日本財団 - GEBCO(大洋水深総図)指導委員会「未来の海底地形図についての国際フォーラム」

モナコ公国・モナコ

大洋水深総図(The General Bathymetric Chart of the Oceans:GEBCO)指導委員会とモナコ公国との繋がりは、アルベール一世殿下が海底地形図の作成を始められた1903年にまで遡ります。皆さまご存知のとおり、彼は現代海洋学の父であり、殿下の高祖父にあたります。殿下は、彼のご遺志を引き継ぎ、GEBCOに多大な支援をしてくださっています。本日のフォーラムに、殿下にご出席いただけたことを大変光栄に存じます。

残念なことに、現在、世界の海の環境は、当時とは比べものにならないほど悪化しています。気候変動、海洋汚染、海洋生物多様性の喪失等の問題はすべて絡み合っており、相互に影響を及ぼし合っています。それぞれの課題を切り離して対応することは効果的ではありません。その代わり、包括的で分野横断的な対応が必要なのです。

これらの問題に対処するための基礎的な情報として、海底地形のデータは非常に重要です。しかし、深海も含め実際の測量データは限られています。現在において、海底地形の全容は、まだ15%しか分かっていません。しかも、クック船長の時代から測量データが更新されていない海域もあるのです。皮肉にも、私たちは地球から約7,500万キロメートル離れた火星の表面について、海底の地形よりはるかに多くのことを把握しているのです。

海底の状態が分からなければ、資源の分布も正確に予測できず、航行の安全対策にも効果的に取り組むことはできません。私は、持続可能な海の開発を進める上で、水深図の精度を上げることが不可欠であると確信しています。そして、この課題に対して、GEBCOが果たすことができる役割は大きいと私は考えています。

谷委員長からご紹介がありました通り、日本財団は2004年より、GEBCOと共に、次世代の海の専門家を育成するためのフェローシップ・プログラムを行ってまいりました。これまでに33カ国、72名の奨学生がこのプログラムのコースを修了しました。彼らの多くは、修了後に自国に戻った後も、今後自分がGEBCOにどのような貢献ができるかについて継続的に議論をしてくれています。

しかし、このような活動は主にボランタリーに行われています。業務の都合上、このような議論の場に参加できないフェローもいます。彼らは、卓越した知識と技術を身につけた素晴らしく聡明な宝であり、海底地形図の解明のために貢献することができるのです。彼らが継続的に連携を図ることは、その能力を高めるための一つの重要な要因となります。その能力を生かすことができないのは、海の未来にとっても大きな損失なのではないかと思います。今後、アルムナイ(修了生)たちが力を合わせて私たちが直面している重要な課題に取り組むためには、若手研究者たちのための安定したプラットフォームを確立することが必要なのではないでしょうか。

本日ここに、フェローシップ・プログラムを修了した全てのアルムナイのための日本財団とGEBCOのアルムナイアソシエーション(修了生の連合体)を設立することを提唱したいと思います。このプラットフォームは、次の3つのことを可能にします。

1つ目は、現在、海底地形図作りに加わっていない隣接する沿岸国の地図の作成を促進できるということです。

2つ目は、アルムナイのキャリア開発を支援するための分野横断的な能力向上のためのワークショップを実施することです。

3つ目は、GEBCOの活動をより多くの方々に分かりやすく伝えていく活動です。本日ここに集まってくれたアルムナイの皆さんには、ぜひこの新しいプラットフォームを最大限に活用し、GEBCOが世界の海の未来に貢献する原動力となるよう、牽引していただくことを願っています。

この場をお借りして、もう一つお話ししたいことがあります。現代社会では、情報技術の発展が社会生活を大きく変えています。今はスマートフォンやタブレットで、誰もが簡単に最新の衛星画像を目にすることができます。情報技術と様々な分野の連携によって、これからも世界は変化し続けていくことでしょう。

このような時代背景として、高度に専門的な海洋の情報と技術が結集しているGEBCOにも新しい役割が求められています。海洋の情報インフラの基礎となる海底地形情報は現在、多くのユーザーたちが活用しています。しかし、情報を求めるすべてのユーザーにとって使いやすい形式にはなっていません。また、ユーザー間の連携を強化するような仕組みはまだありません。GEBCOの存在や貴重な海底地形情報が得られることを知らない潜在的なユーザーやステークホルダーがまだ多くいるのです。

今日、この会場には、卓越した技術や経験を持つ皆さまがお集まりです。水産業、情報技術、鉱物資源の開発や探査、海事産業など、あらゆる分野の専門家がいらっしゃいます。さらに、学術研究分野、政府、国際機関の代表者の皆さまもご参加されています。

私は、多様な分野を超えた連携を行うことで、世界の海の管理と保全を進める上での新たな可能性を広げられると思います。異なる分野が連携して共同研究を行うことで、複雑な海の問題を革新的に解決することにつながるでしょう。

GEBCOは、誰もが理解できる形で海底地形図を共有することからはじめられるでしょう。今までに連携することのなかったセクターとの交流を深めていただきたいと思います。また、GEBCOのデータが所有する貴重な知見が、他分野に応用される大きな可能性を秘めていることを新たなユーザーに知ってもらうために、積極的な活動が必要不可欠です。

日本財団は、人類や世界の海が直面している新たな課題に取り組む組織として、絶えず努力をしてまいりました。私たち日本財団は、GEBCOと共同し、未だに15%程度しか解明されていない世界の海底地形の全容を2030年までに100%解明すること目指し、全力で取り組んでまいります。この目標を達成することは簡単ではありませんが、皆さまのご協力をいただければ、実現することができると考えております。

100年以上前、アルベール一世殿下は、世界の海の未知のフロンティアを知りたいという夢を抱かれました。このプロジェクトはこの大胆な夢を具現化するものです。アルベール一世殿下は、将来の人類と地球を見据えた、素晴らしい先見の明をお持ちの方でした。彼は私たちの海を理解する重要性を認識され、海底地形を明らかにするという大変重要なイニシアティブをとられました。そして、それはアルベール二世殿下に継承され、世界の海洋のためにご尽力されていらっしゃいます。アルベール二世殿下のビジョンと情熱を私たちが具現化することで、豊かで持続可能な海を次世代に引き継いでいきたいと思います。