笑顔を運ぶ「乗りもの」
あなたのまちづくり

利用者の体と心を運ぶ福祉車両


福祉車両は単なる移動手段ではなく、高齢者や障害のある方の「外に出たい」という気持ちも運ぶもの。そして、介護をする家族や福祉関係者にとっても大きな力となる。千葉県での車両贈呈式、実際の利用状況を取材した。

2013.06.04

笑顔があふれる福祉車両贈呈式

2012 年度に日本財団が助成した福祉車両は全国で1980 台。
そのうち千葉県では62 福祉団体に対して計73 台分の助成が行われ、2013 年3 月7 日に千葉県習志野市の「カレスト幕張」で車両贈呈式が開催された。

「施設を利用する子どもたちが、新車が来るのを楽しみに待ってます!」
「前の車両は車椅子が2 台しか乗らなかったのが、今度は4 台乗るようになりました。便利になるだけでなく、移動中の会話も賑やかになると思います」
「今うちで使っている送迎車は10 年以上走っていて、燃費が悪くて故障も多いので経費や維持費が嵩むんです。最新の車両を頂けることは、施設の運営側にとっても非常にありがたい」
新車の福祉車両を目の前にした49名の参加者の中から、たくさんの喜びの声が上がった。

写真:福祉車両贈呈式の様子

畑仕事で福祉車両が大活躍!

「このトラックが来たばかりの時は、利用者は誰も乗りたがらなかったんです。『こんなキレイな車に傷をつけたら大変だ!』とか言って(笑)。新車が来たことをみんな本当に喜んでいますし、とても大切に使わせてもらっています」

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真新しいダブルキャブトラックについて嬉しそうに語ってくれたのは、贈呈式に艶やかな着物姿で参加した「社会福祉法人 土穂会」理事長の多田美穂子さん。
土穂会は千葉県いすみ市岬町にある障害者支援施設「ピア宮敷」を中心に、ケアホームや、工房・福祉作業所などの生活介護事業所を運営し、入所・通所者を合わせると約100 名の知的障害のある方の支援を行っている。

「知的障害のある方々は、放っておけば部屋に引きこもりがちになります。ピア宮敷では、なるべく太陽の光を浴びて活動をしてもらいたいと考え、いろいろな農作物の栽培に挑戦しています。昨年からは地域貢献活動という意味も含めて、市が特産品化に力を入れているブルーベリーの栽培を開始しました。夏の収穫期には、このトラックにブルーベリーを満載した いと思っています」(多田さん)

ピア宮敷では、ブルーベリーの他にも施設で栽培した落花生や切干大根などをパッケージ商品として販売し、地元の人々や観光客から愛されている。2009 年5 月には、就労支援の体験館としてうどん屋「どんちゃん」を開店。こちらもユニークな就労支援への取り組みと本格的な讃岐うどんの味で話題となっている。

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働くことで地域社会とつながる

写真:雑草取りをする施設利用者

ダブルキャブトラックは午前中、落花生畑の雑草取りに出動。
ピア宮敷は、無農薬農法のため、雑草取りに重労働を強いられる。しかし、畑担当の施設利用者の方はすごい集中力で働き、作業用バケツはすぐに雑草でいっぱいになり、いくつあっても足りない状態だ。
「普通のバンだと作業道具があまり載らないし、軽トラックだと逆に人が乗れない。でも、この車だと、荷物も人も一緒に運べるので大変便利なんです」
主にダブルキャブトラックを運転するというスタッフの野坂伸一郎さん(バナー写真右端)は言う。

写真:公民館の清掃作業をする施設利用者

午後は、いすみ市から委託されている岬公民館の清掃作業へ移動。ここでもみんな真剣な表情で除草作業を行い、中には芝刈り機を器用に操る人も。
「うちの施設の利用者の方々はとても働き者。昼間に働いて気持ち良い汗を流すと、夜もぐっすり眠れるようです。施設内外の仕事を通じて、社会とのつながりや生きがいを実感してもらいたいと思っています。だから、利用者の方が生き生きと働ける様々な仕事を探してくることも、我々スタッフの大切な役目なのです。そして、その現場に行くにも、荷物を運ぶのにも車が必要となります。頂いた福祉車両は単なる足ではなく、知的障害のある方や我々スタッフを支えてくれている大切な存在なのです」(野坂さん)

高齢者を介護するご家族にも安らぎを

同じ外房にある「社会福祉法人 鴨川市社会福祉協議会」が運営する要支援及び要介護認定を受けた在宅高齢者のための「ふれあいデイサービス」と「やいろデイサービス」では、車椅子対応車やヘルパー車など日本財団助成の福祉車両が多数活躍している。送迎車は平日5 日間、鴨川市内の端から端まで朝夕合計で3 時間近くを走り廻る。
在宅福祉サービス係庶務主任の吉田清さんは、人手が足りない時は自らが送迎車のハンドルを握り、利用者やその家族と直接触れ合うことで感じることがあるという。
「体が不自由な方を介護しているご家族も、日々大変なご苦労をされています。デイケアがあることで、そのご家族も休息の時間を取ることや、気分転換に出かけることができます。ですから、福祉車両は要介護者に外出の機会を与えると同時に、介護するご家族に安らぎを運ぶものでもあると私は思っているのです」

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「やいろデイサービス」の1 日は、午前中に入浴サービスを行い、昼食後はレクリエーションや個別機能訓練をして、3 時のおやつで終了というスケジュール。
利用者の方々に話を伺うと、鴨川の海産物などを使った手作りの昼食が「とても美味しい!」と大好評。レクリエーションでは、みんなが生き生きとした表情で歓声を上げてゲームやカラオケに興じていた。

そんな利用者に親しまれている鴨川社協のデイサービスだが、最近は定員に満たないこともあるという。
以前は鴨川市のデイサービスは社協を含めて2〜3 カ所だったのが、2000 年の介護保険制度施行以来、病院などに付属した介護サービスなどができ、現在では16 施設に増えたためだ。医療機関を併設しておらず、社会福祉法によってサービスにも制約がある社協では、利用者の数が減って運営費用を切り詰めている状態なのだ。

「便利な介護サービスは費用も高くなります。生活にあまり余裕がないのに要介護者を抱えるご家庭からは、安価な社協のデイサービスは『最後の砦』と呼ばれているんです。我々はその砦を守るために、サービスの質を保ちながらコスト削減の努力をしています。その中で1 台300 万円以上もする車椅子対応車を助成なしに購入するのは厳しい。ですから、日本財団さんにはとても感謝しています」(吉田さん)

撮影:コデラケイ