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新しい小学校の校舎をミャンマーの未来への道標に


2012年、日本財団はミャンマー東部シャン州での学校建設事業に引き続き、北西部ラカイン州での学校建設への支援を開始した。子どもたちが安心して勉強に励めるようにと5年間で100校の建設を目指す。2014年2月までに第1期の10校が完成し、華やかに校舎引渡し式が行われた。鉄筋コンクリート造りの新校舎は、地域の発展の象徴として受け止められている。

2014.03.12

ラカイン州はバングラデシュと国境を接し、雨季には雨が集中して降るなど自然環境の厳しい地域。15世紀には、この地の少数民族ラカイン族によるアラカン王国として栄えた場所だ。今回、開校式の行われたミャウーは、アラカン王国の古都で、町中に石造りの仏塔が立ち並ぶ遺跡の町として観光客にも人気となっている。

そんな古都の景観の中で一際目立つのが鉄筋コンクリート平屋建てでクリーム色と黄緑色に塗られたKyet Zay小学校。引渡し式のセレモニーで踊りを披露した女子児童たちの表情も誇らしげだった。

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ラカイン州の学校建設プロジェクトで、現地で建設の指導や行政との交渉などをマネージャーとともに担当するNGOブリッジ エーシア ジャパン(BAJ)のミャンマー国代表、森晶子(あきこ)さんも感慨深げに式典を見守った。
「ここまで立派な建物でなくても良いのではないかとか、1棟の予算を削って学校の数を増やすべきではとか様々な指摘を受けました。農村ではなかなか見られない頑丈できれいな建物だからこそ、教育の重要性を多くの人に伝えられると思って活動してきました。新しい校舎は、地域の人々の希望の象徴になると期待しています」。

「古い」「暗い」「危ない」
ミャンマーの木造校舎が抱える問題点

ミャンマーで学校を改築しようとする場合、州政府が建設費の一部を負担するものの、残りは校長が資金を集めたり、児童の父兄など地域住民が建築資材を集め、建設のための人員を負担したりしなければならない。このため、経済的に恵まれない地域では校舎を建てられず、老朽化した古い木造の校舎を長く使い続けることになる。

こうした校舎は、ガラス窓がないことが多く、扉や窓を閉めると教室内が真っ暗になってしまったり、床板がはがれて穴が開いていたり、古い釘が飛び出していたりして、児童が怪我をすることも多いという。校舎に危険性があるからと保護者が児童を欠席させたり、劣悪な環境で教べんをとることを望まない教員が退職したりというケースもあるという。特に、教員不足は授業の質の低下につながることから大きく懸念されている。Kyet Zay小学校でも、ピカピカの新校舎の隣に、古い2階建ての木造旧校舎が残されていたが、廊下を歩くだけでミシミシと音がして「古い」「暗い」「危ない」という欠点がそろった状態だった。

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教育環境の整備の遅れは、ミャンマーの教育に大きな影を落としている。2006~2008年に入学した児童が小学校4年生になるまでに通学を辞めた割合は、全国平均で11%に上る。基礎教育を完了した生徒もわずか60%だ。ラカイン州において、小学校の教師1人が担当する平均生徒数は36人。これは全国平均の29人よりも多く、教員が不足していることが分かる。ミャンマー政府もこの問題を重く受け止めていた。

こうした中で2011年、日本財団関係者がミャンマー全土14州・地域に対する伝統医薬品配布事業のラカイン州における開始式典のため、同州を訪問。このときラカイン州首相と面会して学校建設に対する支援のアイディアが浮上した。日本財団は、同州内で技術訓練や建設事業などの分野で20年以上の活動実績を持つBAJと共に2012年9月に事業を開始、14年2月までに、州都シットウェー周辺を中心に第1期の10校が完成した。シットウェーとミャウーの間のKyae Taw村でも、新学年が始まる昨年6月に新校舎が完成。小学校に務める女性教諭は「この建物で仕事ができるのがうれしい。子どもたちに『教えたい』という意欲が湧いてきます」と笑顔で話す。
「確かに、古い校舎の時は欠席する子どもが多かったです。黒板や指導用の備品なども少なく、外光が入る窓もなくて教室内が暗く、床にも穴があって、いつも心配していました。学校に行かせないという保護者もいたほどです。しかし、新校舎ができると、欠席者が激減しました。勉強にも身が入っているようです」

児童たちに聞いてみると半数近くが校内で軽いけがを負った経験があるという。しかし、今はほぼ全員が元気に学校に通っている。
「新しい学校は好き?」と尋ねてみると「好き!」と飛び切りの笑顔が帰ってきた。

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地域の防災拠点としても役立つ学校を

写真写真 この学校建設のプロジェクトは、教育環境の整備や、児童たちの安全の確保のためだけではない。ベンガル湾にそそぐ大河カラダン川の流域にあるこの地域は、5~10月の雨季に入ると川の水位が上がり、洪水が起こりやすくなる。また、台風の被害も多い。鉄筋コンクリートの頑丈な校舎は、子どもたちだけではなく、地域の村の人々の命を救う避難所としての役割も期待される。このため、BAJは一般的な校舎のほかに、浸水を避けるための高床式の建物や、屋上に避難所を設けたタイプなども準備して、地域のニーズに合わせて設計を選択している。また、建築作業には、OJT(On-the-Job Training)として地元の村の若者を採用。地域の雇用を創出するだけでなく、これからの学校建設の作業の人材確保に努めている。

学校建設の現場を地域の若者の職業訓練の場に

写真写真森さんは、OJTの人材育成こそが、ラカイン州での学校建設計画のカギだと話す。
「5年間で100校という計画を実施するためには、現地での人材確保がどうしても必要です。しかし、ラカイン州にはこれだけの仕事を請け負える規模の建設業者はまだありません。そこで、OJTで人材を育てながら、段階的に計画を進めることにしました。OJTに参加した若者が技術に熟練してくれば、建設をスピードアップできます。初年度は10校ですが、2年目は20校、3年目は30校と、目標通り年間の建設件数を増やせるかどうかは、彼らの育成にかかっているといえます」
既に初年度の建設に参加したOJTのメンバーが、現場監督に能力を認められてスカウトされ、次の現場にはプロの作業員として参加し始めている。

引渡し式典のために現地を訪問した日本財団の尾形武寿理事長は、1期目の10校のうち4校を視察し、学校側にかならず同じ要望を伝えている。
写真 「学校は私たちからのプレゼントではありません。『建てたい』と思うみなさんの気持ちをほんの少し手伝っただけです。ただ一つお願いしたいのは、子どもたち自身が学校の掃除をするようにしてください。学校で掃除を覚え、教室を清潔な状態に保つようになれば、自宅もきれいにしたいと考えるようになるでしょう。掃除は学校や家をはじめさまざまなものを大切にする気持ちを養うきっかけになります。掃除を含めた学校教育が現在の日本の発展の礎になりました。新しい学校での教育の充実がミャンマーの発展につながることを祈っています」

撮影:大沢尚芳