コペンハーゲン大学におけるヤングリーダー奨学基金制度20周年記念式典

デンマーク・コペンハーゲン

写真:スピーチする日本財団の笹川陽平会長

 

1987年にタフツ大学フレッチャー法律外交大学院に最初の基金が設置されて以来、SYLFF(ヤングリーダー奨学基金制度)のネットワークは世界の69主要大学に拡がりました。過去20年間にわたる皆様のご尽力に心より感謝申しあげます。

この間に、世界は大きく変化しました。冷戦構造は崩壊し、多様な価値観からなるグローバル社会が生まれました。そして今、私たちは、異なった政治的、民族的、文化的、宗教的立場からなるモザイクのように入り組んだ複雑な世界の中で、民族・宗教紛争から格差の拡大にいたるまで、さまざまな問題に直面しています。

今、私たちは、これらの問題を解決に導き、より良い社会を築くための人材、すなわち異なる意見を受け入れ、問題の本質をとらえることが出来る、広い視野をもった人材を必要としています。そして、このような人材を育成する場として、高等教育機関は大変重要な役割を担っております。

高等教育機関は、専門的な知識や技能を提供する場であると同時に、社会に対する責任感や使命感を育む場でもあります。そして、各国を代表する高等教育機関であるSYLFF校では、その役割を最大限に果たしておられると聞いております。そのような皆様をメンバーとして持つSYLFFというプログラムに改めて誇りを感じております。

専門的知識や技能を授与するという点について申し上げれば、高等教育機関においては専門分野の細分化が進んでいます。これは特定の専門分野において知識を向上させる上で非常に重要であり、高等教育機関の実に優れた特徴でもあります。

とはいえ、このような教育は特定のテーマについて深く掘り下げる上では極めて重要ではあるものの、人間の視野を狭め、断片的なものにしてしまう可能性もあります。したがって、異なる意見に対して寛容な、幅広い視野を持つ人間の育成という点においては限界があります。

もちろん、皆さんはすでにこのことに気づき、適切な対策を進めておられます。私の進めているSYLFFは、皆さんのその取り組みを更に拡大し、具体化する一つのツールであると信じております。

写真:笹川陽平会長のスピーチを聞く式典参加者

 

SYLFFはその発足当初から、社会に対する強い責任感と使命感によって突き動かされてきました。そして自らの能力を活用してより良い世界の構築を目指す人々の育成を目指してきました。

世界45カ国69校からなるSYLFFネットワークは多彩なバックグラウンドと優れた専門性を持つフェローにより構成されており、彼らのひとりひとりが必要な社会的責任感と使命感を有しています。SYLFFネットワークはフェロー達がこれら能力を共有し、協力し合う場を提供しています。

具体的には、SYLFFネットワークはフェロー達にさまざまな国に住みながら、同じ問題意識を共有するフェローと議論し、同じ分野に携わる人達の経験を参考にする機会を提供しています。こうすることにより、彼らはこれまで見えなかった問題点に気付いたり、問題を提起したり、新たな見解を得たりすることが出来ます。このような経験は国境や専門を超越し、グローバルな視野および包括的・多角的アプローチを身につける機会となります。

私達はSYLFFネットワークの存在を当然誇りに感じるべきです。もちろん、フェローや同窓生間のネットワークそのものは、特にめずらしい存在ではありません。世界にはこうしたネットワークが無数にあり、人脈作り、情報共有、ビジネスチャンスに活用されています。

しかし、SYLFFネットワークは社会に対する責任感と強い使命感を共有するメンバーにより構成されています。さらに、SYLFF基金をそれぞれ運営する基金設置校もまたこの行動的ネットワークの育成・発展に積極的に努めています。このようなネットワークは、大変珍しい存在といえましょう。

フェローシップ期間の終了後、このネットワークを通じてさまざまなフォローアップ・プログラムが提供されています。既卒生達はそれぞれの多様な経歴、専門を活用したさまざまな共同プロジェクトに参加しています。

このような協働プロジェクトやフォローアップ・プログラムを通じて、このネットワークがcollective forceとして一丸となり、個人や少人数では解決できない難しい問題や人類全体が直面するより大きな問題に取り組むことができる共同体に成長することを期待しております。

お手元にはSYLFFの20周年記念誌が配れているかと思います。今回の20周年を記念し、つなぎ合った20の手を表現したロゴを新たにつくりました。これは、過去20年間の取り組みを記念すると同時に、「ともに手を携えていこう」というSYLFFが目指すcollective forceの象徴でもあります。

フェローの皆さんはそれぞれが優秀な人たちです。しかし、彼らの能力を最大限に引き出すには、基金運営者である私達はこれまで以上に努力する必要があります。世界をつなぐSYLFFネットワークは、各々の分野でパブリック・インテレクチュアルとしての能力を発揮させることで、フェロー達を極めて強い影響力をもつ人材に育てることができる可能性をもっています。SYLFFの将来は私達の手にかかっています。みなさん、ともに手を携えて、SYLFFネットワークを育てていきましょう。