WBU(世界盲人連合)・ICEVI(国際視覚障害者教育協議会)合同総会2016

米国・フロリダ

この度は世界盲人連合(World Blind Union : WBU)および国際視覚障害者教育協議会(International Council for Education of People with Visual Impairment : ICEVI)の合同総会にお招きいただき大変光栄です。ロウ卿、ホルト会長をはじめ主催者の皆さま、本日お集まりの皆さまの前でお話しする機会をいただいたことを心より嬉しく思います。

これから数日に亘り、WBUとICEVIはそれぞれの経験を共有し合い、重要な課題について議論されると伺っています。この機会に、日本財団の活動をご紹介させていただけることを感謝いたします。

私が会長を務める日本財団は、日本の民間非営利組織です。私たちは設立以来50年以上に亘り、日本国内だけでなく世界中で活動を行っております。

私たちのビジョンは、多様性を尊重し、誰もが積極的な役割を果たすことができるインクルーシブな社会を実現することです。そのために様々なプロジェクトを行っています。特に開発途上国では、多くの子どもや若者たちが様々な理由で、適切な教育を受けることができません。障害はその理由の一つです。私たちの目標は、そのような若者たちに教育へのアクセスを提供することです。

日本財団が最初に視覚障害者に対する教育支援を始めたのは、1980年代、米国にあるオーバーブルック盲学校に基金を設置したことがきっかけでした。この基金を通じて、視覚障害者の高等教育推進の重要性を力強く説いていらっしゃるラリー・キャンベル博士とお仕事をさせていただくようになりました。

当時、視覚障害者の教育支援は、特に東南アジアの開発途上国において、高等教育よりも初等・中等教育支援に集中していました。

私たちは、キャンベル博士との議論の中で、高等教育へ支援する時期が来たと合意しました。こうして、1990年代後半から、ICEVIとの高等教育支援プロジェクトが始まったのです。

日本財団とICEVIの共同プロジェクトは、ASEAN地域の6カ国で、視覚障害者に高等教育を受ける機会を提供するものです。これまで1,500人を超える学生たちに高等教育機関で学ぶ機会を提供してきました。

そこで、このプロジェクトがどのように実施されているかご紹介させてください。まず、私たちは大学に対して、視覚障害のある学生のニーズを理解していただくためのお手伝いをします。また、そのニーズに対応するため、どのように現状を変更する必要があるか助言します。具体的には、彼らが入学試験を受験する際の配慮、入学後に勉学に集中できるようにするための適切な支援を提案します。

ここで重要なことは、教職員側の理解を得ることです。また、学生側も、授業に参加するのに必要なスキルを身に付けなければなりません。この点を考慮し、このプロジェクトでは、サポートセンターを設置し、教職員と学生双方に対して必要なワークショップやトレーニングを実施しています。教職員と学生はサポートセンターに気軽に立ち寄り、アドバイスを受けることができます。

近年、私たちは、学生が卒業後、彼らのキャリア形成を助けるための就職支援にも力を入れています。ICEVIはこの分野に尽力しています。私たちは、多くの学生が仕事を見つけたとの報告を受け、大変嬉しく思っております。

いくつかの国において、私たちは教育省と連携し、視覚障害学生が高等教育を受けられるよう促進しています。こうした活動が実を結び、視覚障害学生の高等教育への進学率と就職率が大きく改善しました。

このような変化がもたらされたのは、彼らを勇気づけた先生や家族のサポートに加え、彼らが高い向上心を持ち、自らの能力を信じていたからだと思います。

私たちは、彼らの人生に変化をもたらしたいという思いでこのプロジェクトをはじめました。そして、私たちは、それが起こっていることを目にし、大変嬉しく思っております。

本日の午後のワークショップでは、このプロジェクトに参加したカンボジア、ベトナム、ミャンマー、ラオス、日本の5カ国の人たちが、それぞれの経験を語ってくれることになっています。彼らは、後に続く若者たちが自信を持って、自分の潜在的な能力を発揮し、目標を達成できるよう働きかけることができるロール・モデルであるといえます。

ここまでICEVIと日本財団が実施してきたプロジェクトについてお話してきました。ここでもう1つ、日本財団が取り組んでいる障害者の方々の生命に関わる重要なテーマについてお話しさせてください。

皆さまは、5年前に日本を襲った東日本大震災と津波のことを覚えていらっしゃるかもしれません。この時、多くの尊い命が失われましたが、残念なことに、障害者の死亡率は犠牲者全体の死亡率の約2倍にも上っていたことがその後の調査で判明しました。障害者に多くの犠牲者が出てしまった要因の1つとして、これまで地域の防災計画の策定や実施に障害当事者が参加していなかったことが挙げられます。

2015年、被災地である仙台で第3回国連防災会議が開催されました。私は、この会議には、障害者が参加することの必要性を痛感しました。なぜなら、防災計画を考える上で、障害者の視点を含めることは非常に重要なことだからです。

それまで、国連が開催する防災会議では、障害者は重要なステークホルダーとして参加できませんでした。この震災後、私は、彼らがこの会議で発言力を持って議論に参加できるよう国連に提案をしました。日本財団は、第3回国連防災会議で視覚・聴覚障害者や車椅子利用者たちが会議に参加しやすくなるようなアクセシビリティを確保するための支援を行いました。

こうして、多くの障害者の方々がこの会議に参加し、重要な役割を果たすという画期的な結果につながりました。

私は、政策策定の場において彼らが声をあげ、彼らの個別のニーズを伝えることが重要だと考えています。このことは、よりインクルーシブな社会の実現のための一歩となるでしょう。

本日は、本会議のセッションやワークショップでの活発な議論を通して、皆さまの活動について、より多くの学びを得ることを楽しみにしています。

この素晴らしい機会をくださったロウ卿、ホルト会長にあらためて感謝申し上げます。そして、長年の友人であるキャンベル博士をはじめ、私たちのプロジェクトに参加してくださった全ての皆さまに御礼を申し上げます。