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ミャンマーで富山発祥の「置き薬」が命を救う


使った分だけ後で払い、薬を補充する「富山の置き薬」。モンゴル、タイに続いて、ミャンマーでも、この日本のビジネスモデルをアレンジした医療サービスの定着に向けて、努力が続けられている。

2013.03.04

日本のビジネスモデルをミャンマー風にアレンジ

「富山の置き薬」は薬品販売業界で日本が生んだ独自のビジネスモデルとして知られている。各家庭にまず薬箱を預けて、使った分だけ代金を支払ってもらって補充するというシステムだ。日本財団では「置き薬」のシステムを応用して発展途上国への医療支援を行っている。

日本財団の置き薬事業は2004年にモンゴルでスタート。主に遊牧民の居住地域を対象に伝統医療薬を納めた薬箱を配置、料金回収率90%以上を記録する効果をあげた。この成果を2007年8月にモンゴルで開催された伝統医学国際会議(WHO・日本財団共催)で紹介したところ、参加各国から大きな反響があり、タイ、ミャンマー、ベトナムでの実施が決定した。

写真ミャンマーでの事業開始は2009年だが、同国の保健省は1989年に伝統医療局を設置、西洋医療に比較して安価に治療を受けられる伝統医療の普及に努めてきた。国内産の薬草を原料とした伝統医療薬は、ヤンゴンなどの薬局では普通に購入でき、家庭用の常備薬として受け入れられているという背景もあり、年々、配布地域は拡大している。2011年までの3年間で全14州において1州あたり500村、合計7000個を配布。今後は、2014年3月までに28000村(14州の各2000村)への配布を目標としている。

ミャンマーの場合は、薬箱は1村に1箱の配置。発熱や腹痛など、配置薬で対処できる症状に対して、村内で選ばれた薬箱の管理者から必要な分だけ購入できるような仕組みだ。薬箱の中身は、7種類の伝統医薬品(咳止め薬、解熱剤2種、強心薬、目の薬、下痢止め、鎮痛軟膏)、体温計、ガーゼ、包帯、消毒用アルコール、薬草系アルコール、絆創膏、ミャンマー伝統薬品に関する小冊子で構成されて、合計1000円程度になる。

薬箱の管理者は、村長など地域の実力者が担当することもあれば、村中の人から慕われている年配の女性などが選ばれることもあるという。日本財団の担当者によると「ミャンマーの人は真面目で勤勉ですから、選ばれた人は、薬をきちんと管理してくれます、ただ、夜中でも遠慮なく薬をもらいに行けるように、優しい人が選ばれているようです」という。

必要な薬が行き渡るようにするための課題とは

ヤンゴンから車で1時間ほどのカニンゼッチ村も、事業開始から間もなく薬箱が配置された。この村で薬箱を管理しているのは伝統医療局の職員でもあるチュウ・チュウ・ヌェーさん。

写真「よく使われるのは、下痢止めと傷薬です。ヤンゴンから近いので、他の地域に比べれば西洋医学の薬も入手しやすく、若い人は町の病院に行くことも多いですが、年配の方は伝統医療薬を好みます。また、薬箱の薬は1粒単位で購入できるので出費も少なく、収入が少ない村人も助かっているようです。私の主な仕事は、患者さんから症状を聞いて、処方する薬を選んで、使用法を説明すること。そして、足りなくなったら補充の手配をすることです。村人から『薬の種類を増やしてほしい』という要望もありますが、私が不在のときに医薬品の知識のない村人が自分で服用することもあるので、現在の基本のセットは副作用の心配の少ない効き目の優しいものが選ばれています」

本家「置き薬」と違って「売薬さん」が届けてくれる訳ではないので、管理者が減った薬を地域の市役所まで薬を取りに行かなければならず、必要なときに薬が足りなかったということもあるそうだ。チュウ・チュウさんも「補充のタイミングがいちばん難しい」と言う。

写真

日本財団とともに、ミャンマーで置き薬事業の定着に力を注いできたティン・ニュン元伝統医療局長は、役職を離れた現在も、薬箱を配置した村を回りながら、事業のサポートを続けている。

「村の管理者の知識が足りず、患者が必要とする薬を渡すことができなかったり、役所の担当者の協力体制が整っておらず、補充が遅れたりという問題もあり、すべてが順調という訳ではありません。それでも、地方の少数民族地域では、医師が少なく薬の入手も難しいため、置き薬の使用率は都市部よりも高くなっています。ネピドー近郊の村で調査したところ、病気になって都市部の病院に出かける件数が10分の1に減少したというデータもあります。置き薬によって貧困の中で失われる命が救われるケースが増えることは間違いありません。日本財団の支援も、置き薬事業の試みも本当に素晴らしいことだと思います。これからミャンマーに定着させるためには、われわれミャンマー側の関係者がさらに努力することだと思います」

日本財団とミャンマー保健省伝統医療局が協力して進めるこの伝統医療普及プロジェクトでは、置き薬の配置だけでなく、置き薬の管理運用を担当するスタッフの育成や、幅広く伝統医療に携わる人材の育成についても進めていく方針だ。

撮影:大沢 尚芳