密室の犯罪である贈収賄事件としては異例といっていいほどの豊富な物証もあり、ロ社から田中元首相に5億円が渡った事実は動かない。ただし事件発覚の端緒となったロ社の秘密資料が“誤配”で米上院多国籍企業小委員会(チャーチ委員会)に流れたとされる経過など不可解な点が多い。

独自の資源外交、中国との接近を図った田中元首相の“追い落とし”に向けた陰謀の存在が今だにもっともらしく語られるのもこのためだ。今だに全容は不明である。小沢氏の心の底には、師であり父とも仰いだ田中元首相を刑事被告人の立場に陥れたこの事件をきっかけに米国に対する強い不信感が醸成されたような気がしてならない。同時に田中元首相ばかりか、脱税事件の摘発によって、もう一人の師であった金丸信・元自民党副総裁の政治生命をも絶った検察に対する強い敵愾心もあるような気がする。

この件は改めて触れたいと思う。また特捜部にどのような証拠、成算があるか知らない。ただ、どのような結論になるにせよ、どちらかが大きな傷を負う。小沢氏が数を力に検察と全面対決することになれば、事件の帰趨はそのまま政局に大きな陰を落とす。そのときこの国は「田中支配」と同様の不幸に直面することになりかねない。鳩山首相はここでも「どうぞ(検察と)闘ってください」と小沢氏を励ました。検察は政府組織のひとつであり首相はそのトップである。その無神経さは単に“軽い”では済まないのではないかー。(了)


最新記事

風の香り

《33》美しい夕陽に悲しさ思う 悲惨なビルマ戦線の跡

風の香り

《32 番外編》“白い花”咲く箱根の木々! ひょっとすると樹氷か?


風の香り

《31》龍馬に託す熱き思い 異次元の不思議な空間

風の香り

《30》子どもを産めない・・広がる不安 基準の明示は難しいのか