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みんなのいのち

震災直後の緊急支援策〜現金5万円の弔慰金・見舞金を17329人に


「明日の10万円より今日の5万円」。日本財団が3月下旬に発表した緊急支援策は、津波ですべてを失い避難所暮らしを余儀なくされる人々が今日から使える現金を届けることだった。震災直後の混乱の中で始まった支援活動の第一歩を振り返る。

2012.10.01

明日の10万円より今日の5万円

2011年3月29日。日本財団は東日本大震災に対する緊急の支援策として、下記3つを発表した。
(1)死者・行方不明者1人当たり5万円の弔慰金・見舞金の贈呈
(2)漁船を失った漁業者向けなどに上限1億円の緊急支援制度の新設
(3)被災地支援のNPO、ボランティア団体に対し、100万円までを迅速に助成

会長の笹川陽平は「2500カ所にも及ぶ避難所で暮らしている人たちに可能な限り具体的な声を届けたいと考えた。過酷な暮らしを続ける人たちへの支援を一日でも早く始めるのが民間の責務。これが緊急支援の第1弾だ」と強調した。

写真:被災者に現金の封筒を手渡す笹川陽平会長

この緊急支援策発表に先立つ26日早朝、理事長の尾形武寿は笹川からの電話を受けた。 「東京大空襲の焼け野原を母と二人でさまよった時、現金がなく食べ物が手に入らなった。幼少でただただ心細かった」という自らの体験、そして「阪神・淡路大震災の時、ある金融機関が封筒に1000円分のコインを入れ被災者に配った。これは大変役に立ったと好評であった」という実績から、現金を被災者に手渡すことを検討するようにという指示だった。

尾形を中心とした会議では「現金をどのように被災者に渡すのか」「悪質な人間が来た時にどう対処するか」などの課題も挙がったが、「明日の10万円よりも今日の5万円の方が被災者にとっては必要。被災自治体には負担や迷惑がかからないように日本財団はじめボートレース業界挙げて実行しよう」という結論に達した。

尾形は3月31日から被災自治体を訪問。石巻の亀山紘市長との面談で、市職員の3分の1近くが死亡・行方不明で協力要請は難しい状況が分かり、日本財団が全責任を持って実行することを約束。気仙沼市では国からの義援金に上乗せして支給したい旨の要請があったが、国からの資金がいつになるのか見えない状況もあり、日本財団の責任のもと単独で速やかに行うことを伝え理解を得た。

大金をどのように被災地で配付するか

次の課題は、大量の現金をどこで用意し、どうやって被災地に運ぶかだった。

被災地の支店自体が被災し、支店業務自体も混乱していることから、現地支店で現金を引き出すことは断念。日本財団と取引のある銀行に現金を用意してもらうことになったが、現金を財団まで届けてもらえるわけもない。結局「億」という現金を大型スーツケースに入れ、警備員もつけずに若手職員が護衛するだけで、3日間に分けて運ぶことになった。

当時の発表では石巻市の死亡者数は2341人、行方不明者数2698人。5000人×5円とすれば最大2億5000円の現金が必要となる計算。3人1組になり、5万円を確認しながら封筒に入れる作業を行い、5000セットを用意した。その後、20余人の職員が、2億5000万円を段ボールに入れて、チャーターしたバスの座席に積み込み、石巻市へ向かった。ここでも警備員は同行せず、職員だけの緊張感漂う旅立ちだった。

4月4日からの3日間で、石巻市役所、湊小学校、女川町役場などでの配付は約3100件、支給額は1億5000円を超えた。4〜5月には、気仙沼、陸前高田、釜石、大船渡、花巻各市など、多くの避難所などでも弔慰金・見舞金を配付。6月末までに、死亡者・行方不明者を確認できた84自治体のすべてで実施し、合計14861件で7億4305円を遺族に届けた。

本当に必要な人に手渡すために

弔慰金・見舞金配付の窓口を訪れた被災者の中には、震災で何も持ち出すことができず照合のための身分証明書類を提示できない方もいた。しかし、そういった方こそ受けた被害が大きく現金も持ち出せなかった配付の対象者といえる。公的機関の審査であれば絶対に認められないが、靴に書かれている名前と本人の申告が一致しているだけで配付した例もある。オンライン処理ができず二重払いが発生した例もあるが、別の配付所で受け取った遺族が気付いて5万円を返却してくれた方もいた。

弔慰金・見舞金を受け取った方からは「何一つ持ち出せず、妻ともども家屋流失してしまいました。妻のとむらいのために使わせていただきます」「年金生活なので花まではなかなか手が届かないでいましたが、弔慰金で線香とお花をしばらくの間買わせていただきます」などのメッセージが寄せられている。

その後も、日本財団復興支援コールセンターなどで手続きを続行し、2012年3月末まで受け付けを続けた。その結果、警察庁発表の東日本大震災による死者・行方不明者18460人(平成27年11月10日現在)のうち17329件、93.9%に弔慰金・見舞金を配付することができた。