難病の子どもたち、その家族に笑顔を
子ども・若者の未来

“深く生きる”ための子どものホスピス


「命のリスクが高い子どもたちに、子どもらしく過ごせる空間を提供したい」。2015年3月、日本で初めてのコミュニティ型ホスピス「TSURUMIこどもホスピス」が、日本財団と株式会社ユニクロの協力で大阪に建設されることが発表された。ホスピスの運営を担当する一般社団法人「こどものホスピスプロジェクト」の活動を紹介する。

2015.03.06

日本で初めての子どもを対象としたコミュニティ型ホスピス

CG3月6日、大阪市立総合医療センターで「TSURUMIこどもホスピス」建設の発表記者会見が行われた。医療や福祉など既存の制度にとらわれず、地域社会の中で病気の子どもと家族を支えていく、日本では初めてのコミュニテイ型ホスピスだ。会見では、ホスピスの運営を担当する一般社団法人「こどものホスピスプロジェクト」(CHP)から設立の経緯と運営方針が説明され、設計を担当した大成建設株式会社から設計コンセプトと完成のイメージが披露された。

写真:壇上で話すプロ車椅子プレーヤーの国枝慎吾選手写真新しいホスピスの重要なコンセプトの一つが「病気であることを忘れられる」場所をつくること。ゲストのプロ車いすテニスプレーヤーの国枝慎吾選手は小児がんを克服して、世界一のプレーヤーになった経験を語った。
「抗がん剤治療を終えて小学校に復学した時、自分が病気であることを忘れられるように友達が接してくれて、闘病も車いす生活も辛く感じることがなく、今日まで挑戦を続けてこられました。新しいホスピスで『病気であることを忘れられる』ことは、子どもたちにとって非常に大きいと思います」

写真:株式会社ユニクロ代表取締役会長兼社長の柳井正氏写真:日本財団の笹川陽平会長また、株式会社ユニクロの柳井正・代表取締役会長兼社長は「グローバル化を進めると、逆にローカルな社会に対しての貢献が求められるようになります。企業として行政の手が届かず、民間だからできることを支援したいと考えてきましたが、こどものホスピスはまさにそういうプロジェクト。今後の展開にもできるだけ協力したいと思います。ユニクロの社員をボランティアとして参加させたい」と述べた。日本財団会長の笹川陽平も「あらためて今回のプロジェクトの成功に自信を持ちました。これを機に全国に子どものホスピスを広げていきたい」と抱負を語っていた。

「こどもホスピス」ウェブサイトはこちら

難病の子どもを持つ親同士がつながりを持つ場所

ホスピスの運営を担当するCHPは、これまでも日本財団の支援を受けながら、難病の子どもとその家族のための活動を続けてきた実績がある。

2月14日、小学校入学を控えた難病の子どもたちが家族と一緒に学校生活を体験するCHP主催の「わくわくプレスクール」が大阪府内の特別支援学校の一室を借りて行われた。医療依存度の高い子どもがボランティアの力を借りて楽器に触ったり、リズムに合わせてスカーフを振ったりして音楽を楽しむ。同行の兄弟たちはマジックショーに大はしゃぎして走り回る。そんな子どもたちの様子を見て、親たちも思わず笑顔に。土曜日で人気の少ない校舎に、一日中子どもたちの笑い声が響いていた。

日常生活において医療機器の助けが必要な子どもたちや、病気の影響による障害などで一般の小学校には通えない子どもたちは、特別支援学校や特別支援学級のある学校に入学する。受け入れ体制は整っていても、学校側の設備や送迎の状況など、入学前の親たちの不安は大きいという。こうした不安に応え、病気を持つ子ども同士、親同士の交流の場を提供するのがこのプレスクールの役割だ。看護や保育の専門知識があるボランティアのサポートによって、この場にいる間は親たちも24時間365日休みなく続く介護の緊張感から開放される。子どもたちが遊んでいる間に保護者会も開かれ、特別支援学校の教員や小中高校の保護者代表なども参加し、学校生活の準備や不安解消のための情報交換が行われた。

参加者の母親の一人は「家では弟を気遣って大人しくしているお兄ちゃんが元気に遊んで喜んでくれたのがうれしかった。学校に実際に通っている方のお話を聞くことはなかなかできないので入学前に経験者のお話を聞けて本当に良かったです」と話した。

母親が元気になると、子どもたちが笑顔になる

写真:CHPの高場秀樹理事長CHPの高場秀樹理事長は「お母さんが笑顔になると、子どもたちも元気になれます。だから、お母さんの笑顔を引き出すような場所を提供したいのです」と話す。
現在CHPでは、プレスクールのほか、家族が集まって季節のイベントを楽しむ「わくわくタイム」や、遊びの専門家が自宅を訪問するサービスなどを実施しているが、2010年の設立時からの目標は、組織の名前の通り、日本に子ども向けのホスピスを建設することだ。現在実施中の活動は、家族だけで外出が可能な子どもや、送迎があれば通学が可能な病状の子どもを対象としているが、CHPが目指すホスピスは、さらに命のリスクが高い病気の子どもが利用者の中心になることを想定している。

高場さん自身も、病気と闘いながら暮らす男の子の父親だ。
「ある日突然、難病の子を持つ親の立場になり混乱する中で、お世話になった大阪市立総合医療センターの先生方から、英国には病気の子どもが遊んだり、学んだり、いろいろなことを実現できる場所があるという話を聞きました。そこで、先生方と一緒に『日本にないなら作りましょう』とCHPを立ち上げることになりました」と、活動のきっかけを語る。
「日本では、私たちが家族で食事に行こうとすると、事前に受け入れ体制を調べたり、移動のためのサポートを頼んだりと大仕掛けになります。気兼ねなく集まることができる場所、子どもたちが遊べる場所がほしいと思ったのです」

「同世代の子どもと同じ経験を生きる」という理想を目指して

高場さんらが理想としているのは、英国に1982年に開設された世界初の子どものホスピス『ヘレン&ダグラスハウス』の活動だ。『ヘレン&ダグラスハウス』は、オックスフォードの修道院のシスター・フランシスが知人の難病の娘を預かった経験を契機に開設された。医師、看護師、理学療法士から、音楽や遊びまでのさまざまな分野の専門家がそろい、それぞれの子どもに合った過ごし方ができる。公的保険や寄付によって運営されており、経済的な負担がかからず、年に2〜3週間の利用が可能だ。ここで死を迎える子どももいるが、それ以上に病気の子どもたちと家族がその人らしく楽しく過ごせる場所として認識されている。

2009年、シスター・フランシスが来日、大阪で交流セミナーが開かれ、高場さんも参加した。そのときのシスターの言葉が、CHPの活動の理念になっている。
「私たちは、生命にリスクのある子どもとその家族が、深く生きて行くためのお手伝いをしています。どんな病気になっても、同世代の子どもたちと同じ経験を生きることが大切です」

「TSURUMIこどもホスピス」の開館に向けて高場さんが抱負を語る。
「難病の子どもとの暮らしで孤立しがちになる家族にとっては、現在のプレスクールのような活動でも、社会との関わりが増えることで喜ばれていると思います。新しいホスピスは、命のリスクが高くさらに外に出ることが難しい子どもたちと家族にも来てもらうことができます。そういう子どもたちと家族にもつながる場所を提供できるのではないかと考えています。これまで病気のために損なわれていた時間を、私たちの活動で楽しい時間に変えてもらいたいと思います」

撮影:コデラケイ(記者会見)、川本聖哉(わくわくプレスクール)