海の未来を考える
海の未来

水産業の未来を担う高校生に漁業実習船を贈呈


東日本大震災で、岩手県の海洋関連高校が使用する共同実習船が被災し、廃船となった。被災地の復旧が優先されたため後継船は後回しにされたが、東北の水産業の復興には若い力が必要だ。日本財団ではその建造を支援し、今年2月に新実習船「海翔」が学生のもとに届けられた。

2015.02.20

三陸漁業の復興には若い力が必要

船乗りや漁師を目指す岩手県内の高校生が共同利用する中型実習船「海翔」が完成し、2月14日に宮古市市民文化会館の大ホールで竣工式が開催された。この船を使う水産海洋系学科のある宮古水産高校、高田高校、久慈東高校の3校の生徒350人と関係者ら合わせて約500人が参加した。

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写真日本財団の海野光行常務理事は「コンピューターを使ってバーチャルに海を学ぶこともできますが、実際に海に出てそこで得た経験を通して学ぶことが大切なのは言うまでもありません。日本はこうした海洋教育の伝統を重んじてきました。皆さんも『海翔』を使って海洋実習に励み、海に関する知識や経験を積み重ねていってほしい」と学生たちに呼びかけた。

写真生徒を代表して宮古水産高校海洋技術科1年の佐々木智輝くんは「この日が来るのを心待ちにしていました」と感謝の言葉を述べた。
「震災から4年の歳月が経とうとしていますが、岩手の漁業はまだ復興の途中です。水産業に関わる方々は、漁業の発展には若い力が必要だとおっしゃっています。私自身祖父の影響で漁師になる夢をもち、宮古水産高校に入学しました。水産業に携わるための知識や経験は船の上でしか学べないものがたくさんあります。こうしたことを学ぶために、『海翔』はなくてはならない船です。4月からの海洋実習では忍耐力やシーマンシップを学び、三陸漁業の復興に少しでも役立てる人間になりたいと思っています」

式典の後、母港の宮古港で「海翔」の引き渡し式が行われ、千葉茂樹・岩手県副知事、海野常務理事、大井誠治・岩手県担い手育成基金代表理事から、3校の生徒代表に引き渡し書が手渡され、テープカットが行われた。

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季節ごとに漁業実習を行うことが可能に

完成した新実習船は171トンで、全長34メートル。定員は34人(生徒20人)で、年間200日程度稼働する予定だ。
139トンだった旧実習船に比べてスケールアップしただけでなく、最新鋭の機材が搭載されている。船首を横方向に移動できるバウラスターと船尾を横方向に移動できるスタンスラスターを装着。サンマ棒受け網漁を行う際に横に移動して網が絡まるのを防ぐだけでなく、離岸や接岸もよりスムーズに行なえるようになった。自船位置を中心に、前方、左右方向などの魚群の分布状況、密集度などを探知し、表示できるカラースキャニングソナーも完備。サンマ集魚灯や船内外の照明には、発光ダイオード(LED)が使われている。
また旧実習船では船尾近くにあった船室を中央部に配置したため、揺れが少なくなり、居住性が格段に良くなった。女生徒に配慮して、専用のトイレや風呂、寝室などの設備も追加された。

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4月から5月は体験航海を行い、6月から7月はイカ釣り実習が行われる。9月から10月はサンマ棒受網漁、11月から12月はサケはえ縄漁、翌年の4月から6月はマグロはえ縄漁の実習が行われる予定だ。月曜日に出港して金曜日に帰港するというローテションで、各校が順番にこの船を使っていく。さらに宮古水産高校の専攻科の航海実習にも使われるという。専攻科は海洋関連高校を卒業後に入学する2年制学科で、船舶の運航に関する知識・技術を習得し、上級の海技従事者国家試験の合格をめざす養成機関だ。

「これでやっと三陸の海で思う存分に漁業実習を行うことができます」と宮古水産高校の山本敬久教諭は喜びを隠しきれない。
「北海道大学からお借りした練習船では、装備の関係上イカ釣り実習しかできませんでしたし、長期間実習を行うことも難しかった。体験的な乗船実習としての教育効果はありましたが、本格的な漁業実習ができず困っていました。『海翔』が来てくれたお蔭で、4つの漁業実習を季節ごとにコンスタントに行うことが可能になりました。海の上で実際に漁を行うことで、生徒たちに教室では絶対に学べない経験をさせることができます。これからの三陸の海を支えていく若い力を育てる上で、『海翔』は計り知れない力を与えてくれると思います」

「海翔」の建造は、被災地における水産業の復興と次世代を担う若者の育成を目的とした日本財団の「未来の水産業の担い手育成プロジェクト」の一環として進められた。総工費約10億円の費用の約半額を助成し、残りを国と県が負担した。

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海で活躍する人材を育てる「未来の水産漁業担い手育成プロジェクト

撮影:三輪 憲亮