ササカワ・アフリカ農業普及基金(SAFE)20周年記念式典

ガーナ・アクラ

本日はササカワ・アフリカ農業普及教育基金(Sasakawa Africa Fund for Extension Education: SAFE)20周年の記念を皆さまと共にお祝いできることを大変光栄に思います。

はじめに、SAFE創設に関わった一人として、各国政府の皆さま、各大学機関の皆さまのSAFE及び笹川アフリカ協会(Sasakawa Africa Association: SAA)に対する長年にわたるご理解、ご協力に心より御礼申し上げます。また、アフリカの農業における人材育成事業の発展に向けて、日頃より献身的に取り組んでくださっているSAFEのディレクターやスタッフの皆さまに深く感謝申し上げます。

私にとって、ガーナは思い入れの深い国です。なぜなら、ここガーナはササカワ・グローバル2000(Sasakawa Global: SG2000)の農業支援プログラムの最初の実施国であり、農業普及員を対象としたSAFEプログラムを開始したのがケープ・コースト大学であるからです。まさにガーナは、私たちのアフリカでの活動の原点といってよいでしょう。

アフリカにおける私たち日本財団の農業支援活動は、1970年代及び1980年代初頭にアフリカで起こった未曾有の大飢饉にまでさかのぼります。当時の大飢饉に対し、日本財団は緊急食糧支援を実施しました。しかし、この食糧支援は一時的に人々の空腹を満たすことができましたが、あくまでも緊急的な支援にすぎないことは明白であり、私たちはアフリカが抱える食糧問題に長期的な解決策を見出すことの重要性を痛感しました。そこで、古くから言われているように「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える」という考えのもと、アフリカの人々が自らの力で食糧を生産する方法について手助けすることにしたのです。そこで、私たちは1986年に笹川アフリカ協会を設立し、私たちの想いに賛同してくださったノーマン・ボーローグ博士とジミー・カーター元米大統領の協力を得て、アフリカの飢饉と貧困の軽減に取り組むことにしたのです。

SG2000プロジェクトの中でも、現場の最前線で活躍する農業普及員は、小規模農家の人々に農業技術を教授する上で重要な役割を担うと私たちは考えてきました。しかし、プロジェクト開始後すぐに、多くの農業普及員にはそのような役割を果たすための専門知識や農民へ指導するためのコミュニケーション技術が不足していることが分かりました。また、現場での経験や知識がある人も、学位がないために、責任ある立場に就くことができずにいました。

SAAはSG2000の一環で、農業普及員のキャパシティ・ビルディングを実施してきましたが、彼らが再トレーニングを受けることができる教育機関を探していました。しかし、ほとんどのアフリカの大学には、すでに実践的な仕事に就いている農業普及員が専門的に学べるカリキュラムがありませんでした。さらに、既存の農業普及教育には、大幅な刷新が必要な状況でした。

SAAはこうした課題を解決するためにSAFEを設立しました。SAFEはケープ・コースト大学と農業省とともに、農民が抱えるニーズに対応するためのカリキュラムを作成し、農業普及員のための再トレーニングを行う講座を開設しました。私はSAFEプログラムの創設記念式典に出席した日のことを昨日のことのように覚えています。きっと皆さまもご記憶のことでしょう。

以来、SAFEは各国政府と多くの大学の協力のもと活動を続けてきました。そして、多くの農民が食糧増産に成功しました。やがて彼らは希望を持ち、より高い目標を持つようになりました。このように農民たちの状況は変化し、同時に彼らのニーズも変化していきました。そして、ポストハーベストやその先に広がる農民のニーズに応えるために、カリキュラムの内容を改善し、SAFEプログラムは進化していったのです。

これまでに4000人以上の農業普及員がこのプログラムに参加しています。彼らは農業の現場で農民と共に働き、農作物の生産性向上・農作物に対する付加価値の創造・マーケット・アクセスの促進・所得向上を支援しています。また、卒業生の中には、農業省で重要なポストに就いたり、国家レベルの政策立案に参加している人々もいます。

さて、エチオピアの農民とその家族の生活に大きなインパクトを与えた、ある素晴らしい農業普及員のお話をさせていただきます。アルマズ・テスファさんは、ハワサ大学のSAFEプログラムで学び、学士号を取得した農業普及員です。彼女はリンゴの植え付けを推奨するプロジェクトに携わっており、農民のモハメドさんにリンゴの苗木を植えるよう指導しました。アルマズさんの技術指導により、モハメドさんの植えたリンゴは見事に成長し、年間1500キログラムのリンゴを生産することに成功しました。そして、モハメドさんは農業省からリンゴ生産部門のベスト・モデル農家に選ばれました。リンゴ販売の収入により、モハメドさん一家の生活の質は大きく向上しました。彼の二人の子どもたちは、私立の学校に通うことができるようになり、一家の生活はより満ち足りたものになっていきました。

2012年だけでも、アルマズさんのようなSAFEプログラムの受講生が、農業のバリューチェーンの中で農民が抱えている問題を解決するために、地方のコミュニティにおいて200以上のプロジェクトを実施しています。

私たちはモハメドさんのような成功事例がより多く生まれることを願っています。農民が明日食べる物を心配することなく、子どもたちが学校に通い、栄養のバランスのとれた食事をとって元気に育ち、病気に罹ったら適切な医療処置を受けられる、多くの人々がそのような生活を実現できるようになることを心より期待しています。そして、このことは農業で生計を立てるすべての農民の夢であると信じています。

アフリカの農業の発展のために、各国政府、各大学機関、NGOなど私たちすべての関係者が共に手を携えて尽力していきましょう。そして、アフリカの農業を担う人材育成の分野において、今後もそれぞれの立場で、役割を果たしていきましょう。