グローバル・アピール2013 宣言式典 〜ハンセン病に対するスティグマ(社会的烙印)と差別をなくすために〜

英国・ロンドン

本日は国連機関、人権NGO、ハンセン病制圧活動のパートナー、そして回復者リーダーの皆さまと共に、このロンドンの地から第8回目のグローバル・アピールを発信できることを光栄に思います。

ハンセン病は、世界中の病気の中で最も誤解され、偏見の対象となってきた病気のひとつです。有効な治療法のおかげで完全に治る病気となった今でもなお、病気を経験した人々が差別に直面し、苦しんでいるということは非常に悲しいことです。世界の一部の地域では、彼らは未だに、病気を理由に差別され、結婚生活を続けることができなかったり、自由に旅することもできないでいます。

こうした差別を助長しているのは、今なお世界各地に残る、ハンセン病患者・回復者に対して彼らの生活を規制する様々な法律や規則だといえるでしょう。これらの法律や規則は、意図的に残されたのではないかもしれません。

しかし、図らずもそのまま放置され、人々の規範として残ってしまっているのです。

これらの法律や規則は、まだハンセン病の有効な治療法が見つかっていない時に、市民からハンセン病患者らを隔離するために設けられました。そうすることが、市民の健康を守る唯一の方法だと信じられていたのです。こうした考えは今では不当ですが、一般の人々の心に根付いてしまったハンセン病患者・回復者に対する差別や偏見の意識は今も残されたまま、現存する誤った法律や規則がそれを助長する結果となってしまっているのです。

このような誤った法律や規則は、直ちに撤廃する必要があります。こうした法律や規則が存在する医学的根拠はありません。また、ハンセン病患者・回復者が人権を取り戻すためにも、こうした法律・規則は必ず撤廃されなければなりません。

2010年に国連総会本会議において決議された「ハンセン病差別撤廃のための原則及びガイドライン」の中でも、ハンセン病患者・回復者及びその家族に対する差別的な法律や規則を廃止、撤廃すべきと明文化されています。

私は、このたびのグローバル・アピールにあたり、世界の法曹界を代表する国際法曹協会の皆さまからお力をお貸しいただけたことを大変心強く思います。これは大きな前進であり、ハンセン病患者・回復者、そしてその家族たちにとっても重要な意義をもつでしょう。

しかし、差別的な法律や規則が撤廃されたからといって、人々の心に深く根付いた差別の意識もなくなるというわけではありません。

「ハンセン病療養所の壁はたった20cmの厚さですが、それは私と全世界とを隔てる壁なのです」
これは、あるハンセン病回復者の言葉です。

ハンセン病療養所に住む患者・回復者は現在は多くはありませんが、ハンセン病患者・回復者の前に立ちはだかっているのは、療養所や家の壁という「目に見える壁」だけではありません。彼らの多くにとって、「差別の壁」は彼らの住む世界とそれ以外の世界とを完全に引き離してしまっているのです。私たちは気づいていないかもしれませんが、その壁は、私たちの心の中にある壁です。
私たちが彼らを差別したり、彼らと自分たちを区別するような態度をとってしまった時、それが意識的であれ無意識であれ、私たちの態度は彼らを大きく傷つけているのです。

差別的な法律や規則の撤廃を訴えた第8回目のグローバル・アピールは、人々の意識を変革するためのキャンペーンの一環でもあります。私たち一人ひとりが、知らず知らずのうちにハンセン病患者・回復者を傷つけてしまっていることに気づくためのキャンペーンです。

本日は私の長年の友人であるナショナルフォーラム会長のナルサッパさんと副会長のヴェヌゴパールさんがインドから駆けつけてくれました。
お二人はハンセン病回復者たちが日々直面している問題に社会の関心を向けるため、また、彼らが尊厳を持って生きることができる世界をつくるために日夜努力されています。今回、国際法曹協会の皆さまが彼らと共に闘うと表明してくださったことは、彼らにとっても非常に心強いことでしょう。

尊敬するこの二人の友人、そして、法曹界の皆さまと共に、私は社会の一人ひとりに呼びかけ、ハンセン病患者・回復者に対する差別のない世界をつくることをアピールしたいと思います。

見えない壁を壊すことは簡単なことではありません。
しかし、私たち一人ひとりがハンセン病患者・回復者たちの声にならない叫びに耳を傾けることで、この壁に少しずつ風穴を開けることができると私は信じています。