マラッカ・シンガポール海峡の航行安全と環境保全の向上のための会議

シンガポール

写真:マラッカ・シンガポール海峡を航行する船舶

 

皆様、本日「マラッカ・シンガポール海峡(マ・シ海峡)の航行安全と環境保全の向上のための会議」においてこのような名誉な機会を与えていただいたことに心から感謝しております。

そして、この会合のホストとして準備を重ねられ、大変なホスピタリテイと努力で開催に導いたシンガポール政府と沿岸国政府、IMO関係者、また、マ・シ海峡の問題解決のためにお集まりいただいた各国代表の皆様に対し、日本財団の代表として惜しみない賞賛と感謝を申しあげます。

皆さまご存知のとおり、狭隘かつ長大なマ・シ海峡は、航海上の難所を多く有する国際海峡であり、その航行安全の確保には多くの負担を必要とします。一度、事故が起こると、大切な人命を失うほか、船体や積荷の損傷に加えて、大規模な油流出が起こる可能性もあります。

その環境被害は早期かつ広範囲に広がり、沿岸地域の漁業や観光、ひいては地域経済に大きな影響を及ぼす可能性があるとともに、同海峡の通航自体を麻痺させる恐れもあります。

その通航量は、スエズ運河の4倍、パナマ運河の10倍以上であり、さらにその増え方も日本側の研究によると2020年には現在の60%増、即ち年間40億トン(DWT)から、64億トンに達する見込みです。

また、通過船の隻数でみても、現在年間の9万4千隻から、2020年には50%増の14万1千隻に達すると予想されます。

今後、輸送量増加に伴う海上交通の輻輳、船舶の巨大化、原油・石油製品・化学物質などを含む輸送内容の多様化などにより、以前とは比較にならないほど安全上のリスクが増大する恐れがあり、その安全を確保するために様々な対策を早急に講じることが求められています。

このような情勢の中、マ・シ海峡問題について沿岸国と利用国、IMOによる政府間会合が合計3回開催されたことは大変有意義であり、沿岸国の皆様の長年の努力が国際的に実を結びつつあることに疑いはありません。

そして、その努力は安全航行に向けた国際協力関係の構築に向け、大きな前進であったと大変喜んでおります。

しかしながら、マ・シ海峡の通航による直接的な受益者は、民間の産業であり、万が一汚染が起きた時の原因者(Potential Pollutant)もマ・シ海峡通航の民間の利用者である状況で、この問題は果たして政府だけが考え、かつ、取り組めばよい問題でしょうか?

また、国際的な海運産業は、航行安全や海洋汚染防止に関する国際条約を遵守し、従来の慣れ親しんだ手法や既成の秩序・概念に基づいた取り組みをすれば、それで十分責任を果たしたと言えるのでしょうか?

写真:マラッカ・シンガポール海峡に設置されたブイ

 

日本財団は、マ・シ海峡の安全通航、環境保全のため、これまで長きにわたり沿岸国と協力してまいりました。それにより、安全性が維持向上されてきたとすれば、これに勝る喜びはありません。

しかしながら、海峡利用者が、通過通航権を過大に評価するあまり、航行安全の主たる負担者ではなくてよいのだという考えを助長したとすれば、それは大きな悲しみと言わねばなりません。

私は、当初より申し上げているとおり、企業活動の場を海洋に求める産業は、従来の古い考え方や法律に基づく責任だけでなく、その企業活動が影響を与える海洋、他国、ローカルコミュニテイの社会安全や環境保全に貢献する国際的で広く社会的な責任を負うと考えます。

この企業の社会的責任という観点から、マ、シの通航安全と環境保全の問題を見てみると、航海の安全が高いコストとなる重要海域において、その追加のコストを沿岸国のみに委ねるのではなく、民間海運産業の責任の実行が求められてきます。

マ・シ海峡では主たる受益者である海峡利用者が、自らの問題として考え、沿岸国と安全・環境などの確保のために取り組み、必要な経済的な貢献を自主的に行うことが自らの社会的責任を果たすうえで必要なのです。

皆様ご承知のように日本財団は、何年にもわたってマ・シ海峡の安全や環境の向上に向けて努力を続けてまいりました。クアラルン・プール会議においては、沿岸国が提唱した協力メカニズムの構築に向けた取り組が支持されましたが、日本財団では、これを受けて沿岸三カ国の民間研究機関(S. Rajaratnam School of International Studies、Maritime Institute of Malaysia、Center for Southeast Asian Studies)と共同で、3月にシンポジウムを開催するとともに、これに引き続きワークショップを開催しました。

これらのシンポジウムやワークショップは、協力メカニズムや特に航行援助施設基金について沿岸国側の取り組みに民間企業側からも協力することを目的としておりました。

これらの取り組みにより、協力メカニズムの構築や特に航行援助施設基金の創設が大きく促進されたものと確信しています。

さらに、日本財団は、プロジェクト5(マ・シ海峡の航行援助施設の更新・維持)に関連する多くの調査を手掛けており、それらの結果によれば当該プロジェクトは民間企業による支援に値するとの結論に至っております。

日本財団は、マ・シ海峡の航行安全に関して積極的な役割を担いたいと考えており、これまで協力メカニズムの具体化に向けた雰囲気づくりなどを担ってきました。

プロジェクト5の実施に必要な費用やそれに要する期間を勘案すれば、利用国、海峡利用者やその他の関係者から基金に任意の協力がなされ、基金が十分な資金を得るまでにはしばらく時間を要することが確実視されます。

日本財団は、航行援助施設基金の設立初期段階における資金調達に起因するこれらの様々な困難を視野に入れ、本日ここに、自発的協力により十分な資金が集められるまでの航行援助施設基金の設立当初5年間における費用の3分の1を拠出することを真摯に検討していることをご報告させていただきます。

私たちのこの提案が国際的に支持されれば、協調メカニズムの下における航行援助施設基金が近い将来実現されることを視野に入れることができます。

日本財団としては、それが全世界からの動きを引き起こす引き金となり、国際貿易に従事する船舶による海峡利用の最終的な受益者である利用国、海峡利用者を始めとする利害関係者がこれに等しく呼応することを真に望みます。

これは歴史的偉業となるでしょう。日本財団は、航行援助施設基金の設立を支援し、これが新たな未来を切り開く第一歩となることを望んでいます。

私は基金設置の取り組を行うにあたり、広く関係者の協力がとても重要だと考えています。基金設置に向けた今後の具体的な方策として、私が予てより取り組んでいるハンセン病撲滅の活動が参考になると思いますので、ここでご紹介させていただきます。

私は世界からハンセン病を撲滅しようとこれまで闘ってまいりました。結論を言えばあと2年でこの病は世界からなくなるでしょう。この事業の成功の原因はアライアンスという考え方でした。

私がハンセン病問題に取り組む前までは、専門家のみによってその対策が行われていましたが、大きな成果があがっているようには感じられませんでした。そのため、私の提案により、WHO、国際機関、当該国政府、NGO、製薬会社など全ての関係者を巻き込んだアライアンスを組んで、ひとつの目的に進もうとハンセン病の制圧活動を行ってきました。

マ・シ海峡の協力メカニズムの構築、特に航行援助基金の設置についても、海運会社、民間セクター、荷主、沿岸国、利用国など全ての関係者が積極的に参加する雰囲気作り、アライアンスがハンセン病の制圧活動と同様に重要だと考えます。

日本財団はより多くの海峡利用者がこの基金に協力するように、今後も積極的に働きかけていきたいと思います。