海の未来を考える
海の未来

海で活躍する人材を育てる「未来の水産漁業担い手育成プロジェクト」


東日本大震災で壊された岩手県の海洋関連高校が使用する共同実習船と宮古水産高校の水産加工食品・製造実習室。日本財団の「未来の水産漁業担い手育成プロジェクト」は、新しい船の建造と機器配備を支援し、若手水産漁業者の育成機能回復を後押しする。

2013.07.29

若手漁業者の育成機能が喪失

「海洋関連学科を有する高校(以下、海洋関連高校)での3 年間は、水産漁業で働くために必要な知識や技術、経験を養うための大切な期間。
しかし、東日本大震災から2 年以上が経過した現在でも、優先されている漁港やそれに伴う施設などのインフラ復旧に時間が掛かり、海洋関連高校などでの特別な教育再生への支援が遅れている。

岩手県内にある海洋関連高校の宮古水産高等学校、高田高等学校、久慈東高等学校が利用していた県立学校共同実習船「翔洋」は、宮城県石巻市の造船所で修繕中に津波で内陸部まで打ち上げられ、その場で解体された。その後、3 校では近海漁業の実習ができない状況が続いており、他県などから実習船を借りて行う短期間以外は、地元の漁業者の手伝いなどを陸地ですることで実習を代行している。また、宮古水産高校では、水産加工食品の製造実習室に設置された冷凍機などが地震によって使用不能な状況に陥っていた。

漁業や水産加工の実習を通じての若手漁業者の育成機能が失われることは、長期的な視点で見ると、沿岸地域の基幹産業である漁業の回復の遅れにつながり、岩手県全体の復興に影響する恐れもある。
このような状況に対し、豊かな海を次世代に引き継ぐための活動を続ける日本財団では「未来の水産漁業担い手育成プロジェクト」を立ち上げ、新たな共同実習船の建造と宮古水産高校の水産加工食品・製造実習室の機器配備への支援を決定。2013 年6 月6 日に、共同実習船建造調印式と製造実習室完成披露会が開かれた。

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復旧ではなく未来を見据えた復興事業

宮古水産高校の体育館で開催された調印式では、同高校の全校生徒と関係者ら合わせて約400 人が出席し、代表して岩手県知事・達増拓也氏と岩手県漁業担い手育成基金代表理事・大井誠治氏、日本財団常務理事・海野光行が調印書に署名した。

写真 この支援事業の特徴は、岩手県教育委員会と岩手県漁業担い手育成基金、そして日本財団の各団体が枠を超えて協力したこと。共同実習船の建設関係費9億8645万円のうち5億4860万円を日本財団から岩手県漁業担い手育成基金に対して拠出し、残りは国の予算を活用する。
そして、新しい実習船は139トンだった翔洋よりひと回り大きい170トンとなる。サンマ棒受網漁用の照明がLED仕様になるなど最新の漁業に対応できる機材と装備が搭載されると同時に、女子生徒に配慮した専用のトイレ・風呂なども備えられるなど。これらは、この支援事業が単なる復旧ではなく、未来を見据えた復興事業として既存の枠組みを超えて計画実行されていることの現れである。

「建造の決まった船を漁業実習で有効利用し、必ず三陸漁業の復興を成し遂げたい」生徒を代表して、海洋技術科3 年生の松原佑樹くんが抱負を語った。船が完成するのは2015年3 月の予定で、実際には松原くんは乗ることはできない。それでも、「僕らの分まで、後輩たちが多くのことを学んでくれると思う」と、感謝の意を伝えてくれたのだ。

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三陸の海の復興から世界の海の発展へ!

完成披露会が行われた食品製造実習室ではすでに実習が開始されており、この日は試食会も催された。
鮭中骨昆布巻を試食した達増知事は、「骨まで柔らかいし、味も本当に美味しい」と大絶賛した。

この実習室には冷凍機の配備以外にも、サンマやイカなどを乾燥して製品化する実習に用いるセラミカ乾燥機や、安全面への対応として放射性物質検査設備などが新たに導入された。この機材配備に対しても、日本財団は2366 万円を拠出。今後実習以外でもこの設備を用いて、小中学生の体験教室や地元企業との新商品開発などを行う予定だ。
食品家政科の生徒からは、「整備された実習室で新しい商品を開発して、三陸の復興に貢献したい」という声が聞かれた。

「共同実習船を活用し、海の現場で有意義な経験を積んでいただきたい。いつか三陸の海で、そして世界の海で皆さんが活躍する姿を見ることができる日を楽しみにしています」。贈呈式で日本財団の海野が生徒たちにこうエールを送った。
今回の支援を受けて生徒たちが誓ってくれた三陸の復興が、さらに世界の海の発展につながることを願う。

撮影:三輪憲亮