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「親が一貫していれば大丈夫」。トランスジェンダーのパパが大事にする性に対する信念

- 「体の性」と「心の性」が一致しないトランスジェンダーは、日常的に苦悩を抱えている
- 森崎陸さんは性別も戸籍も女性のまま。しかし男性としてパートナーと子育てをしている
- 親が性に対して一貫した考えを持っていれば子育に支障はない。「性」で人を縛ってはいけない
持って生まれた体の性が、心の性と一致しない。この、自身の体の性に対して違和感を持つ人のことをトランスジェンダーと呼ぶ。トランスジェンダーとは、LGBTQなど性的マイノリティ(性的少数者)の内の1つで、例えば2019年の大阪市の調査(外部リンク)では、大阪市民の0.7パーセントがトランスジェンダーだと推定されている。
当事者の悩みは尽きない。自認している性別とは異なる性別として振る舞わなくてはいけない。就職活動の際、自身の性別の話をするべきか迷う。カミングアウトをしたとしても、周囲の理解を得られるか分からない。
そのような理由により、トランスジェンダーの自殺未遂率は高く、異性愛者の約10倍という調査結果(外部リンク)も出ている(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルという性的指向に属する人たちの自殺未遂率は約6倍)。誰もが生きやすい社会づくりは、LGBTQだけでなく「マイノリティに対する理解」が必要だ。
森崎陸(もりさき・りく)さんは体・戸籍共に女性だが、性自認は男性のトランスジェンダー。以前の名前は「あんな」であった。幼い頃から自身の性について悩み、女性として出産を経験した後に、性自認が男性であることを確信。現在はパートナーの楓(かえで)さんと一緒に、父親として息子の晃志郎(こうしろう)くんを育てている。
陸さんのこれまでの人生について話を伺った
※この記事は、日本財団公式YouTubeチャンネル「ONEDAYs」の動画「【女性として出産もした】トランスジェンダー男性の1日に密着してみた」(外部リンク)を編集したものです
「カフェで声が出せない」。トランスジェンダー当事者の悩み
森崎陸さんは、体や戸籍は女性のまま、パートナーである楓さん、そして6歳になる息子の晃志郎くんと共に暮らしている。晃志郎くんにとって、陸さんはパパだ。

体・戸籍と性自認のズレに関して、陸さんはこう話す。
「例えば、保育園の申請書とかで、名前を陸と書いて、続柄は『母』と記入するので、そういった場合には相手も『ん?』となってしまいます」
その他にも、さまざまな場面でトランスジェンダーが感じる苦しみがあるという。
「親子3人でいると必然的にパパとして見られるんですけど、昔は声が高かったから、カフェとかで注文を頼めませんでした。声を低くするために、2年くらいホルモン注射を打ち続けて、やっと人前で声を出せるようになりました」
スマートフォンに残っている昔の動画を見せてもらうと、確かに陸さんの声は高かった。昔の声を知る楓さんは、陸さんの声を「すごく変わった」と言う。

テレビドラマのワンシーンで性への違和感に気付く
陸さんが自身の性に対して、違和感を持ち始めたのは、テレビドラマがきっかけだった。

「幼稚園から中学生の時は、男の子のことが好きだと思っていたんです。男の子と付き合っていましたし。性自認に対して意識が変わってきたのは高校2年生の時。当時、性同一性障害がテーマのテレビドラマが放送されていたんですけど、女性が女性を好きになり、同性故に好きな気持ちを伝えられないというシーンで、『あー、分かる分かる』となったんです。そこで『自分もそうかもしれない』と気付きました」
陸さんは女性も恋愛対象だと気付いてからは、自然とボーイッシュな格好を好むようになり、女性と付き合うようになった。

しかし、21歳の時。陸さんは親とトラブルになり勘当されることに。実家を追い出され、一時はホームレスにもなった。
「3カ月くらいホームレス生活でした。当時、女性とお付き合いしていたんですけど、日本の法律上、結婚はできません。そう考えた時、『おばあちゃんになっても、生涯独りなのか?』って、考えて不安になって……。子どもが欲しいと思いました。高校生まで付き合えていたから、また男性とも付き合えるだろうと」
陸さんは孤独へ不安感から、男性と結婚、そして妊娠。晃志郎くんを授かります。そこで、性自認を確信する出来事が起こる。
「産婦人科に行った時、『お母さん、こちらへどうぞ』と案内されました。人生で初めて、お母さんと呼ばれた時に『いや、何か違う』って。お母さんなんだろうけど……。違和感が出てきて」

その時、陸さんは自分の性自認が男性だとはっきりと確信したそう。晃志郎くんの存在が、陸さんを男性として生きていく決意をさせたという。
親が一貫していれば、子育ては大丈夫
陸さんはトランスジェンダーの男性として、子育てに対し、強い思いがあるという。

「本当は息子が中学生くらいになるまで、自身の性のことを黙っておこうかなと思っていたんです。でも、『パパが女だから嫌』って思うタイプの子でもないので、小さい頃から『パパは女性だよ、晃志郎はパパから生まれてきたんだよ』ということを伝えてきました。息子も最初に聞いた時は『ウソだ!パパが女なわけない!』と言ってたんですけど、今は『パパから生まれてきたし、パパは女だけど男だし。別にいいよ』みたいな。親が基本的な考えをしっかりと持ち、子どもに接すれば大丈夫。このスタンスを親が変えてしまうと、子どもがよりショックを受けてしまうと思うんです」

陸さんは子育ての信念を「一貫してブレないこと」と語ります。では、晃志郎くんは家族に対してどう考えているのか。
「パパが『女が女を好きになることもあるし、男が男を好きになることもある』って言っていたから。僕はパパが女の子でもいい。ママが2人でも別にいい」


最後に陸さんは「性の問題は複雑、だからこそ、人として恥じない生き方が重要」と取材陣に語った。
「女だから」「男だから」と性別で人を判断するのは世界の潮流から見ても時代遅れだ。企業にとっては優秀な人材を損失することにもつながるだろう。
「誰もが自分で自由に選択ができ、他人の選択を受け入れられる」。それこそが平等な社会だと言えるるのではないか。
【女性として出産もした】トランスジェンダー男性の1日に密着してみた(外部リンク)
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