伝統医療活用プロジェクト

伝統医療を使った、医療サービスへのアクセス改善を支援しています

世界には、今もなお医療や薬にアクセスできず、非常に多くの人が苦しんでいます。日本財団はこのような現状を克服するために、どうすれば良いかを常に考え、行動してきました。そこで、長い歴史の中で人々の知恵と技術によって熟成された伝統医療の活用こそが重要な役割を果たすという考えに至りました。    伝統医療の活用促進を図る日本財団の主な活動として、2003年のWHOによる初の伝統医療ワールドサーベイへの協力、そして現在ではモンゴルでの置き薬プロジェクトなどの実践活動を通じて、伝統医療を活用したプライマリーヘルスケアへのアクセスシステムの構築に力を注いでいます。

1. WHO(世界保健機関)への支援 (1億3,600万円)

2003年以来、WHOに対し加盟国の伝統医療の政策・法規制に関するサーベイへの助成、中央アジア15カ国の薬用植物モノグラフ作成の支援、国際会議の共催などを実施してきました。

写真:伝統的医薬品に関してWHOと共同開催した国際会議の様子

1. WHO加盟国伝統医療サーベイ(第一回2003〜2005年、第二回2008年〜)

2. 中央アジア、黒海沿岸地域における薬用植物モノグラフの作成(2005〜2007年)

中央アジア地域、における重要な薬用植物の選定、モノグラフ掲載文のドラフト執筆、既存のモノグラフ文書の翻訳、及び中央アジア・黒海沿岸諸国の薬用植物を対象としたモノグラフの作成に対する支援

3. 伝統医学国際会議の開催(2007年8月)

2007年8月、モンゴルウランバートルにてWHO・日本財団共催で伝統医療に関する国際会議を開催

4. WHO伝統医療国際会議実施に対する支援(2008年11月)

WHO伝統医療国際会議(北京)において、ASEAN10カ国のうち、シンガポール、マレーシア、ブルネイを除いた、7カ国(インドネシア、フィリピン、ベトナム、タイ、ミャンマー、カンボジア、ラオス)に対し、上限2人/国まで、会議参加者の旅費を支援。(助成金額: 20,000米ドル)伝統医療に関する北京宣言が採択された。

その他
SARS治療臨床例における伝統医学の有効性の検証(2003年)

SARSの症例の調査と分析を行い、SARS対策に有効な伝統医療と西洋医療との混合治療についてレポートをまとめ、今後SARSの有効な治療法の開発に役立てることを目的とし実施した。

2. モンゴル伝統医療普及プロジェクト(2004年〜)(5億4,000万円)

2003年以来、WHOに対し加盟国の伝統医療の政策・法規制に関するサーベイへの助成、中央アジア15カ国の薬用植物モノグラフ作成の支援、国際会議の共催などを実施してきました。

写真:薬箱を持つモンゴルの家族

1. 3つの柱

  1. 伝統医薬品の「置き薬」の配置
  2. 伝統医療に関する医師への研修
  3. 伝統医療の医師による巡回医療サービスの提供

2. 事業実施地域:8県35郡20,000世帯(約100,000人)

3. 置き薬キットの配布と代金回収

  • 価格:約10米ドル/箱(薬含)
  • 内容:12 種類のモンゴル伝統医薬品で構成する。「基礎薬」(9種類:腹痛や下痢 止め、解熱剤など)と、地方で多発する病気の種類を考慮して選択する「選択 薬」(12種類の腎臓病、心臓病、肝臓病、関節痛などの痛みを一時的に抑 える薬の中から3種類を選択する)で構成。また、体温計、包帯、脱脂綿、 バンドエイド、消毒用アルコールが医療備品として付属。
  • 方法:地方病院の医者・保健士による家庭訪問・代金回収
  • 代金回収率:93%(2006〜2008年平均)
  • 遊牧世帯からの往診依頼数:最高で45.2%減(エルデンサント郡)
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開始当初の包装

4. 伝統医学に関する医師への研修

  • 受講者:西洋医学の医師中心、2004年度〜2008年度:合計約1,000名
  • 研修期間:1日8時間、6日間
  • 研修内容:伝統医学基礎知識研修、置き薬の使い方
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現在の包装

5. 伝統医療医師の巡回医療サービス

  • 実施者:伝統医療医師5名
  • 実施場所:置き薬配置地域の郡病院
  • 実施回数:年1回(夏)
  • 診察者数:
    2004年度 約2,000人
    2005年度 約4,000人
    2006年度 約2,000人
    2007年度 約2,000人
    2008年度 約1,250人

なお、モンゴル大統領と日本財団笹川会長との面談(2010年10月)の中で2012年よりモンゴル政府が事業を引き継ぐことが合意された。また、2004年以降当事業の管理・運営をしてきたNGOワンセンブルウ・モンゴリアと保健大臣との間で、2012 年1 月1 日より保健省が本事業を引き継ぐことを目途として、両者で引き継ぎのための活動計画を策定する内容のMOUを2010 年10 月29 日付で締結した。ただし、移行期間中は、医師への研修などは引き続き、ワンセンブルウ・モンゴリアが政府からの委託を受けて実施する。

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家族の薬箱

3. タイにおける伝統医療置き薬事業(2009年1月〜)(8,600万円)

タイでは無料で医療サービスをうけることができるため、医療費が増大している。このような中、タイ保健省は医療支出を最小限に抑えることを目指し、置き薬システムを導入した。また、タマサート大学などの公衆衛生の有識者の協力のもと、置き薬システムの有効性を検証し、伝統医療を活用した医療サービスモデルを構築することを目的としている。

写真:さまざまな種類の置き薬

1. 対象地域:

北部・中部・北東部・南部それぞれの地域において、都市部・都市郊外部・農村部の各町、合計12町、10,070世帯(Chiengrai 2,000、Suphanburi 2,000、Srisaket 5,300、Suratthani 770、Total 10,070)

写真:薬箱とその中身、プロジェクトのポスター

2. 価格:

1,000バーツ(約32米ドル)/箱(薬含)

3. 内容:

タイ保健省管轄の国立病院二ヶ所で製造されている20種類のタイ伝統薬。薬箱は風邪薬、解熱剤、下痢止めなどの錠剤、筋肉痛、虫刺され用の塗り薬、またアルコール、脱脂綿、ガイドブックから構成される。

4. 方法:

タイ国内で、合計80万人登録されている「ヘルスボランティア」が薬の代金回収と補充を行う。(10世帯/1ヘルスボランティア)データ分析は、タマサート大学の教授からなる専門家委員会が実施。

5. 2008年度助成金額:USD 346,800 事業費総額: USD 650,400
2009年度助成金額:USD 229,400 事業費総額: USD 533,000
2010年度助成金額:USD 285,000 事業費総額: USD 1,282,000

  • 日本財団助成割合:35% (タイ保健省資金:USD 1,604,200)

6. 2010年9月末までに第一回データ分析・評価・報告書を作成し、これをもとに2010年〜 2012年に10,000世帯の第二回データ分析・評価・報告書を作成。両報告書ともに、国内・ 国際会議にて発表予定。

7. マヒドン大学社会学教授をリーダーとして、保健衛生、コミュニティ開発、公共政策、ビジネスモデル、サステイナビリティなどのテーマを設定し、伝統医療置き薬配布地域 での研究公募を実施する予定

4. ミャンマーでの伝統薬置き薬事業 (2009年2月〜)(6,000万円)

2007年にモンゴルでの国際会議で紹介された伝統医療置き薬システムを参考に、ミャンマー保健省が「置き薬」を独自にアレンジし、1村につき1箱という仕組みで2008年度にパイロットプロジェクトを開始。この有効性が確認されたことから本格導入に向けて日本財団が協力し2009年より3年間で全14州において1州あたり500村、合計7,000個を配布。2014年3月までに28,000村(14州の各2,000村)への配布を目標とする。また2012年はタイ国境のカレン州からの要望を受け、カレン州全村(約4,000村)への配置を計画中。

写真:ミャンマーでの置き薬配布の様子

1. 価格:

12.5米ドル/箱(ミャンマー伝統医薬品、箱、ガイドブック)

写真:薬箱とその中身

2. 内容:

7種類の伝統医薬品(咳止め薬、解熱剤(2種)、強心薬、目の薬、下痢止め、鎮痛軟膏)、体温計、ガーゼ、包帯、消毒用アルコール、薬草系アルコール、絆創膏、ミャンマー伝統薬品に関する小冊子で構成される。

3. 事業実施地域:

7,000村(ミャンマー全14州の各500村) 現在、2014年3月までに28,000村(14州の各2,000村)を目標としている ※ミャンマーには65,000の村がある。 各年ごとの開始地域:
2009年:4州(ヤンゴン管区、イラワジ管区、ザガイン管区、バゴー管区)
2010年:5州(モン州、マンダレイ管区、マグウェイ管区、カチン州、シャン州)
2011年:5州(タニンダーリ管区、カヤー州、カレン州、チン州、ラカイン州)

4. 日本財団は薬箱、ガイドブック、また伝統医療に係る人材育成(薬局方の作成、研究所の整備、日本からの専門家の派遣等含む)に係る費用を助成。現在、保健大臣を議長とした薬局方作成委員会により20種類の薬草(薬箱の7種すべて含む)のミャンマー薬草薬局方を作成中。また、ミャンマー保健省伝統医療局所属の研究者2名が富山大学和漢医薬学総合研究所にて2011年12月より2012年2月(3か月間)で研修を実施。

5. ASEAN伝統医療国際会議の開催(2009年〜)(6,000万円)

ASEAN加盟国間での継続的な伝統医療分野における情報共有や交流活動のための国際会議を5年間開催する。1年ずつ開催地を変え、開催国保健省の持ち回りで運営する。第一回目はタイ保健省主催で、バンコクにて2009年8月31日から3日間で開催した。

  • 5年間にわたり毎年開催国をかえ、「ASEAN伝統医療国際会議」を開催することで、ASEAN加盟国間でのプライマリーヘルスケアに係る伝統医療分野での情報、経験、専門知識の共有を促進することを目的とする。2009年の第1回会議では、伝統医療分野における研究開発について加盟国間の協力による枠組みと作業計画の作成に重点を置き、一般的に使われている薬草の農業行動規範(GAP)の基準に基づく栽培、生薬の基礎研究及び臨床研究、また、全国薬草薬局方の作成に向けた生薬材料と薬草の調合に関する規格と仕様を中心に情報共有を行った。また、日本財団が支援中のモンゴル、タイ、ミャンマーの伝統医療置き薬システムについてのディスカッション、医療制度への伝統医療の統合、伝統医療の促進活動においてNGOが果たす役割、伝統医療の知識の保護、などのトピックについての加盟国間のディスカッションも推進した。会議最終日にはバンコク宣言が発表された。(1,900万円/1回) 2010年は10月31日〜11月2日にベトナム、ハノイにて開催。
写真:ASEAN伝統医療国際会議の様子

2011年は10月31日〜11月2日にインドネシア、ソロで開催。
2012年はマレーシアにて開催予定。
会議には伝統医療局長をはじめ、品質管理や生薬栽培の専門官、大学教授などが参加し、10か国間の情報共有をはじめ、教育・トレーニング、共同研究などテーマごとに多国間協働プロジェクトの企画作りが始まっており、ASEAN Foundationへの事業申請も検討されている。

6. カンボジアでの国立伝統医療学校の整備(2009年4月20日開校)

カンボジア保健省が国内の伝統医療システムを整備するため、国内初となる国立伝統医療専門学校を開校した。3階建ての建物はカンボジア政府により建設され、2009年4月20日に開校、5月18日より授業が開始された。カンボジアでは伝統医療に関する法律、制度が整備されておらず、国内の伝統医療従事者の正確な人数なども把握されていないため、当学校開校を機に伝統医療の基盤整備を実施中。

写真:国立伝統医療専門学校の授業の様子

1. 生徒対象者:

原則10年以上の経験を持つクルクメール(伝統医療従事者)

2. 内容:

薬理学、解剖学などの講義、マッサージ、鍼灸の実習などの授業を行う。半年間(450時間)の認定コースからスタートし、カンボジア伝統医療従事者の研修のみならず、国内の伝統医療従事者ネットワーク構築を図る
2009年度卒業生は50名(男性39名/女性11名、平均43歳)
2010年度卒業生は上級コース(6カ月)50名、中級コース(10カ月)49名。

3. 2010年6月より学校運営全般を担当するNGO「カンボジア伝統医療協会」が新たに発足。

4. 2011年より卒業後の情報共有のための卒業生組合が発足。

5. 日本財団は、新学校のカリキュラム作成のための日本からの専門家の派遣費用、カンボジア薬草薬局方作成支援、カンボジアの専門家の海外への派遣費用、現地指導者、受講生への支援等を実施。(2,000万円)