海の未来を考える
海の未来

東北の子供たちに世界の海のことを学んでもらいたい


国際的に活躍する若手海洋学者「日本財団ネレウスフェロー」の10人が、東北の被災地を訪れ、「海」をテーマに特別授業を行った。

2013.04.16

世界中の海はつながっている

「海」の研究の分野で世界のトップを走る「日本財団ネレウスフェロー」が、東日本大震災の被害を受けた東北の海のために何かしたい、という希望から実現した特別授業。

当初は、フェローから「復興のために何か手伝えることはないのだろうか。どんな作業でもいとわない」という意見もあったが、「科学という専門性を生かして地域の子供たちに世界の海について話ができれば」と、海の近くで育つ中高生たちのための特別授業が企画された。

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授業が行われたのは岩手県立宮古高校、同宮古水産高校、宮城県女川町立女川第一中学校(現女川中学校)の3校。10人のフェローたちは、それぞれの研究テーマを生徒向けに分かりやすく解説するため、各自が用意した授業内容を、現地へ向かうバスの中で互いに吟味し、少し緊張した面持ちで、授業に臨んだ。「津波を経験した中高生に、今一度海について学ぶことの楽しみを知ってもらいたい」というのがフェローたちの共通した思いだったという。

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日程の最後に行われた女川第一中学校での授業は、3年生の2クラスが対象だった。まず、教壇に立ったのは、サウス・カロライナ大学(米国)のライアン・リカクツェヴスキーさん。専門は海洋生物学で、気候変動の海への影響などについて研究している。特別授業では、東日本大震災による津波が、世界中の海に及ぼした影響について中学生に説明した。

「世界の海はつながっていて、海水も海水に含まれる栄養素も、温度や潮流が変われば、世界中に影響が出ます。例えば、津波が起きると海水が大きく動きます。東日本大震災で起きた津波は米国にも到達しました。オレゴン州にも漂着物が発見されたほどの変化ですから、海藻、プランクトン、魚にも大きな影響があったでしょう。私の研究は、最初は海の状況の変化によって海藻が生える場所がどのように変わるかを予測します。海藻の分布が分かれば、プランクトンの分布が分かります。プランクトンについて分かれば、魚の居場所も分かるようになります。最終的には海の変化が魚にどのような影響を与えるかを予測して、漁業に役立てたいというのが研究の目的です。日本と米国は、太平洋を共有し、海によってつながっています。今後、米国をはじめとして世界の海洋研究者の間にもますます日本の研究者とともにとともに仕事をしたいという意欲が高まっています。みなさんも海への好奇心を持ち、共に海について学びたいと考えている仲間がいることを忘れないでください」

このほか、女川第一中学校では、プリンストン大のケリー・キアニーさんが、津波発生のメカニズムについて、ブリティッシュ・コロンビア大学漁業研究センター(カナダ)のオードリー・バルズさんと、ケンブリッジ大学世界自然保護モニタリングセンター(英国)のクリス・マクオーウェンさんが、海洋の生物の多様性について授業を行った。

海は分からないことが多い。人魚だっているかもしれない

フェローの講義が終わると質疑応答コーナーへ。最初は「日本で行った場所は?」「好きな日本食は?」といった内容だったが、次第に、「海」をテーマにした内容に。

「温暖化が女川に影響することはありますか?」との質問に、答えたのはデューク大学のアンドレ・ブスタニー(米国)さん。
「水が温かくなると魚の動きが変わって釣れる魚が変わることはあります。昨日、宮古で見学した定置網にはマンボウがたくさんかかっていました。一般的に、マンボウはもっと南にいる魚だと考えられていますが、これは温暖化の影響なのでしょうか? 科学者は温暖化の具体的な影響について、より注意深く検証していかなければなりません。魚の分布が変わることについては温暖化以外のさまざまな原因も考慮しなければいけないのです」

「人魚はいるんですか?」という質問もあった。答えたのは10人のうち唯一の文系研究者で資源管理学と政策分析学を専門とする、ストックホルム大学(スウェーデン)アンドリュー・メリーさん。
「人魚のモデルはジュゴンだと言われています。酔っぱらった漁師がジュゴンを人魚と勘違いをしたのが発端らしいです。だからと言って、絶対に『いない』とは言えません。以前、ヨーロッパでは『巨大イカ』はただの伝説で実際にはいないと考えられていましたが、最近、深海にダイオウイカという巨大なイカがいることが分かりました。人間がよく知っているのは、海の表面に近い部分のことだけです。深海の生物など分からないことばかり。ひょっとしたら、人魚だっているかもしれませんよ」

授業では進行も務めたネレウスプログラム副統括であるブリティッシュ・コロンビア大学漁業研究センターの太田義孝さんが、最後に生徒たちに御礼のメッセージを述べた。
「特別授業ということで東北に来ましたが、今回学ばせてもらったのは僕らの方だと思います。研究者たちは優秀で性格もよいのですが(笑)、自分の世界に入ってしまい、自分の研究のことしか考えなくなってしまうという共通の欠点を持っています。そうならないように努力したいといつも考えています。だから、みなさんと交流できて本当によかったです。ありがとうございました」

授業を受けた男子生徒は、「本当に面白かったです。津波で祖父の養殖場が被害を受けました。海の力があれほど大きいなんて、津波の前は一度も考えたことはありませんでした。自分も何か手伝いたいとは思っていましたが、何をすればよいのか分からなかったけど、海について研究するのも一つの方法かもしれないと感じました」と話していた。

撮影:コデラケイ