海の未来を考える
海の未来

“日本の生命線”マラッカ・シンガポール海峡の安全航行を守る


世界の石油供給量の約3分の1、日本の輸入原油の8割以上が通航しているマラッカ・シンガポール海峡(以下、「マ・シ海峡」という)。浅所と狭所が多く存在するこの海峡を安全に就航できるように管理・維持することは、沿岸3国の努力だけでは困難である。「日本の生命線」を守るために日本財団は40年以上にわたり、マ・シ海峡の航行安全と環境保全のための支援を続けている。

2014.04.30

狭くて浅い海峡を通航する船が急増中

日本財団は運輸政策研究機構と共同で、2012年のマ・シ海峡の通航量調査を実施し、2014年2月25日に発表した。(>プレスリリース「マラッカ・シンガポール海峡を通航する船舶が大幅に増加」
その結果、通航量は隻数ベースで約12.7万隻(2004年の35%増)、載貨重量トンベースで69.4億トン(2004年の74%増)と、短期間で大幅に増加していることが判明した。

マ・シ海峡は、北側はマレー半島とシンガポール島、南側はインドネシアのスマトラ島などに挟まれる約1000キロメートルの海峡。世界貿易量の約半分、世界の石油供給量の約3分の1が通過する海上交通の要衝で、特に日本にとっては、輸入原油の8割以上が通航しており、「日本の生命線」とも呼ばれている場所だ。
マラッカ・シンガポール海峡の地図狭い所では通航帯の幅約600メートル、水深も25メートル以下しかない場所が点在する。その航行上の難所を、全長350×幅60メートル以上で満載喫水(荷物満載時の船体が水に沈む深さ)が20メートルを超えるVLCC(大型原油タンカー)を含む船が、毎日300隻以上も通過していることを調査結果は示しているのだ。

※マ・シ海峡の現状の写真はこちらをご覧ください。
>PHOTOS 大型タンカーで混雑するマラッカ・シンガポール海峡

海峡を守る責任は誰にあるのか?

輻輳するマ・シ海峡の安全な航行は、どのように守られてきたのか?
シンガポールに拠点を置き、マ・シ海峡の航行安全のための情報収集や各政府との調整を行うニッポンマリタイムセンター・所長代理の酒井氏はこう説明してくれた。

写真 「マ・シ海峡はインドネシア、マレーシア又はシンガポールの領海です。1992年に発効した国連海洋法条約に基づくと、航路標識の維持・整備などの安全管理は、この沿岸3国の責任と負担において行われるものとなります。実際、海上貿易に関わる産業が集積して経済的な恩恵を享受しているシンガポールは、自国で灯台や灯標などの維持管理を行ってきました。しかし、他の2国にとってはマ・シ海峡を通過する船から得られる恩恵が少ない上に、維持管理の負担を強いられる。そこで、近年まで海峡通航量が一番多かった日本の責務として、日本財団が40年以上に渡ってマ・シ海峡の安全航行と環境保全を支援してきたのです」

日本財団が支援を始めた1969年時点では、正確に測量されたマ・シ海峡の海図すらなかった。その海図作りをはじめ、水路測量、沈船除去、灯台や浮標などの航行援助施設の整備、設標船と練習船の寄贈や海賊対策など、現在までに総額155億円以上の支援を行い、海事関係機関の会合なども多数開催してきた。

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日々、変化している海峡の状況

今回の調査結果と2004年の状況を比較すると、隻数の増加35%に比べて積載重量が74%と大幅に増えているのが特徴だ。

写真「現在はVLCCだけでなく、コンテナ船も非常に大型化しています。以前は3段くらいしか積まれていなかったコンテナが、今では6段以上積まれているのが通常の状態です。そして、以前は満載の石油タンカーが西から東に通航するのがメインでしたが、コンテナ船は東から西へも満載で通航します。これは、『世界の工場』と呼ばれる中国や、韓国の製造業の成長によって、西側に輸出される大量の貨物が生まれたのが原因です。そのように、海峡の通航状況は日々変化しています」(酒井氏)

世界情勢に伴って海峡の姿も変容する。さらに、マ・シ海峡ではサンドウェーブという海底で起きる大きな砂の波によって、地形的な変化もある。つまり、海峡の安全航行を守るためには、一度航路を決めて整備すれば終わりということではないのだ。

「航路を維持するためだけでも、それを示すための灯浮標や灯台のメンテナンス費用などが日々必要となります。現在、東側に向かう航路のみにDEEP WATER ROUTE(深海ルート)がありますが、今後は逆方向も対応を考えねばならないかもしれません。大きなサウンドウェーブが起これば水深も変わり、海図の更新も必要となります。さらに近年は、LNG(液化天然ガス)や化学薬品などの危険物輸送も増加傾向にありますが、それらが事故を起こした際の安全対策はまだ確立されていません。そのため、新たな事故対策や訓練も必要となってくるでしょう」(酒井氏)

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海峡の持続的な安全を実現させる協力メカニズム

船舶の通航量が増加する状況において、享受する利益が少ない沿岸国であっても、航行安全対策の責任範囲や費用負担を強いられるとすれば、沿岸国の努力だけでは海峡の安全を確保することが難しい。
そこで、日本財団は、マ・シ海峡から直接恩恵を受ける海峡利用国・利用者などに対して「社会的責任」という見地からも、航行安全と環境保全に対する役割を積極的に果たしてもらうという新しい概念を提唱した。
2007年、日本財団は「マ・シ海峡協力メカニズム」の構築にあたり、沿岸国を支援し、翌年には「マ・シ海峡航行援助施設基金」が設置された。マ・シ海峡を利用する国家・国際機関・NGO・国際海運業界・民間企業などが、海峡の持続的な安全を実現させるために「社会的責任」という観点から、同基金に自主的な資金を拠出する枠組みの構築に協力した。

写真「沿岸国同士だけの話合いでは、それぞれの国の思惑や主権問題などが複雑に絡むため、話合いが進みづらい場合が多々あります。しかし、日本財団は基金設立にあたり、当初5年間に基金が必要な金額の3分の1を負担すると真っ先に表明しました(2011年までに合計6,241,000米ドルを拠出)。そういった一緒に取り組んでいくという姿勢と、過去40年以上に渡って支援を続けてきたことで築き上げた信頼とつながりが、協力メカニズムの構築を可能にしたと思います」(ニッポンマリタイムセンター・所長 白﨑氏)

日本財団がマ・シ海峡における民間としての役割を果たしてきたことが契機となり、7つの国家や機関などが合計5,500,000米ドル(≒5.5億円)以上もの資金を基金に拠出した。こうした国家・機関などともさらに新たなつながりを構築することができたことから、マ・シ海峡の持続的な安全航行は実現へと確実に近づいている。

撮影:山田 愼二