“生の芸術”アール・ブリュットがアート界を刺激する
豊かな文化

はじまりの美術館【福島県】−−アール・ブリュット美術館へ行こう!(5)


2014年6月、福島県猪苗代町に東日本大震災でも崩れずに残った酒蔵をリノベーションして「はじまりの美術館」がオープンした。地元住民がコンセプトから運営方法まで主体的に関わりながらつくり上げたアール・ブリュット美術館だ。

アール・ブリュット支援事業は、「日本財団DIVERSITY IN THE ARTS」として展開しています。
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2014.07.08

はじまりの美術館は、「福祉」、「アート」、「地域再生」、「東北復興」というさまざまなテーマがクロスするまったく新しいタイプのアール・ブリュット美術館だ。
「はじまりの美術館には、さまざまなはじまりがあります」と館長の岡部兼芳さんは言う。「アール・ブリュットとの出会いのはじまり、人と人とのつながりのはじまり、福島のコミュニティ再生のはじまり…。一人ひとりが何かをはじめることで、地域を活性化させる新しい動きがここからはじまればいいなと思っています。

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東日本大震災の影響を受けて

美術館を運営するのは、社会福祉法人「安積愛育園」。同県郡山市を拠点に障害者の支援施設を運営し、利用者の表現活動にも積極的に取り組んできた。同園の事業所に通う伊藤峰尾さんの作品がパリの「アール・ブリュット・ジャポネ」展で展示されるなど、その活動は高い評価を受けている。館長に就任した岡部さんも同園で長年こうした活動に携わってきた一人だ。

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同園では2010年頃からアール・ブリュット美術館の建設準備を日本財団とともに進めてきたが、大きな痛手となったのが2011年に起きた東日本大震災だった。原発事故の影響もあり先行きが見えないため準備が中断したが、その危機を救ったのが「New Day基金」だった。

同基金は、震災後、クリスティーズNYで行われた東日本大震災復興のためのチャリティオークションの売り上げが原資となっている。「アートの力で東北復興を」と国内外のアーティストに呼びかけたアートプロデュース企業カイカイキキを中心に行なわれたオークションの総売り上げは、約6億8000万円。日本財団に寄付されたその売り上げの半額をもとに同基金が設立された。

同基金のコンセプトは、「東北から新しい日本をはじめる」。このアール・ブリュット美術館が最初の助成案件となり、コミュニティ再生の拠点としての機能を加えて、準備が再開されることになった。

コミュニティの再生拠点として

美術館として再生されたのは、かつての商店街の一角に建つ築120年の酒蔵。時代とともに縫製工場やダンスホールへと姿を変えながらも、地元の人々に愛されてきた。老朽化と東日本大震災の影響で“瀕死(ひんし)”の状態にあった蔵を、建築当時と同じ釘を使わない工法で1年以上かけて美術館としてよみがえらせた。
内部は当時の梁(はり)や柱をそのまま残すなど、木をふんだんに使った温もりのある空間になっている。エントランスで靴を脱ぎ作品を鑑賞していると、床に敷き詰められた木レンガの感触がとても気持ちいい。

開館記念企画展「手づくり本仕込みゲイジュツ」には、伊藤峰尾さんなどアール・ブリュット作家と現代美術作家による作品が計36点展示された。収蔵品は持たず、独自の企画展を順次開催していく予定だ。

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写真はじまりの美術館には展示スペースの他に、入場料を払わず気軽に立ち寄れる空間が設けられている。誰もが自由に通り抜けできるエントランスホールや多目的カフェは、地域住民に開かれたフリースペースだ。休憩したり、宿題をしたり、会議をしたりと使い方は自由。もちろんワークショップや料理教室を開くなど、住民が企画してこのスペースを使うこともできる。

こうした住民参加型の美術館をつくるにあたって、これまで150の地方自治体の活性化事業に取り組んできた「studio-L」がコンセプトづくりの段階から関わってきた。「1年間かけて、地域の人たちを巻き込んでやってきました」と代表の山崎亮さんは言う。「観光客が押し寄せるような美術館を目指すのではなく、地元の人たちが少しずつでも関わっていける場所になってほしい。まず自分たちの美術館だと愛着を持ってもらうこと。そこからすべてがはじまります」

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DATA

住所:福島県耶麻郡猪苗代町4873
電話番号:0242-62-3454
営業時間:10:00〜18:00
休館:火曜(祝日の場合は開館、翌日休館)
料金:一般 500 円、65歳以上・中高生 250円、小学生以下・障害者と付添の方(1名まで) 無料 (ただし展覧会によって変わる場合あり)
HP:http://www.hajimari-ac.com/

撮影・パノラマ製作:染瀬 直人