海の未来を考える
海の未来

「渚の交番」が海と福祉と地域をつなぐ


海と地域の人々をつなぐ拠点作りを進めている日本財団の「渚の交番」プロジェクト。社会福祉法人「コミュニティーネットワークふくい(C・ネットふくい)」が運営する「渚の交番」は、高齢・障がい・未就労者など多様な方の力を生かして海辺の安全と環境保全活動等に取り組むことで福祉と地域のつながりを深め、「福祉分野における地域資源である海の活用」という新たな形を示す施設を目指している。

2015.06.04

高齢者、障がい者の力で、美しくて安全な浜辺をまもる

写真写真日本海の若狭湾の支湾である小浜湾は波も穏やかで水質も良いことで知られている。小浜市の中心部から車で約20分の距離にある「若狭鯉川シーサイドパーク」も、家族連れが安心して遊べる海水浴場だ。この公園内に2014年7月、全国で3カ所目の「渚の交番」が開設された。温水シャワーや障がいを持つ方も使用できる多目的トイレを備えた通年オープンのガーデン(ソーラーステーション下のオープンスペース)や夏の浜茶屋(海の家)を中心に、地域の歴史にちなんだ塩作り体験工房や、ビーチバレーコートのほか、太陽光発電の設備などが新たに整備された。

「小浜鯉川 渚の交番 ソーラーステーション」の近者(こんじゃ)篤所長によると、若狭湾沿岸の海水浴場は、夏場は関西方面からの海水浴客も多く集まるものの、秋から冬にかけては訪れる人も減少し、治安の悪化などが課題になっているという。
「海に来る観光客が減少すると浜辺が荒廃していきます。オフシーズンは国道と浜辺の間のグリーンベルトに道路側から海岸が見えなくなるほどの背の高い草が生い茂り、浜辺で何が起きても道路や集落の側からは分からない状態です。人通りも少なく、街灯もないため、女性や子どもだけでは夜間は歩けない雰囲気でした」

写真地域の人々や市の担当者が対策に頭を悩ませる中、「C・ネットふくい」が「渚の交番」の開設を提案した。「C・ネットふくい」は福井県内全域で知的障害者の自立と社会参加支援を目的として幅広い事業を展開している団体。福祉事業所の製品を支援する真心絶品プロジェクトや福祉車両配備などを通じて日本財団との交流があることから「渚の交番」プロジェクトについても早くから知っていた。そこで、福祉施設の利用者らが地域資源である海を働く場所や憩いの場として活用して福祉の現場と地域社会を結びつける新しい「渚の交番」が企画された。

日本財団は「渚の交番」の開設にあたって地域の人々のニーズや行政との連携体制の継続を条件としているが、「C・ネットふくい」は以前から地域に根ざした事業活動を展開しており行政との協力関係も実績があった。さらに今回は「福祉分野における地域資源である海の活用」という新しいコンセプトが支援の決め手になったという。

写真2014年秋、海水浴シーズンを終え、再び雑草が増えたシーサイドパークの敷地内では連日、除草作業が行われていた。機械を使って雑草を刈り、福祉施設から派遣された利用者たちが藁くずを手際よくまとめる。近くでは屋外のトイレを清掃する利用者の姿も。近者所長は「渚の交番は通年オープンがポイントです。海水浴シーズンが終わっても草刈りや清掃を継続することで、C・ネットふくいの施設の利用者たちにとっても働く場が増え、さらに地域の治安向上にも役立ちます。年間を通じて浜や施設を管理できていれば、秋から冬も多くの人が公園に集まってくれるのではないかと考えています」と説明する。

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子どもたちが地域の海に親しむ場所として

海水浴場としての営業以外でも、地域の人が海に集まるようにと設置されたのが、「渚の交番」では初めてとなる塩作り体験工房だ。鯉川シーサイドパーク内に飛鳥時代の朝廷に献上するための塩を作ったと伝えられる「岡津製塩遺跡」があることから、地域の歴史を学びながら、海に親しんでもらうことを目的にさまざまなイベントが企画されている。

近くの小学校の児童たちが総合学習の一環として塩作り体験に訪れることもある。小学校5年生16人が参加した授業には、障がいを持つスタッフも参加して、海水を熱し、不純物や石膏(硫酸カルシウムの結晶)除去し、さらに熱して乾燥させて塩ができるまでを約1時間半で学んだ。鍋からお玉を使って石膏を取り除いたり、フライパンで塩を乾燥させたりする作業に積極的に参加した。塩が完成した後は、ゆでたまごと一緒に試食。
「昔の人もこの海で塩を作っていたと思うと不思議」
「自分で作った塩はおいしい。帰ったらお母さんにも食べてもらいたい」
「今日はとても楽しかった。最近、海に来ていなかったけど、今度は夏に泳ぎに来たい」
などと笑顔を見せた。

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近者所長も「ここでの体験を通じて、小浜の子どもたちがもっと海に親しんでもらえればうれしいですね。また、障がいを持つ人への理解も深めるきっかけにもなってほしいと思います。『小浜鯉川 渚の交番 ソーラーステーション』は、これからも海と地域を結ぶ窓口として活動していきます」と話していた。

撮影:大沢 尚芳