第27回世界保健機関(WHO)笹川健康賞授与式

スイス・ジュネーブ

WHOの「すべての人に健康を」というイニシアチブに応える形で1984年に設立された笹川健康賞も、今年で27回目を迎えます。

本賞は、過去の優れた成果・結果を表彰するものではありません。全ての人に健康を実現するための、プライマリーヘルスケアーの分野における「革新的な取り組み」に対する「力づけ」であり、その取り組みが将来にわたって更に拡大・発展して健康への貢献を続けることを前提としています。

あらゆる人が健康な生活を享受するためには、患者に必要な治療を施す医療的活動と、患者のみならずその家族もが心豊かに社会生活を送れるよう支援する社会的活動の両方が欠かせません。

本年受賞された方々は、癌とエイズという、人類が直面する大きな二つの病気に対して、この両面からきめ細かい支援をされています。
スロバキアのDr. Eva Sirackaは、国を代表する癌団体であるLeague against Cancerを立ち上げ、同国での癌研究や病気の予防、啓蒙活動、癌患者やその家族へのケアなどに、生涯に渉って尽力されています。

また、The Pequena Familia de Maria, Panamaは、行政機関や大学等と連携し、エイズ患者が心身共に健康に、尊厳ある暮らしを送ることを目指す包括的なプログラムを提供してきました。中でも小児患者のためのクリニックおよびホームの建設や、カウンセリングサービスの整備を継続的に行っています。

本年の受賞者の方々の活動を顧みると、やはりどのような病気においても、患者に必要な治療を施す医療的支援と、患者のみならずその家族もが心豊かに社会生活を送れるよう支援する社会的支援の両方が欠かせないことを感じます。私はハンセン病の制圧活動をライフワークとして取り組んでおりますが、その時にどうしても避けては通れない問題があります。それは、患者のみならず、治療薬を服用して完全に病気が治った回復者、さらにはその家族にも向けられる、差別とスティグマです。ハンセン病回復者の場合、その差別とスティグマがあまりに大きく、これまでなかなか彼らの社会復帰が進まないでいます。医学的に病気を治すことは、回復への第一歩であるにすぎません。社会的な要素もまた大変重要であるのです。これには社会における意識向上も含まれます。

今回受賞された方々は癌とエイズについて、医療面・社会面双方から人々の人生を支えてこられました。受賞者が実践されている患者や回復者の心身両面へのケアは、ハンセン病制圧活動に取り組む私も非常に重要視しており、学ぶところが多くあると感じています。今後も、すべての人が健康な生活を享受する社会を実現できるよう、ぜひ受賞者と交流や情報交換をさせていただければ幸いです。受賞者の方々に改めてお祝いを申し上げると共に、この賞を受けられるに相応しい方々を選んでくださったWHOの皆様に心から感謝申し上げたいと思います。

ここで、プライマリーヘルスケアネットワークの重要性について述べさせていただきたいと存じます。ご存知の通り、この3月、日本の東北地方は非常に深刻な地震と津波に見舞われました。被害は甚大で、コミュニティのヘルスケアシステムを破壊しました。この極限状況はしっかりとしたプライマリーヘルスケアネットワークの重要性を改めて強調するものとなりました。プライマリーヘルスケアネットワークがなければ、そして、「すべてのひとに健康を」というイニシアティブがなければ、最低限の生活水準でさえも、この災害を生き抜くことは不可能なのです。日本の窮状は私たちの仕事がいかに重要であるかを、大変具体的に示しています。

今回の大震災は、私たちが自然の巨大な力の前にいかに無力であるかを知らしめるものでした。そして、福島の原子力発電所における被害に見られるように、私たちが信頼しきってきた科学技術も、自然の前には全くかなうものではなかったのです。

しかしながら、私たちは被災した方々の強い忍耐力と決意に、大変励まされています。被災者の方々は、彼らのコミュニティと生活の再建のための第一歩を踏み出しているのです。

また、我々は震災直後から、世界中から寄せられた計り知れない慈悲と支援に大変勇気づけられています。世界の皆様の温かく人道的なご支援に、心から感謝を申し上げたいと思います。