世界保健機関(WHO)西太平洋地域 ハンセン病制圧プログラム・マネージャー会議

フィリピン・マニラ

WHO西太平洋地域Shin Young -soo事務局長、クリオン財団Pedro・M・Picornell理事長、各国保健省プログラム・マネージャーの皆様、この場をお借りして、ハンセン病問題に取り組む皆様のご尽力に感謝申し上げます。

私は長い間ハンセン病制圧活動に取り組んでまいりましたが、近年、公衆衛生上のハンセン病制圧における世界的な改善には目を見張るものがあります。WHOが1991年に「患者登録数が人口1万人当たり1人未満となること」という明確な目標を掲げて以来、WPROをはじめとする各国は、目標達成のために綿密な計画を立て、各国は、これに沿って関係者の力を結集し、病気の制圧に向けて尽力されました。その結果、制圧への道のりは大きく前進し、未制圧国はブラジルを残すのみとなりました。ブラジルは現在もこの目標に向かってその手を緩めることなく努力を続けています。そして、当初の予定よりも早い2013年頃に制圧が達成されることが予想されており、着実に解決への道を辿っています。もちろん、ここWPRO地域もハンセン病制圧に向けて多大な貢献をしてくださいました。

しかし、いかなる問題においても、目標に向かって懸命に努力をしている間はいいのですが、一度目標を達成してしまった後は、その問題に対しての優先順位が低下するのが現実です。また、優先順位が低下したことが原因で、関係者のエネルギーやモチベーションが弱まってしまうこともよくあることです。
このことはハンセン病の問題においても例外ではありません。私は世界各地に足を運ぶ中で、制圧目標達成後に、予算や人材、ハンセン病専門の診療所などが減らされ、他の疾病対策に比べ相対的に優先順位が低下してしまう国々をみてきました。このようにハンセン病が他の疾病と比べて相対的に優先順位が下げられるようなことがあった場合、私は関係者の方々にハンセン病対策の本質的な重要性までもが下がっているのだと誤解されることを懸念しています。

こうした状況の中、WPRO地域のどの国においても、目標を達成後に患者数を減らす方が、目標達成前に患者数を減らすことと比べて一層困難になる傾向が強くなっています。私は、ハンセン病が制圧されたことで、国として、他の深刻な問題を抱えている疾病により重点を置き、新たな優先順位に従って政策を立てていくことは、ある意味においては当然であり、仕方のないことであると理解しています。

しかし、ハンセン病が他の疾病と比べて相対的に優先順位が低下したとしても、それがハンセン病との闘いにおける本質的な意義も低下させるということではありません。皆さんにはぜひこれまでに培った経験を生かして、知恵を絞っていただきたいと思います。限られたリソースの中でも、できることを探し、これまで以上に戦略的、かつ創意工夫をして、取り組むことができれば、着実にハンセン病患者を減らしていくことが可能なはずです。決して容易なことではありませんが、ここにいらっしゃる熱意ある担当官の皆さん一人ひとりが、今、できることに取り組んでいただくことをお願いしたいと思います。もちろん、私自身も、ハンセン病を取り巻く問題の解決に向けて、今後も多面的に取り組み、皆さんと手を携えて闘っていく所存です。

なぜ私が、公衆衛生上の目標としてハンセン病の制圧を達成した後もなお、患者を減らすことにこだわるのかというと、病気に苦しむ患者を減らすことは、病気の治癒以外にも重要な意味があることだと考えているからです。

なぜなら、ハンセン病を取り巻く問題は、単に病気自体だけではなく、病気に起因する偏見や差別という深刻な問題を伴うからです。ご存知の通り、ハンセン病患者・回復者はこの偏見や差別に何世紀にもわたって苦しめられてきました。私は世界各地に足を運ぶ中で、差別を恐れるあまり、治療を受けることをためらう何人ものハンセン病患者に出会いました。私は世界中の至るところで、ハンセン病患者・回復者に対する厳しい差別を目の当たりにし、その撤廃を目指して、様々な活動を行ってまいりましたが、残念ながら、ハンセン病を患うということは、同時に差別の対象になるということが、今尚、変わらぬ現実なのです。

新たな患者を増やさないこと、できる限り、障害が残る前に治療をするということは、差別に苦しむ患者や回復者を減らすことにつながります。つまり、皆さんの取り組みは、病気と差別の問題解決という二つの重要な意味を持っているのです。私は皆さんの意義深い仕事に心から敬意を表するとともに、これからも、これまで同様のコミットメントをお願いしたいと思います。

ここにご列席の皆さんは、ハンセン病を取り巻く問題を解決したいという共通の目標を持っている方々です。皆さんの力を借りることで、一人でも多くの方を病気と差別の苦しみから救いたい、それが私の希望であり、心からの願いです。

最後に、このような意義ある会合の開催にご尽力くださったWHO関係者、クリオン財団関係者に心より感謝申し上げますとともに、3日間の会議を通じて、皆様方が活発に議論を交わし、互いに実り多い時間を過ごされることを期待しています。