海の未来を考える
海の未来

地域の人々が海を好きになる拠点「渚の交番」


「渚の交番」は、日本財団が海と地域の人々を結びつけるための拠点づくりを目的として、新たに展開中のプロジェクト。2010年に宮崎県宮崎市の青島海岸、2014年夏には、静岡県御前崎市、福井県小浜市に開設され、現在も全国数カ所で開設の準備が進められている。

2014.11.06

海から離れた地域の人々を呼び戻す

写真:御前崎に開設された「渚の交番」の外観静岡県の最南端、太平洋に突き出た地形の御前崎市は、美しい海と風に恵まれ、国内のウインドサーファーたちが「聖地」として憧れる場所。岬の高台にある街のシンボルともいえる白い灯台近くに開設された「渚の交番」では、御前崎の海に関する展示が行われているほか、多目的スペースなどを備え、常駐するスタッフに海についての情報などを尋ねることもできる。併設されたリゾート風のカフェは、既に開店から2か月で「美味しい」と口コミで広まり、休日のランチタイムは地元の家族連れや観光客で行列ができるほどの人気だ。

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御前崎の「渚の交番」を運営する一般社団法人「御前崎スマイルプロジェクト」は、元プロウインドサーファーの石原智央さんを中心に、ウインドサーフィン愛好家や地域の若手経営者たちが集まって立ち上げた。石原さんは競技者として御前崎に通ううちに、この海に惚れ込んで移住した。そして、御前崎の海の魅力を広く伝えるとともに、守っていきたいと強く意識するようになったという。
「われわれウインドサーフィンをやっている人間は、御前崎の海が素晴らしいことをよく知っていますが、引っ越してみると、地元の人はあまり海に遊びに来ないことに驚きました。地元の子どもたちも、なかなか海に入らない。もったいないと思いました。大好きな御前崎の海の良さを地域の人にもっと知ってもらいたいと考えるようになりました」

このように沿岸部に住む人が海への関心を失う「海離れ」は御前崎だけの問題ではない。「レジャー白書」(公益財団法人日本生産性本部)によると、1985年には約4000万人だった日本の海水浴客は、2012年には約990万人にまで減少。一方で「海に関する国民意識調査2014」(公益財団法人日本海事センター)では、約7割が「海が好き」と答え、「マリンスポーツに挑戦してみたい」という人も4割に達するなど、何かのきっかけがあれば、再び海に向かう人が増える可能性は高い。

こうした課題を背景に日本財団の「渚の交番」プロジェクトは、「海とあなたを結ぶ」をテーマに開始された。地域の海を愛し、よく知り、より良い姿にしていこうとする「コーディネーター」が常駐する建物を設置して、地域の住民たちの海への関心を高めて海を生かした地域づくりを進めるのが目標だ。日頃から海に関わる人だけでなく、同じ地域の中で普段は海を利用することのない人々を巻き込みながら、計画を進めている。

子どもたちの教育の場として「海」を活用する

石原さんは「渚の交番」を知って「自分たちに必要なものはこれだ!」とすぐに日本財団に連絡を取り、開設準備を始めた。しかし、「普段は海を利用しない人」に対して、このプロジェクトの必要性を伝えるのに予想以上の時間がかかったという。
「『渚の交番』は、海好きな一部の人間たちが『建てたい』と思うだけでは実現できません。地域の人々のニーズや、行政との協力体制の構築も建設の条件に入っています。特に、市役所を動かすための手続きは大変で、気が付いたら5年経っていました。でも、『渚の交番』作りを目指して、市長や市議会議員の方たちと粘り強く話し合いを続けながら、我々の思いをじっくり浸透させたことで、オープン後の活動がスムーズになったと思います」

写真2014年7月の開設から2か月、石原さんは「渚の交番」の成果を実感している。「渚の交番」という名称から、防犯や安全管理の機能をイメージしがちだが、活動内容は、海岸の清掃や砂浜の整備などの環境保護、防災活動、海洋教育・青少年育成から観光客へのサービスなど多岐にわたる。中でも、力を入れているのが海洋教育の分野。
「海を好きになってもらうには、子どもの頃から海を良く知ってもらうことが大切です。市内の小中学校に、総合学習の時間に海での授業を取り入れることを提案しています。以前は、学校に交渉に行っても自己紹介から始める必要がありましたが、『渚の交番』が出来て『ああ、あの灯台のところの!』とすぐに話を進められるようになりました。マリンスポーツや海の安全対策の一環として着衣水泳などを授業に取り入れてくれた学校もあります」

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写真「渚の交番」の活動の一環として行っているウインドサーフィンの教室「御前崎ウインドサーフィンクラブ」に中学生が通う場合は、校外部活動としても認められるようになった。市内の中学校の3年生、石原さんの長女、一季(かずき)さんも、この“ウインドサーフィン部”に所属、将来の有望選手として期待されている。 「父の影響で始めたのですが、ウインドサーフィンをやって私も海が大好きになりました。将来はプロになりたいと思いますが、競技を離れても、父のように海に関わる仕事をしたいです」と目を輝かせた。

9月6日、「御前崎ウインドサーフィンクラブ」主催の運動会が開催された。運動会といっても種目はウインドサーフィン一つだが、「渚の交番」の旗の下で、地域の小中学生とその保護者ら数十人が参加して、日ごろの練習の成果を競い合った。この夏、初めてボードに乗ったばかりという小学校低学年の子どもたちから、本格的な競技選手を目指す中学生まで、気持ち良さそうに波の上を走り、出番が終わると家族と一緒に砂浜で戯れ、海と親しむ1日を過ごしていた。

撮影:コデラケイ