笹川アフリカ協会25周年記念式典

マリ共和国・バマコ

写真:スピーチする日本財団の笹川陽平会長

 

シセ首相閣下、オバサンジョ元ナイジェリア大統領閣下、ソグロ元ベニン大統領閣下、ご参集の農業大臣閣下並びに各国政府のみなさま、25年間にわたり私達のプロジェクトを支え応援してくださったすべてのみなさんに、まず、笹川アフリカ協会の創設に関わった1人として心よりお礼申し上げます。

ここマリでは、アマドゥ・トゥマニ・トゥーレ大統領閣下が農業に重きをおいた政策を展開されており、私達のプロジェクトに対しても快く協力を申し出てくだしました。特に、明確なビジョンと支援政策を打ち出してくださったことで、米、ミレット(ヒエ・粟などの雑穀)、とうもろこしの生産に多大なインパクトを与えていただきました。多くの農民たちは、作物が増産できるようになったことに喜びを感じ、将来への期待や希望を膨らませていることと思います。

また、多くのアドバイスをくださり、共に汗を流してくださった農業科学者の皆様、どんなときでも農民と近くに寄り添い、来る日も来る日も励んだ農業普及員の皆様、アフリカの明るい未来のために普及員を鼓舞し、共に戦ってきたSAAのディレクターたちやスタッフ、そして我々のプロジェクトを信頼し、協力を申し出てくださったドナーの皆様にも、この場を借りて感謝を伝えたいと思います。

ここアフリカで私たちがSasakawa Global 2000プロジェクト(SG2000)を始めることになったのは、1984年に東アフリカで起こった未曾有の大飢饉に対して緊急食料援助を行ったことがきっかけでした。私は、空腹で目を開けていることがやっとというような子どもたちを目の当たりにし、少しでも早く食糧を届けたいと思いました。しかし食糧援助は一時的には人々の空腹を満たすことができますが、あくまでも緊急的な支援であって、アフリカが抱える食糧問題を根本から解決するものではありません。

そこでアフリカの食糧問題に本気で取り組もうと考えたとき、私はその日の食べ物にも困っているような、国民の7割を超える小規模農家が、自らの力で食料を生産する方法を手助けすることが必要だと強く思ったのです。そして、この考えに賛同してくれたボーローグ博士とカーター元大統領からの協力を得て1986年に笹川アフリカ協会を設立、このSG2000プロジェクトをアフリカ14カ国で行ってきました。

そしてこの25年間、私達は次の3つのことを大切に活動してきました。

1つ目は「進化(Evolution)」をし続けることです。
これまで数々の問題にぶつかってきましたが、そのたびに私たちは、解決策を探りながらプロジェクトを進化させてきました。

はじめはとにかく農作物を増やすことを目指し、そのために農民にあった増産の技術を教えることに全力を注いできました。ところが、農作物の増産が可能になっても、それを保存・加工する技術がなくては、そこまでの農家の生活向上にはつながらないことがわかりました。そこで、これまでと同様に農法の指導をする傍ら、収穫後の農作物の保存や加工についての技術指導も行うことにしました。そして現在、私達は農民を、この生産・加工の過程から市場へと結ぶためのバリューチェーンがきちんとつながるための仕組みづくりに挑戦しています。

2つ目は、笹川アフリカ協会のディレクターや各国農業普及員、関係者全員が本当に農民のことを想ってこのプロジェクトに取り組んできたということ(Dedication)です。

なかでも普及員は、私達のプロジェクトの中で重要な役割を担ってきました。SG2000では、プロジェクト開始当初から普及員を通じて、必要な農業技術を農家に定着させる方法を続けてきました。そして彼らは畑へ出て農民と共に汗を流しながら、効果的な農法を着実に浸透させることに尽力し、農民たちとの信頼関係を築いたのです。こうした普及員の真摯な姿勢があったからこそ、プロジェクトが成果をあげることができたのだと思います。

そこで私達は、熱意ある普及員にさらに活躍してもらうために、やる気にあふれ、知識も豊富な普及員を育成する講座をアフリカ各国の大学に作りました。本日ご参集の各大学の理解と協力を得て20年続けているこの普及員育成コースでは、すでに3,000人を超える優秀な普及員を現場に輩出しています。さらにこの中から、農業省内の重要なポジションについて、国レベルの農業政策に関わる卒業生もでてきており、農民が現状を打開するための重要な政策作りに取り組んでくれています。こうした彼らの献身的な努力が私達のプロジェクトを支えているのだと実感しています。

3つ目は私達の「信念・執念(Perseverance)」です。
私達のプロジェクトも、今まですべて順風満帆にいっていたわけではありません。

ここアフリカではアジアに比べ複雑な問題が絡みあっています。「緑の革命」が成功したアジアには灌漑がめぐらされていましたが、アフリカでは水は降雨に依存していました。農地から市場をつなぐ道路も、アジアに比べアフリカでは整備が進んでいません。さらにアフリカでは、先進国の利益を優先した構造調整がバリューチェーンのリンクを断ち切ってしまったため、アジアのように「緑の革命」が瞬時に広がることはありませんでした。

そして農業現場では、ディレクターや普及員たちも、はじめから農家に受け入れられたわけではありませんでした。何度も指導を断られ、熱意を失いかけたこともありました。
しかし、どんなに困難な状況でも「アフリカの農民が空腹のまま眠りについているかもしれない」ということを考えると、私たちは途中でやめるわけにはいかなかったのです。そして私たちはこの気持があったからこそ、今まで試行錯誤を繰り返しながらも前に進むことができました。

「Never give up」。それはこれまでずっと、ボーローグ博士をはじめ、私達全員の合言葉でした。アフリカの農民に食料と収入の安全が保障されるまで、私達はこれからも何があっても決してあきらめません。

さて、ここまで、私達の25年間の軌跡についてお話をしてきましたが、ここからは将来の話をさせていただきたいと思います。

実はご存じの方も多いとは思いますが、近年、強力な2つのパートナーが力を貸してくれることになりました。ビル&メリンダ・ゲイツ財団とJICAです。このことは関係者にとって非常に心強く、士気がさらに高まるきっかけともなっています。

エチオピアでの例をご紹介させていただくと、現在エチオピアではビル&メリンダ・ゲイツ財団と協力し、普及システムをよりよく変えていくための事業に着手しています。また北部の州ではJICAとともに、域内でバリューチェーンを回すモデル作りを行っています。これらのプロジェクトにおいても、私達の武器である普及員やディレクターたちといった優秀な人材が大いに活躍してくれることでしょう。

そして、今後私達が特に力を入れて取り組むのは、「バリューチェーンの確立」です。
農家が収穫・加工した農作物を市場に運んで収益を得、その収益の中から次の収穫に必要な種子や道具などを購入できるようにする、このバリューチェーンの成功例を私達は数多く作っていかなければなりません。なぜなら、成功している姿を見せることが、農民たちに勇気と希望、そして元気を与えることになるからです。

そのためには、農家が一定の収入を保障され、共同で機械等を購入・利用することができる農業協同組合のような組織が重要な役割を果たします。このような組織は、日本やアメリカでは広く普及していますが、今のアフリカでは、ほとんど機能していないのが現状です。

実は私達はここ数年、特にマリやウガンダ、そしてエチオピアやナイジェリアにおいても、この組織づくり、もしくは既存の組織の強化に挑戦してきました。特にマリでは、ニアタケネと呼ばれる組合の強化に取り組んできています。しかし、ニアタケネの役割や意義が正確に理解され、順調に運営されている例は稀です。各地の農村では、責任者を務めることができる優秀な人材がまだまだ不足しているため、組合組織の多くは頓挫してしまっているのです。よって持続可能な形で組合組織を運営していくための支援の必要性を感じています。

そこで私達は、この組合を管理する優秀なマネージャーの育成を行う新しいプログラムを、普及員の人材育成とは別にスタートさせたいと考えています。その結果、組合組織の意義を理解し、これを農村全体の利益のために持続的に運営していくことができる優秀な人材が、この仕組みを現地に根付かせ、生産・加工後のバリューチェーンのリンクをつなげていくことに貢献していってほしいと思っています。

さて、こうして未来のアフリカの姿を考えたときに、私はやはり政府の役割が極めて重要になってくると思います。政府の取り組み、姿勢こそが農民達を勇気付け、モチベーションを与えてくれるのです。

アフリカ各国のリーダーには、ぜひ自国の農業問題へのコミットメントを積極的に示していただき、そしてそれを農民のみなさんからも見える形で示していってほしいと思います。
それが求心力となり、アフリカの農業問題の解決へとつながっていくと、私は信じています。

さらに私は、農業はアフリカが抱える多くの問題への解決策になりうると考えています。
現在、アフリカの人口の大多数を占める小規模農民の多くは、食糧不足が原因で、栄養失調に苦しんでいます。一定量の食糧があれば、彼らは栄養を確保でき、病気になるリスクは格段に低くなるでしょう。

また、今まで非効率に農業を行っていた農業も、私達の技術を使えば効率的に増産が可能になります。それまでは、なんとか家族が食べていけるようにするために、子どもたちまで農場に駆り出さなければなりませんでしたが、農業の生産性があがれば、子どもを農場で働かせる必要がなくなります。経済的にも時間的にも、子供を学校に行かせる余裕もでてくるでしょう。

これが、私の夢見る将来のアフリカの姿です。こうして考えると、アフリカが抱える様々な問題の解決の鍵となるのは間違いなく農業です。私たちは、農業に理解のあるアフリカ各国のリーダーと共に、これからも挑戦しつづけます。

私達のプロジェクトは、ボーローグ博士の後、新たに力強いアフリカ女性のリーダー、ルース・オニアンゴ博士をトップに迎えました。私達は、彼女のイニシアティブと、アフリカの農業生産者・消費者への新たなコミットメントのもと新しいフェーズを進みますが、これからも、プロジェクト開始当初の私達の信念に従い、アフリカ農民の生活のために努めていきます。