トピックス一覧

[ 2007-03-05]

地域の人々を支えるホスピス緩和ケアと倫理
ホスピスナース研修会を開催

石井 克則


会場の様子
会場の様子

 急速に進行する高齢化社会。末期のがん患者などのターミナルケア(終末期ケア)は医療分野で、大きな位置を占めるようになった。こうしたホスピスの看護師や末期の在宅患者に接する訪問看護師たち70人が参加して、3月1日、2日の両日、東京都港区の日本財団ビルで「第6回日本財団ホスピスナース研修会」が開かれた。初日は「地域で暮らす人々を支える」、2日目が「ホスピス緩和ケアと倫理」をテーマに講演とグループ討議があった。ピースハウスホスピス教育研究所の松島たつ子所長をコーディネーターに、2日間にわたった研修会の模様を報告する。


あいさつをする笹川会長
あいさつをする笹川会長

 初日は、午後1時に開会。主催者の笹川陽平日本財団会長が「現場からの報告を聞き、終末医療のあり方について大きな波を起こしたい」とあいさつ。続いて東京の「浅草医師会立訪問看護ステーション」の訪問看護師、倉持雅代さんが「訪問看護ステーションの仕事~安心できる在宅医療へ~」と題して活動を報告した。


病院との連携を訴える
倉持さん
病院との連携を訴える
倉持さん

 倉持さんが所属する訪問看護ステーションには、10人の看護師がおり、24時間対応で訪問看護に当たっている。この中で倉持さんは「がん難民という人が増えてきた。病院との連携が重要だ」と指摘した。


北海道での活動報告をする
金澤さん
北海道での活動報告をする
金澤さん

 2人目として、北海道室蘭市の日鋼記念病院看護課長の金澤登貴子さんが北海道の地域ホスピスネットワークづくりの経緯を報告。「がんに苦しむ患者・家族のために、さらに終末期医療の広がりが重要になるだろう」と述べた。


常識を打ち破れ

「このゆびとーまれ」
理事長 惣万さん
「このゆびとーまれ」
理事長 惣万さん

 初日のメインとなったのは、富山市で赤ちゃんからお年寄りまで幅広い層を対象にデイケアハウスを運営するNPO法人「このゆびとーまれ」の惣万佳代子理事長の講演だ。惣万さんは「あったか地域の大家族~畳の上で大往生した3事例~」と題して、スライドを見せ「このゆびとーまれ」の設立の経過や看取った老人たちについて、ユーモアを交えながら話した。さらに「ホスピスの患者が死ぬことが近づいたら在宅に戻してほしい。あるいは病院で死んでもいいなと思うような環境をつくってほしい」と要望し、「これからは赤ひげ先生のような市井の看護師が必要だ。看護の常識を越えて頑張って」と、参加者を激励した。


多様な意見の交換

 続いて参加者らが少人数に別れ、地域で暮らす人々のために何ができるかをテーマにグループ討議をした。この中では「スーパーやコンビニにボランティアのナースを置き、血圧を測り、相談に乗るような仕組みが必要」「定年になった看護師に看取りの仕事をやってもらう制度をつくったらどうか」「病床勤務と訪問看護師の間にある壁を取り払うよう交流を図るべきだ」「自分の勤務中に患者が亡くなるのが怖いという看護師もいるが、患者が命について、考えられるような働きかけが必要だ」「死は新しい世界への旅立ちであり、タブーではないことを伝えるのが終末医療の原点ではないか」「患者が帰りたくなるような地域づくりや本人・家族が気兼ねなく送ることができる場所が必要なのではないか」など多様な意見が出た。


発想の転換を

 これに対し、惣万さんは「みなさんは自分を責めないで。これからは地域づくり、街づくりの会議に看護師も入ってほしい」「当直の時に患者が亡くなったら私の時に亡くなってありがとうと思うくらい発想の転換をして、死を恐れないでほしい」と、エールを送った。

 2日目は「ホスピス緩和ケアと倫理」がテーマ。最初のグループ討議では「正しい情報が患者に伝えられないまま、治療が継続されてしまうケースがある」「本人の意思が確認されないまま医療行為が行われる」「本人の意思確認ができないときはどうしたらいいのか」「がん告知について患者を置き去りにしていいのか。告知しないのは基本的人権に触れるのではないか」「患者の希望よりも、家族や医療側の思いや希望が優先されることが多いのではないか」といった問題点が出た。

ホスピスの倫理とは

清水哲郎教授
清水哲郎教授

 続いて東北大大学院文学研究科の清水哲郎教授(哲学者)が「ホスピスケアの臨床倫理」と題して講演した。夫人がかつてがんになり、最近高齢の母親ががんであることが分かったという清水教授は、医療システムと倫理について研究を続けている立場から「ケア活動は倫理が支えている」と述べ、倫理の原則は(1)相手を人間として尊重する(2)相手にできる限り大きな益をもたらすことを目指す(3)正義を保つ-の3点であると指摘した。

 さらに、患者の意思決定のプロセスとして大事なことは(1)患者(家族)とコミュニケーションを通して合意に至る道を考える(2)患者にとって最大の利益は何かを考える(3)社会的視点からのチェック-であると説明した。そして「医師には言えなくとも、看護師には言えることがあるだろう。末期の患者の意思決定に当たっては人生観や価値観を知ることが重要だ」と述べた。質疑応答の中でも、清水教授は「患者に接するとき、ホスピスケアでは個別性が大事だ。個々の患者がどのような思いでいるのかを聞いておくべきだ」と強調した。


 今回の研修会には、北海道から沖縄までの全国の看護師が参加。懇親会やグループ討議を含め、研修会でそれぞれが抱えている問題や悩みを共有したとみられる。参加者の終末医療の分野へのより大きな寄与を期待したい。

写真:富永夏子