海の未来を考える
海の未来

海洋秩序の発展を目指して国や組織を超えた“つながり”を構築


世界の海の諸問題を議論して解決策を探るため、日本財団と国連海事海洋法課による「世界の海洋秩序の発展に向けた人づくり事業」の修了生総会が2014年11月28日から12月3日まで東京で行われた。現在は出身国や国際機関で海洋関係の行政官などを務める49カ国80人の修了生が集合し、オープニングイベントにはソアレス国連事務次長も参加。各国・地域のプレゼンテーションやグループワークを通じて、早急に海洋問題へ対処するための世界規模かつ分野横断的なネットワークを構築した。

2015.02.26

世界の海洋学への扉を開く

日本財団と国連海事海洋法課(UN DOALOS)による「世界の海洋秩序の発展に向けた人づくり事業」(NF-UN Partnership Training Program on Ocean Affairs and the Law of the Sea)は、海洋秩序のための法整備など総合的な管理や対応が遅れている国の人材育成を主な目標としたもの。対象者は海洋関係の行政官を中心に毎年約10名で、事業開始の2003年度から10期を終え、修了生100名の出身国は59カ国にも及ぶ。

写真:Nopparat Nasuchonさんタイ水産省の水産生物学者で、現在は長崎大学の博士課程に在籍するNopparat Nasuchonさんは、この育成プログラムに出会ったことで世界の海洋学への扉が開かれたという。
「このプログラムに応募したきっかけは、海洋水産学の世界について知識を身に付けたいと思ったからです。それまで、私はタイでの研究経験しかなかったので、世界中ではどのような研究がされているかを知りませんでした。私は幸運なことにタイでこの育成プログラムの修了生に出会いました。そして、彼女の話を聞いて確信したのです。このプログラムこそが海洋学の道を究めるための最善の道だと」

修了生たちを継続的に支援する

このプログラムの大きな特徴は、海洋問題への対応が遅れている国の人材を育成するだけでなく、研修期間終了後も継続的に支援し、修了生同士のネットワークが構築されることを促していることだ。

写真奨学金プログラムの基本的な実施内容は、フェロー全員が国連海事海洋法課で共に3カ月の研修を受け、その後は提携大学・研究機関(24カ国48機関)で各々の専門分野の研究及び実務研修を6カ月行うというもの。
しかし、その後も修了生たちが集まり、最新の海洋の問題や各国の取り組みについて共有し、議論する地域ごとの会合を開催している。2009年の東京から始まり、カリブ海のバルバドス(2010年)、ケニア・ナイロビ(2011年)、アメリカ・ニューヨーク(2012年)、オセアニアのフィジー(2013年)と過去5回の地域会合を行い、修了生同士のネットワークの構築と強化を推進してきた。
そして今回、その集大成として、プログラムの修了生が一堂に会する総会が2014年11月28日から12月3日まで東京で行われ、49カ国80名の海の行政官が参加した。

写真:スピーチする日本財団の笹川陽平会長修了生総会のオープニングイベントに出席した日本財団の笹川陽平会長は、このプログラムの目的をこう述べた。
「世界中が共有する海の問題は、一つの国、一つの機関、一つの分野だけの努力によって解決することはできない。私たちは、国、機関そして分野を超えた連携を加速させるため、世界的かつ分野横断的なビジョンをもって、既存の枠組みを超えた包括的なネットワークを構築することができる人材を育成することが重要であると考えています」

写真:スピーチする国連のスアレス事務次長 国連のスアレス事務次長は、継続的な支援の必要性を以下のように説明した。
「修了生らがキャリアを積む間のニーズに合わせ、激しく変化し続ける海洋情勢や海洋法の最新知識を身に付けられるように人材育成を継続していくことをプログラムに組み込んでいます。その結果、修了生たちは海洋問題に取り組むための経験と知識を持つ同志として、驚異的な潜在能力を持つ世界規模のネットワークを築きあげていくでしょう」

世界が共有する海の問題を解決するためには、海洋先進国が主導するだけでは難しい。そこで、海洋問題への対応が遅れている国の人材を育成した上で、プログラム修了後に各国の行政官や研究者になる修了生たちを継続的に支援することによって、貴重な人材のネットワークが構築されることを推進する。こうした二段構えの育成プログラムこそが、世界が共有する海洋問題を早急に解決するために必要だと日本財団と国連は考えているのだ。

写真

総会を機に動き出した修了生ネットワーク

オープニングイベントと講演会の後、修了生たちは3日間に渡る総会を行い、各国・地域における最新の海洋知識や問題を共有するためのプレゼンテーションや、ネットワークを構築するためのグループ演習などを行った。
熱のこもったプレゼンテーションに対して、他の修了生たちからも積極的に発言があり、とても有意義な議論が繰り広げられた。

写真:ベトナム海洋・島嶼局立法部副部長のThi Gam Phamさん最新の海洋情報の共有について、ベトナム海洋・島嶼局の立法部副部長を務めるThi Gam Phamさんは、このプログラムが修了生に対して行う地域会合や今回の総会は「キャッチアップのための貴重な場」だと言う。
「私はプログラム終了後にベトナムに帰ってから、仕事がとても忙しく、最新の海洋知識が不足していました。でも ここでは同じ分野に関心を持つ、国際的な専門家や研究者たちと交流を持てます。彼らの経験や特別な知見に触れることができ、とても貴重な時間を過ごせました」

写真:国連ジュネーブ事務局・ジブチ政府代表部参事官のAbbas Daherさん普段から修了生同士でメールなどを使って交流しているという国連ジュネーブ事務局・ジブチ政府代表部参事官のAbbas Daherさんも、今回の総会には大きな成果を感じている。
「修了生一同で集まって各々が直面している地域問題について話し合うことで、こうした課題を解決するために共にできることがあると認識できました。この修了生総会のもっとも重要な側面は会場の内外で互いに顔を見て話し合えることです。そのことによって、私たちは将来に向かって共に前進するための活力を生み出せたのです」

写真:在エクアドル・ペルー大使館の外交官Gian Pierre Camposさん そしてネットワークの構築について、在エクアドル・ペルー大使館の外交官Gian Pierre Camposさんは抱負を語ってくれた。
「私たちがこの場所にいるのは、単に情報を共有するだけでなく、今後も一緒に海洋問題に取り組むことを継続していけるように戦略を立てるためです。私たちの多くは数年前にプログラムを修了し、その後に各々が職歴を通じて経験を積み、大きく成長しています。だから今、私たちはこのプログラムと修了生の仲間、そしてこの総会自体に対して貢献できると思うのです」

総会最終日には、修了生で運営するホームページを作成して情報発信することや、本の共同出版計画などが修了生たちの間で合意した。
プログラムを終えたフェローたち各々がキャリアを積んでスキルアップし、それを修了生ネットワークに還元することで、世界の海洋問題を早急に解決するための大きな力となっていくことが期待される。

写真:大沢 尚芳、三輪 憲亮、他