インド・州保健次官ハンセン病会議

インド・ニューデリー

この度、各州から保健次官の皆さまにお集まりいただき、ハンセン病に関する会議を開催できましたことを心から嬉しく思います。今年5月、ジュネーブのWHO総会でChandramouli連邦保健次官にお会いした折、このような会議の実施について相談したところ、快諾いただきすぐさま準備にとりかかってくださいました。本日、こんなにも早く会議が開催される運びとなったのは、次官の卓越した指導力によるものであり、改めて心から感謝申し上げます。

振り返ってみれば、2002年には東京で、そして2004年にはゴアで、今日と同じように州保健次官をはじめ関係者が一堂に集まる会議が開かれました。この2つの会議は、インドのハンセン病対策において画期的(エポックメイキング)な会合になりました。今日のこの会議もハンセン病対策をさらにもう一歩進める新たな決意の場となることを期待しています。

1990年代後半、インドは世界最多の年間60万人以上もの新規患者を抱え、その数はむしろ増加傾向にありました。人口1万人当たりの患者数も4人以上と高く、WHOが定めた制圧基準—人口1万人当たりの患者数が1人未満—を達成することは極めて難しいと思われていました。そのような状況を打破したのが東京とゴアでの会議であり、連邦および州の保健省はじめ、WHOやNGOなど関係者の強い決断が、インドのハンセン病政策にとって大きな転機をもたらしたのです。その会議以降、各州が主体となり、患者の早期発見のために地域の至るところを訪問し、全ての患者に適切な治療を施すと同時に、様々なチャンネルを通して啓発、教育活動を徹底しました。

連邦および州の保健省はじめ関係者が一丸となった努力の結果、2005年遂に、難しいと思われていたハンセン病の制圧がこのインドで達成されました。当時、世界中は敬意と賞賛をもって、この歴史的な偉業に注目しました。そして、連邦政府や州の強いコミットメントと効果的な医療サービスがこのまま継続されれば、患者数は必ず減り続けるであろうと、多くの人たちが期待を寄せました。

しかし、制圧達成以降、患者数という点で、ハンセン病対策が思うような成果を挙げられていないのは皆さまご存知の通りです。60万人以上だった新患数は、制圧達成直後には約13万人とそれまでの4分の1以下にまで激減しました。しかし、それから6年後の今日に至るまで、その数はほとんど減っていないのが実情です。

インドでは国レベルで制圧が達成されたものの、州レベル、県(District)レベルで多くの患者を抱え、対策の進捗が遅れている地域が実際に残っています。私は制圧達成後も頻繁に州や県を訪ね、首相や保健大臣とお会いし、進捗状況について意見交換をしてきました。地域の現場もその都度見て回りましたが、制圧達成時まで配置されていたハンセン病対策を担うスタッフがいなくなっているところも目立つようになりましたし、全体的に患者の早期発見のためのプログラムや啓発活動、医療関係者への教育といった施策への取り組みが以前より弱まっているように感じました。

確かに、公衆衛生の課題として、HIV/エイズやマラリア、結核といった病気の対策は重要ですが、ハンセン病対策の進捗が遅れたままで良いことにはなりません。なぜならば、ハンセン病は病気による苦しみだけでなく、発見が遅れれば重度の障害が残り、さらには本人だけでなく家族までも差別を受けるという二重三重の苦痛が伴うからです。各地区での取り組みが末端にまで行き届かない状況が続けば、発見が遅れて障害が残ってしまい、さらには厳しい差別を受けることになってしまう患者が生まれてしまうのです。

病気や差別に苦しむ患者を一人でも少なくするために、いま一度各州の強いコミットメントが必要とされています。差別を恐れて病院に行くことをためらっている患者が病院に来られるよう人々を啓発したり、ヘルスワーカーにハンセン病に関する教育を施したり、全ての患者が必ず治療を受けられるよう、地区の末端までサービスを強化していかなければなりません。

各州のコミットメントに対し、インド政府やWHOなどではそれを後押しするための様々な取り組みが行われています。連邦政府保健省は専門家委員会を昨年の12月に立ち上げ、国レベルでこの問題に取り組んでいく強い意思を表明しています。先月初旬には、ハイデラバードにおいてNational Workshopも開かれ、国家ハンセン病プログラム(NLEP)における課題(challenges)が話し合われました。また、WHOはハンセン病の負荷を軽減するための国際戦略(Enhanced Global Strategy for Further Reducing the Leprosy Burden)のもと、各国保健省の活動をフルサポートしています。昨年にはWHOが当事者参画のガイドラインを策定し、回復者の方々が今まで以上に新規患者の発見や啓発活動において積極的に参加できる環境が整いつつあります。

どうかこの会議で、参加者の皆さまに各州、各県の状況に応じた対策について闊達に意見交換をしていただき、それぞれの改善点や創意工夫すべき取り組みなどを共有していただくことを期待しています。患者の早期発見と適切な治療を徹底するために各州がコミットメントを強化し、効果的なプログラムをステークホルダーとともに実施することができれば、現在下げ止まっている患者の数は必ず減っていくにちがいありません。

ハンセン病対策においては、これらの医療面の取り組みに加え、差別をなくすという社会面の取り組みも重要です。ハンセン病患者に対する差別の問題を解決するために、インドでは連邦政府および州政府はもちろんのこと、当事者団体を含むNGOやメディアなど、様々な関係者が活動しています。私自身も、ハンセン病コロニーの住人によって構成されるハンセン病回復者の全国ネットワークであるナショナル・フォーラムや、ササカワ・インド・ハンセン病財団(SILF)を立ち上げ、マイクロクレジットなどを通して回復者の経済的自立、エンパワーメント、社会的地位の向上に取り組んでいます。

昨年、国連でハンセン病に伴う差別の問題に関する決議が通ったこともあり、今後は具体的な取り組みについて議論されることになるでしょう。そのなかで、世界の半数以上の患者を抱えるインドに対し、医療面ではどのような支援が行われ、また差別をなくすためにどのような施策が取られているのか、世界は皆さまの取り組みに益々興味や関心を持つことになるでしょう。今こそ、私たちが決意を新たにし、各州がハンセン病対策にもう一度コミットすることを再確認する時です。患者の早期発見と適切な治療を徹底し、インドの全州、全県で患者数を大きく減少させるための新たな一歩を踏み出そうではありませんか。