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SAAの軌跡とアフリカの発展に向けて~SAA会長ルース・オニアンゴ氏インタビュー


2017年で設立31年目となるササカワ・アフリカ財団※1(以下、SAA)は、1986年の設立以来、アフリカ15カ国で“緑の革命”を進めてきた。今年9月、長年アフリカにおける栄養改善を唱えてきた会長のルース・オニアンゴ氏が、2017年アフリカ食糧賞を受賞した。課題も多くあったこれまでの道のりを、設立当時から振り返ってもらった。

2017.12.12

——この度は受賞おめでとうございます。この賞は、ルースさんにとって、そして、SAAにとってどのような意味を持ちますか?

とても嬉しく、同時に謙虚な気持ちにさせられます。これまでの人生を栄養改善に捧げてきたので、その蓄積がこの賞につながったと思っています。私が栄養について話を始めた時代は、栄養を重要視する人はまだ少数で、あまり聞く耳を持たれませんでした。しかし、私は、身体に入れる食べ物こそが、私たち自身を作り、体づくりや運動、知的な活動に強い影響を与えるとずっと信じてきました。特に子どもの頃に食べたものは、大きな影響を及ぼすことを71歳になった今、強く感じています。今日に至るまで多くの人々が私のことをサポートし、励ましてくれました。受賞は私一人で成し遂げたことではなく、日本財団を含め、私にチャンスを与えてくれたすべての人々のおかげです。

——SAAが創立された31年前と現在で、アフリカの農業にはどのような変化がありましたか?

SAAは1986年に設立されました。きっかけとなったのは、1984~1985年にエチオピアで100万人以上の人々が亡くなった大飢饉でした。故・笹川良一会長(当時)は、すでに高齢でしたが、BBCでこの飢饉の特集を見て、いてもたってもいられず、アジアの緑の革命の主導者だった故・ノーマン・ボーローグ博士に、「一緒にアフリカに行こう」と誘いの電話をかけました。博士は、「アフリカには行ったことがないし、もう年をとり過ぎている」と一旦は断わりましたが、笹川良一会長の決意は固く、最後には「あなたは自分が高齢というが、私はもっと年をとっている」と言い、説得に成功しました。また、政治的な影響力を持つパートナーとして、ジミー・カーター元米国大統領にも声をかけました。
このようにして、慈善家の笹川良一会長、科学者のノーマン・ボーローグ博士、政治的影響力を持つ協力者としてジミー・カーター元米国大統領の3者が集まり、SAAが始動したのです。そして、当時から31年たった現在も、日本財団はSAAを支援し続けてくれています。

SAAは、これまでアフリカ54カ国のうち、15カ国で活動してきました。現在は、より大きなインパクトを出すために4カ国に絞って活動しています。SAAが活動を始めた当時、アフリカの農業分野で活動している団体はほとんどありませんでした。世界銀行も各国の元首も、農業には関心を持っていませんでした。しかし、31年経った今、アフリカの農業には多くの人々が関わり、プレイヤーが存在します。

それは、人々が空腹であれば、意欲も生まれないし、産業も経済も進まないということを、元首たちがついに認識したからです。今日では、アフリカの国々の政府は、農業の価値に気づいています。昨日、笹川陽平会長とお話したのですが、アフリカ連合も農業の重要性を理解しているとのことでした。

日本財団を通じて知り合った日本人は、友好的で尊厳を重んじる大切なパートナーです。目標の達成のため献身的に、しかし何かを押し付けることなく、支援してくれます。日本財団と協働できるのは、私たちの喜びです。

これまでで特に成果が出ているのは、エチオピアです。現在では食料自給率100%を達成し、ケニア等の隣国に穀物の輸出も行っています。エチオピアの故メレス元首相が、笹川良一会長、ノーマン・ボーローグ博士、ジミー・カーター元米国大統領との友情を深め、SAAの活動に深い関心を示したこともエチオピアにおける成功に関係あるでしょう。1984年にエチオピアが経験した飢饉は今日のエチオピアでは起こりえないでしょう。
また、ガーナもSAAの成果が表れた国の一つであり、農業技術を高め、自力で前進できている国です。

——SAAにとってのこれまでの課題は何でしたか?

アフリカ各国の政府に農業を通じた開発促進の重要性を認識してもらうことでした。アフリカでは、自給自足ができず、教育を受け、開発に精通した人材が不足していたことが大きな問題でした。私たちは、マレーシアやインドネシアなどアジアの国々やヨーロッパの国々を見て、農業が経済の発展につながるということを学びました。まず、国民にきちんと食料を与えれば、経済が発展し、雇用も創出できるということを、各国元首に理解してもらうことが必要でした。そうすれば、政府が農家をトレーニングし、農業改良技術を普及させるプログラムを政策に盛り込んでくれます。私たちは、まず元首に農業開発の必要性を諭すことから始めたのです。

——今後の課題は何でしょうか?またそれにSAAはどのように取り組んでいく予定ですか?

過去30年間のアフリカの農業の成長は、必ずしもまっすぐな右肩上がりではありませんでした。かつてアフリカでは、農業普及員と呼ばれる人々を通して、農家に対して農業技術を指導するエクステンションと呼ばれる公共の農業教育システムを多くの国が採用していました。しかし、農業への公共投資を後回しにする国が増えると、この制度がエチオピアを除く国々で失われて行きました。その中で、デモンストレーションを通じて政府に農業の価値を再認識してもらうには長い時間がかかりました。現在、アフリカでは農業普及員の役割が徐々に浸透しつつありますが、今後も多くの国で公共の農業普及サービスを小規模農家に提供することが必要だと考えています。この農業普及サービスの強化こそがSAAの強みであり、今後も力を入れていきたいと思っています。
また、家畜を導入し、新たな品種や栄養価の高い農作物を積極的に取り入れることがアフリカの農業に必要なのではないかと思います。
アフリカには栄養失調、貧困、失業がまだまだはびこっています。農業を通じてこれらの問題を解決するためには、農業バリューチェーン※2を満たすことから始まると考えています。

——栄養のレベルで言うと、現在のアフリカはどの程度ですか?

日本を訪問するたびに思うのは、日本食の多様性です。日本食に触れるたびに、アフリカの伝統的な食事を思い出します。アフリカもかつては多様なものを食べていました。虫、野菜、肉、何でもです。アフリカの伝統的な食生活習慣の中では、栄養失調がおこることは非常に稀でした。栄養不足を解決するカギは、多様な食生活なのです。偏った食事は様々な問題を引き起こします。

アフリカでは、子どもの成長不足や乳幼児の死亡率が高いのですが、それは、私たちが成長の過程で何かを失ってしまったからです。西洋の食事に近づきすぎて、私たちが元々持っていた食生活を忘れてしまったのだと思います。これを取り戻すのは、簡単ではなく、十分な教育が必要です。しかし、私に希望を与えてくれるのは、きちんと教育を受けた母親の子どもは、栄養不足にならないという事実です。また、中流家庭には、栄養不足の子どもはいません。食生活を取り戻す過程で、人々を貧困から開放し、彼らに教育の機会を平等に提供することが必要です。アフリカでは、まだまだ汚職がはびこり、ガバナンスに問題のある国々が多くあります。良い政府のもとにこそ、良い国民が育ちます。良い政府のもとで、誰もが平等にアクセスできるよう資源が有効に活用されれば、栄養不足はなくなります。アフリカは決して貧しくはありません。単に、資源を有効に活用できていない、管理できていないだけなのです。私には孫もいるので、いかに子孫に限りある資源を残して行けるか、これは非常に悩ましい問題です。

——農家にとって作物の栽培や、加工などの技術向上のみならず、マーケットへつなげることが、収入向上を達成する上で重要だと思いますが、マーケットアクセスという点でどのような取り組みをしていますか?

SAAの目標として、まず食糧の増産がありましたが、その後の一番の課題は収穫物の保管でした。小規模農家が、農家自身が食べる量よりも多く生産できた収穫物を、適切な処理を行い、保管し、袋詰めをし、付加価値をつけた上で販売することが重要でした。そうでなければ、大量の収穫物を限られた期間に底値で売るしかないのです。そのため、小規模農家に収穫物を適切に乾燥させる方法を教えたり、密封状態を保つ保管袋を提供したりと、農作物の品質向上に努めました。次にマーケットで売る段階ですが、農産物が良質であれば、マーケットの方がやってきます。例えば、ウガンダのトウモロコシは良質で、栽培中にケニアなどの隣国から注文が入ります。
これは政府にも関連する話ですが、アフリカ大陸内での貿易をもっと促進させる必要があると思います。SAAの取り組みの一例としては、ウガンダでキャッサバを栽培し、皮を剥き、乾燥させ、発酵させたものを、飛行機でナイジェリアに輸出しています。

——最後に今後の抱負をお聞かせください。

SAAは31年における素晴らしい活動実績があります。すでに実験段階は終わり、今ではアフリカ各国の政府が農業に関心を持ち始めました。SAAの過去の経験の蓄積と資源をどのようにアフリカの国々と共有していくか。そして、より多くの国々の政府に理解と行動を促すためにはどうすればよいのか考えながら、私たちのメッセージを伝えていきたいと思います。この賞は、そんなメッセージを伝える上でも力になります。

  1. SAAは、2016年12月までスイス法人・笹川アフリカ協会として活動を行なってきましたが、2017年1月に本部を東京に移し、一般財団法人ササカワ・アフリカ財団として同協会の事業を継承しました。
  2. 生産、加工、販売など、生産から消費までの様々な過程における一連の価値連鎖

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