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人間の安全保障

ミャンマーの子どもたちにサッカーの楽しさを伝える


少数民族地域や農村地域では、いまだ学校の数が足りずスポーツや文化など子供たちの成長に必要な教育は行き届いていない。日本財団チャリティマッチ「ヤンマーカップ」への協力金はこうした地域の子どもたちにスポーツの楽しさを伝えるために活用される。プロジェクトの第一弾として2014年6月末、エーヤワディ(イラワジ)地域を訪問。ユニフォームやボールを寄贈するとともに、セレッソ大阪サッカースクールのコーチによる初めての本格的なサッカー教室が催された。

2014.07.31

裸足でボールを蹴る子どもたち

ミャンマーの子どもたちの間で一番人気のあるスポーツはサッカーだ。しかし、山岳地域や農村地域にはきちんと整った練習環境がない。そもそも体育の授業もない地域が多いのが現状だ。ほとんどの子どもたちが裸足のまま、空き地や田畑などでボロボロのボールを追いかけている。

今回訪問したエーヤワディー地域は、ヤンゴンから西に車で約3時間の距離にある東南アジアを代表する大河エーヤワディー(イラワジ)川の広大なデルタ地帯。粘土質の土地は雨が降ると、田んぼのようなぬかるみになる。

子どもたちが運動するための校庭がある学校も少ない。多くの学校では、耕作が行われない乾季の間、近隣の水田を子どもの遊び場として借りているだけだ。当然、公的なスポーツ施設もない。雨季が本格的となる6月後半になると子どもたちが思いきり体を動かせる場所は次々に水田に姿を変えてしまう。

写真この地域で日本財団とともに学校建設の支援活動を行っている「れんげ国際ボランティア会」(ARTIC)の平野喜幸さんが地域の状況を説明する。
「サッカー教室を実施できる学校を選定する際の条件が、サッカーができる場所があることでした。なんとか5校そろったと思ったら、1校から『雨が降って田んぼに水が入ったので田植えをしてしまい、サッカーはできなくなりました』と連絡があり、慌てて代わりの場所を探しました。ここでは、子どものスポーツよりも農業が優先です。そして、子どもたちのための指導者もいません。それでもみんなサッカーが大好きで上手くなりたいと練習を続けています。テレビを見て海外の選手のまねをしたり、友達同士でプレーしたりする中で技を磨きます。ですから、今回のプロのコーチによる教室をとても楽しみにしていたんです」

日本のコーチによる初めてのサッカー教室

セレッソ大阪とミャンマー代表のチャリティマッチが行われた翌日、6月29、30日の両日、セレッソ大阪サッカースクールの齋藤竜、池田昌弘両コーチによるサッカー教室がエーヤワディー地域北部のダヌーピュ地区の5つの高校で開かれた。現地の学校にユニフォームやサッカー用具を寄贈する日本企業の代表者らも同行。心配されたグラウンドは、1校目のアレーミョ高校、2校目のジョンタニー高校ともところどころぬかるみがあるものの、プレーに大きな問題はない状態。日頃、大阪の子どもを教えている両コーチは、サッカー好きの通訳を交えて生徒たちを巧みに笑わせながら、ドリブル、パス、リフティングと基本から教えていく。両校ともに、校内でもサッカーの上手な生徒が選抜されて教室に参加しているだけあって飲みこみが早い。アレーミョ高校の生徒は「きちんと指導してもらったのは初めて。技術的に理解が深まって上手くなれたような気がします」と目を輝かせた。

写真基本を確認した後のミニゲームでは、齋藤コーチが、ピッチサイドに集まった一般の生徒や地元の村人たちに応援の基礎も指導。掛け声のタイミングや、ウェーブの作り方、ゴールを決めた選手とのハイタッチなどを実践してみせた。
「サッカーの楽しみはプレーするだけではありません。サポーターとして応援する楽しみ方もあります。せっかく見に来てくれた村の人たちにも喜んでもらい、サッカーを好きになってってもらいたいと思いました」

写真

田んぼの中でもプレー

しかし、3校目のピンガタ高校の“校庭”には両コーチもさすがに驚きを隠せない様子。周囲より一段低い“校庭”は一面に水が溜まっていた。同校の教師は「もともと水田を借りていたもので、今日のサッカー教室が終わったらすぐに田植えです」という。日本側のスタッフは「一瞬、本当に田んぼの中でサッカー教室ができるのか」と躊躇したというが、寄贈された新しいユニフォームに着替えた生徒たちが嬉しそうに田んぼグラウンドに集合したのを見て、他校と同様に前半の基礎練習とミニゲームが実施された。

写真池田コーチがこの“田んぼサッカー”を振り返る。
「ぬかるんだ地面はバランスが取りにくく転倒の危険性も高いため、日本の教室なら子どもたちの安全のために中止にするレベルです。それでもミャンマーの子どもたちは笑顔で走っている。僕も子どもたちのために頑張ろうと思ったら、泥の中でも動けました」

サッカーへの熱意を持つ子どもたちのために

写真:ANA総合研究所の小澤美良副社長同地区に一泊して翌日はダヌーピュ高校、トーワ高校で教室を開催。ANAグループの社会貢献活動を企画・運営している株式会社ANA総合研究所の小澤美良副社長が2日間の教室ツアーに同行した。サッカー歴数十年という小澤氏は、積極的にミニゲームに参加、コーチらともに教室を盛り上げた。
「我々のもとには、様々な企業や団体から数多くの協力依頼がありますが、お引き受けできるのはごくわずかです。この企画に協力を決めたのは、子どもたちにスポーツの素晴らしさを伝えるという目的に賛同したからです。実際にエーヤワディの学校を訪れてみて子どもたちと一緒にプレーして、プロジェクトの価値を確認できました。今回はサッカー教室の開催とユニフォームとボールの寄贈でしたが、次はグラウンドを整備してあげたい。排水溝を作り粘土質の土地に砂を加えれば、年間を通じてプレーできるようになります」

小澤氏は、今後もミャンマーで支援活動を行う際には、日本財団とのパートナーシップを大切にしたいという。
「発展途上国に支援しようとする場合、一企業の活動には限界があります。今回もエーヤワディの学校でのサッカー教室も現地のNPOとネットワークを持つ日本財団の協力があったから実現できたと思います。また、他業種の企業が数多く集まっていると参加しやすいというのもあります。次の機会にもぜひ声をかけてもらいたいですね」

写真2日間で5校でのサッカー教室というハードスケジュールを終えた齋藤コーチは、ミャンマーの子どもたちの長所は純粋にサッカーに取り組む姿勢だという。
「厳しい環境の中、シューズもないような状態で、よくここまでできるようになった、と思えるほどみんな上手でした。あの純粋さとひたむきさがあれば、さらに上達できると思います。ただ、僕らが伝えたかったのが技術だけではなく、サッカーを通じたコミュニケーションです。これからもサッカーの指導を待っている子どもたちのために何かしていきたいと思います」

撮影:大沢尚芳