難病の子どもたち、その家族に笑顔を
子ども・若者の未来

難病の子どもと家族を社会が支える仕組みをつくる


完治が難しい病気等と闘い続ける子どもたちと24時間体制で医療ケアのサポートを担う家族の苦労は一般にはあまり知られていない。日本財団では難病児が子どもらしく過ごし、家族が一息ついて笑顔を取り戻せるように、ソフト面、ハード面からさまざまな支援を行っている。

2015.03.06

全国で約20万人の医療依存度の高い子どもたち

小児がんや先天性心疾患など、かつては助からなかった子どもの命が、医学の進歩により救われることが可能になってきた。その一方で重い障がいが残るケースや、退院しても日常生活に医療器具の助けが必要になる子どもたちも急増している。現在、医療依存度の高い子どもは全国で約20万人といわれる。しかし、こうした子どもたちを支えるサービスや施設は、日本では十分に整備されているとはいえない状況にある。

現在の日本の医療政策では、急性期が過ぎて症状が安定した患者は長期入院させず、在宅療養生活に移るケースが多い。難病児が退院して自宅に戻った場合、気管切開して取り付けた人工呼吸器や、胃から栄養を摂取するための胃ろうなど、生命の維持には医療器具が欠かせない場合も多く、在宅での医療ケアは主に家族が担うことになる。
毎日24時間365日体制での介護は精神的、肉体的、経済的に大きな負担を強いられる。病気の子ども自身も普通に学校に通ったり外で友だちと遊んだりする本来の子どもらしい生活は許されない。また、両親が難病児の世話を優先せざるを得ないため、兄弟たちにもストレスがかかる。在宅療養の長期化に伴い家族は疲弊する傾向にあるという。

写真:大阪市立総合医療センター緩和医療科部長の多々羅竜平氏大阪市立総合医療センターの多々羅竜平・緩和医療科部長は、英国で小児緩和ケアを学び、早くから難病の子どもたちへのサポートの必要性を訴えてきた。現在は日本財団も協力する大阪府内の「TSURUMIこどもホスピス」にも携わっているが、難病児と家族のためには、これまでの医療機関中心の考え方から、社会全体で支えるサポート体制が必要だと語る。
「日本の医療技術は世界のトップレベルで、多くの難病の子どもたちの病気を治すことができるようになりました。しかし、残念ながら治すことができずに死を迎える方、完治できずに治療を続けながらの生活を余儀なくされる患者さんもいます。命を脅かす病気と闘いながら限られた時間を幸せに生きること、障がいがあっても質の高い生活を送ることを実現するには医療技術とはまったく違う専門性が必要です。子どもたちが病気を忘れて普通に友達と遊べ、難病児の家族が周囲に気兼ねなく子どものケアを任せて休息でき、さらに健康上の安全も保障されているような場所や時間を提供できることが望ましいのです。難病児とその家族は、治療や介護のために地域で孤立しがちになります。彼らが社会の中で生きていくためのシステムをつくるには、公的な制度だけではなく、民間の支援が必要だと考えています」

病気を忘れて子どもらしい笑顔を取り戻す支援を

日本財団では、病気と闘う子どもたちと、介護が大きな負担となっている家族のために、専門性の高いNPOなどと協力して、看護師などの訪問サービス、難病児の家族旅行支援、難病児向けのキャンプ場開設など、さまざまな形で支援活動を行ってきた。

写真糖尿病の子どもたちが症状の自己管理の方法を学ぶための「小児糖尿病キャンプ」への支援は40年以上継続している。2009年から、日本歯科医師会とともに歯科治療や入れ歯に使う金属を換金する寄付プロジェクト「TOOTH FAIRY」を開始。子どもが抜けた乳歯を枕元に置くと歯の妖精がプレゼントと交換してくれるという西洋の言い伝えから名づけられたことから、その寄付金で難病の子どもたちを中心に、本当に助けを必要としている子どもたちに“夢”を届けている。

写真

ソーシャルイノベーション本部福祉チームの相澤佳余が日本財団の難病児向けの支援活動について説明する。
「これまで支援してきた難病児向けの活動は、外出先の整備や旅行の支援、イベント開催など、子どもたちにとって『特別な日』となるような活動が多かったかもしれません。行政の福祉サービスの範囲外で、民間の立場で子どもたちのために大切だと判断して提供するサービスでした。しかし、まちの中で子どもと家族に寄り添い、日々の生活を支える活動へのニーズにも応えたいと思います。デイサービスなど公的な制度の枠組みの中で運営する施設の整備などを計画しています。まずは、施設を運営できる人材の育成から取り組んでいます」
この他、小児ホスピス、レスパイト活動を行う団体の実務者が集まり、事例や課題の共有を行うためのネットワークづくりも進め、活動内容の充実を図っている。

難病の子どもたちへの主な支援活動

重度の障害を持つ子どもが参加できるキャンプ

「がんばれ共和国」(特定非営利活動法人難病のこども支援全国ネットワーク)

医師や看護師も同行して、吸引や経管栄養、酸素の管理等の濃厚な医療的ケアを日常的に必要としている子どもたちでも安心して参加できるキャンプを毎年全国8カ所で実施。海水浴や乗馬体験など普段の生活ではできないような「初めて」を体験できる。「TOOTH FAIRY」の支援事業のため歯科医師がボランティアとして参加し無料の歯科検診が行われることも。

「そらぷちキッズキャンプ」(公益財団法人そらぷちキッズキャンプ)

北海道滝川市に敷地16haの難病児専門のキャンプ場建設を支援。医師、看護師、ボランティアによる医療的バックアップがある中で、難病児も自然の中で安心して安全に楽しく過ごせる自然体験プログラムに参加できる。主治医がキャンプに同行するケースも。2009年に施設の一部利用を開始、2012年に施設が完成。夏季は森林や動物とふれあい、冬季は雪遊びなどのプログラムが実施されている。

トラベルサポート

「ウィッシュ・バケーション」(公益社団法人 難病の子どもとその家族へ夢を)

移動の負担や金銭的な問題で家族旅行ができない難病児とその家族のために東京ディズニーランドや浅草、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンへの旅行を提供するプロジェクト。テーマパークで遊ぶだけでなく、美容院でのヘアカットや商店街での買い物など孤立しがちな難病児の家族が社会と触れ合う機会も設けられている。家庭内では難病児の介護が優先され我慢を強いられることもある兄弟たちも思い切り笑顔で遊べると好評。1回の旅の定員は2家族で年間30家族が参加予定。

小児糖尿病キャンプ(公益社団法人日本糖尿病協会)

生活習慣に関係なく発症する1型糖尿病患者の小・中・高校生を対象に全国の各都道府県で3日から7日間のキャンプを実施。子どもたちが自然の中で集団生活を通じてインスリン自己注射や血糖自己測定など自己管理に必要な糖尿病の知識・技術を身につけるとともに、同じ病気と闘う仲間を作る場となっている。医師、看護師、栄養師のほか、高校卒業後の患者がボランティアとして多数参加しているのが特徴。キャンプ参加経験を通じて、看護師や栄養師を目指す子どもたちも多い。1967年から毎年開催され、日本財団の支援も約40年間に及ぶ歴史のあるプロジェクト。

小児がん専門施設

「チャイルド・ケモ・ハウス」(公益財団法人 チャイルド・ケモ・ハウスサポート基金)

抗がん剤の副作用により免疫力が低くなる小児がんの子どもたちが、感染のリスクにおびえずに、家族とともに子どもらしい時間を過ごせる日本初の専門施設として、医療機関が集中する神戸市のポートアイランドに建設された。

小児ホスピス

「TSURUMIこどもホスピス」(一般社団法人こどものホスピスプロジェクト)

英国の世界初の小児向けホスピス「ヘレン&ダグラスハウス」との交流を通じて開設される日本で初めてのコミュニティ型ホスピス。日本でイメージされる終末期医療が行われる場所ではなく、「Live Deep / 深く生きる」をコンセプトに生命にリスクのある子どもとその家族が、安心し、気軽に立ち寄れる、心の拠り所となる施設を目指す。株式会社ユニクロと日本財団が協力してプロジェクトを支援。

「こどもホスピス」ウェブサイトはこちら

撮影:川本聖哉ほか