芸術やスポーツで豊かな社会を
豊かな文化

飲みながら、食べながら、野外で文楽を楽しむ


日本を代表する古典芸能である文楽。その価値を再認識してもらうことを目的に、「にっぽん文楽プロジェクト」がスタートし、初公演が2015年3月19日から22日までの4日間、六本木ヒルズアリーナで開催される。2020年の東京オリンピックまで、東京と大阪を中心に年2回行われる屋外空間での文楽公演の幕が開ける。

2015.03.13

遊芸としての文楽を身近に感じてもらう

写真 人形浄瑠璃・文楽は、ユネスコの世界無形文化遺産にも登録されている世界に誇るべき日本の古典芸能だ。三人で一つの人形を操ることで可能となった豊かな表現力は、人形劇の最高峰として世界でも高く評価されている。
しかし、本拠地・大阪での観客数の伸び悩みや、橋下徹大阪市長の公益財団法人文楽協会に対する補助金見直しなどで厳しい状況に置かれている。こうした状況を打破し、文楽の魅力を多くの人に再認識してもらい、日本の宝として後世に残そうという機運を高めるため、日本財団は「にっぽん文楽プロジェクト」を旗揚げした。

写真 総合プロデューサーの中村雅之・横浜能楽堂館長は「今回のプロジェクトのコンセプトは、“遊芸”に立ち返ることです」と語る。
「江戸時代の人々は、寺院や神社の境内や河原に仮設舞台を設け、茣蓙(ござ)を敷いて弁当を食べたり、酒を飲んだりしながら文楽を楽しみました。庶民の娯楽だったわけです。現代では劇場で鑑賞するのが一般的ですが、かつてはもっと開放的で遊芸としての雰囲気に満ちていました。文楽本来の姿を再現することで、今回の舞台を見た人たちが文楽を身近に感じ、もっと大事にしようという気持ちになってくれるのではないか。そんな思いを込めて、今回のプロジェクトを始めました」

文楽の復興を目指す取り組みとしては、無形文化財の保存継承という観点では文楽協会や大阪と東京の国立劇場が中心となって公演と普及活動を行っており、文楽の新しい可能性を切り開くという意味では、現代アーティストの杉本博司氏や劇作家の三谷幸喜氏が新作を発表している。そこで「にっぽん文楽」は第三の道を探った結果、「遊芸」という芸能の原点に辿りついたという。
写真初回公演は、気軽にたくさんの人が集まれるよう六本木ヒルズの屋外アリーナスペースに舞台を作り、そこで文楽を上演する。高層ビルに囲まれたモダンな野外空間に、古典的な遊芸の世界を再現しようという大胆な試みだ。

写真同プロジェクトの立ち上げから関わってきた人形遣いの桐竹勘十郎さんは、「これまでとはまるで違った公演の形態ですが、文楽の裾野を広げる意味で大きな意義があると思います」と期待を寄せる。勘十郎さんは、日本芸術院賞を受賞した文楽界の重鎮だ。
「現在、文楽が敷居の高いものになっているのは事実です。芸術性が高くなったのはいいことですが、その反面、気軽に楽しむ人の数が減ってしまった。初回公演が行われる六本木ヒルズの会場は吹抜けになっていて、周囲のビルなどからも覗くことができます。初めて見る人や若い人たちがふらっと立ち寄って、なんだか面白そうと感じてくれるだけでも文楽の未来を明るくしてくれると思います」

写真

ホンモノにこだわった本格的な組み立て式舞台

写真 野外に仮設舞台を作り、開放的な雰囲気の中で飲み食いをしながら文楽を楽しむ。そうした遊芸としての文楽を実現するためには、舞台と客席が一体となった劇場空間を創出することが重要になってくる。仮設というとテントやべニヤ板などで作った簡易なものが連想されるが、同プロジェクトでは総工費1億円をかけて幅19.7メートル、高さ6.7メートルの本格的な組み立て式の移動舞台を完成させた。
「あくまでホンモノにこだわらないと、文楽の素晴らしさは伝わらない」と中村プロデューサーは言う。
「茶室や能舞台などは何度も再生可能な組み立て式建築です。今回の舞台もそうした日本古来の木組みの技術を採り入れ、分解して移動することができます。素材にもこだわり、銘木の産地・吉野から切り出されたヒノキ材をふんだんに使っています。舞台の上層に唐破風を設け、正面に彫金を施すなど華やかな雰囲気を出すため意匠面でも工夫を凝らしました」

写真設計は能舞台や寺社の建築を手掛けてきた田野倉建築事務所、施工は宮大工集団・菜の実建築工房が行った。耐震性や耐風性を考慮して、昔ながらの伝統工法に現代的な工法が加えられている。福岡県筑紫野市にある同工房で組み上げた舞台は、分解して4トントラック12台に乗せ会場となる六本木ヒルズまで運ぶ。約40時間で組み立て、終演後は分解して次の公演まで群馬県の倉庫で保管する。

写真

飲食自由の開放感あふれる劇場空間

客席には床几(しょうぎ)を置き、300名ほどが腰かけて舞台を見る。舞台と客席は全長120メートルの幔幕(まんまく)で周囲を取り囲こんだだけで、天井のない開放感あふれる劇場空間となっている。幔幕にもこだわり、木綿に刷毛で染めたものを新調した。化繊にプリントすればコストは下がるが、やはり伝統的な染織物の持つ風合いを伝えたかったそうだ。

写真

写真 上演中の飲食も遊芸の重要な要素なので、販売する弁当にもこだわった。大阪を代表する料理茶屋「大和屋三玄」の特製弁当で、串にさして食べられる一口サイズのおかずが詰まっている。箸を使うとどうしても下を見て食べることになるが、この弁当なら舞台から目を離さずに食事を楽しむことができる。

写真初回公演に出演する人形遣いの吉田玉女(たまめ)さんは「劇場とは違った雰囲気で、寛ぎながら楽しめる文楽をお見せしたい」と抱負を語ってくれた。
「4月に二代目吉田玉男を襲名するため、玉女としての公演はこれが最後となります。玉女の使い納め、『にっぽん文楽』のこけら落としとして、祝儀物の『二人三番叟(さんばそう)』を精一杯務め上げさせていただきます」

「にっぽん文楽プロジェクト」は、2015年3月の六本木での公演を皮切りに、東京オリンピックが開催される2020年まで東京・大阪を中心に全国で巡回公演を行っていく予定だ。日本財団は舞台制作費1億円を含め、計1億5000万円を支援。文楽の将来を国民全体で考えるきっかけにしたいと考えている。

写真

「にっぽん文楽」公式ウェブサイト

撮影:大沢 尚芳、三輪 憲亮