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世界の絆

文学によって、アジアの相互理解を


第2回を迎えた東京国際文芸フェスティバル(主催:日本財団)。今年は、アジア文学を視野に入れたシンポジウムが国際文化会館で開催され、マレーシア、タイ、韓国、日本から参加した作家たちがアジア文学の現状について語り合った。

2014.04.04

海外から作家約20人を招いて開催された東京国際文芸フェスティバル2014。昨年のフェスティバルでは欧米の作家が中心だったが、今年は新たにアジア文学にも目を向け、アジア諸国からも作家が招待された。3月6日、国際交流基金の特別協力、国際文化会館の共催で行われたシンポジウム「いま、アジアで『文学する』こと」では、マレーシアのタッシュ・オウ氏、タイのウティット・ヘーマムーン氏、韓国のキム・ヨンス氏、日本から平野啓一郎氏、中島京子氏という各国の現代文学を代表する作家が登壇した。

世界文学の影響を抜きには語れない

まずモデレーターを務める平野氏が「アジア文学」というテーマに入る前に、世界文学からどんな影響を受けたかを語り合おうと提案。「三島由紀夫からの影響で19世紀のフランス文学を読むようになった」と口火をきった。
写真「海外の文芸フェスで、カフカの『変身』をもとに書いた僕の作品を読んだハイチの女性作家から、『カフカって有名人なの』と尋ねられたことがありました。カフカを知らないで小説家になる人が世界にいることを知り、自分の文学体験が欧米文学に偏っていたことを思い知らされました」

続いてヘーマムーン氏がドストエフスキーや川端康成、谷崎潤一郎の影響を挙げ、オウ氏もヘミングウェイやスタインベック、そして三島由紀夫をむさぼるようにして読んだことが作家への入り口となったと述べた。

写真中島氏は、文学との出会いは子ども向けの絵本だったと語った。「『くまのプーさん』や『不思議の国のアリス』などですが、当時海外の文学とは意識していませんでした」

キム氏も「英米の難解なポストモダン文学に夢中になり、なんとか理解しようとチャレンジするうちに自分でも小説を書くようになりました。日本文学では川端康成の『雪国』が愛読書です」と語り、5人の作家がいずれも欧米文学に強く影響されて今日があることを認め合うことになった。

アジア文学の悲劇

世界文学が影響力を持つという傾向は、アジア諸国でも共通しているようだ。 ヘーマムーン氏は「タイでは世界的に有名な欧米の翻訳作品はよく読まれていますが、隣国であるラオスやベトナム、カンボジア、マレーシアの文学作品はまったく知られていません」と指摘。

写真キム氏も「韓国も欧米文学の翻訳が主で、アジア諸国の小説の翻訳は商業的に成り立たないため皆無に近い。例えば、世界中に読者を持つ欧米の小説なら、7万人が入るソウルのサッカースタジアムの観客より多くの人が読者だということもありえます。しかし僕の小説では、スタジアムを満員にするのは不可能に近い。それがアジア文学の悲劇です」と発言。

写真オウ氏も「マレーシアでは韓流ドラマやK-POPに夢中になる人は多いが、韓国文学を求める人はほとんどいません。もっと豊かになれば文化的な好奇心の幅が広がり、文学にも目を向けるかもしれませんが、そこまでの道のりは遠いと思う」と述べた。

写真:シンポジウム「いま、アジアで『文学する』こと」の様子

アジア文学の未来のために

このような状況を打破するためにはどうしたら良いのか。

写真ヘーマムーン氏は「まず作家が、アジア文学の作品を読むことから始めるべきだ」と言う。「今回のようなシンポジウムで、アジアの作家と知り合い作品を読むようになって、それぞれの国の文化的な背景が色濃く反映されていることを知りました。また、力強い作品が多いという印象も覚えました。私たち作家がアジア文学の魅力を伝えていくことで、きっとその思いが読者にも伝わっていくはずです。ASEAN(東南アジア諸国連合)は今、貿易など経済的な側面で協力を進めていますが、文化的な繋がりはまだ希薄です。今後、文化面でも連携を深めていく上で、それぞれの国の文学作品を読むというのはとてもいいスタート地点になると思います」

キム氏は「韓国政府は、韓国文学を世界各国の言語に翻訳する韓国文学翻訳院に資金を提供しています。こうした試みが各国でも進めば、アジアの文学作品に触れるチャンスがさらに増えるはずです」と発言。日本でも日本財団や国際交流基金によってこうした翻訳助成が行われているが、タイやマレーシアでは支援機関はまだないという。

アジアの作家とのチャンネルを開く

写真:シンポジウム「いま、アジアで『文学する』こと」で意見交換する様子平野氏はシンポジウムを終えて、作家同士の今後の交流に期待を寄せる。
「大切なのは、こうした場がきっかけとなって、アジアの作家がお互いの小説の熱心な読者になることです。英語圏の作家同士だと会えばその場で著作を交換できますが、翻訳書の少ないアジアの作家同士では難しい。しかしコストのかかる紙の本にこだわらず、電子書籍などの電子メディアをもっと活用すればいい。質の高い翻訳さえあれば、相互に作品の理解が進み、アジアの作家たちとの交流はもっと風通しの良いものになるはずです」

日本財団の田南立也常務理事も、今回の東京国際文芸フェスティバルにアジアの作家を招待した意義は大きかったと言う。
「これまでもトヨタ財団、大同生命国際文化基金、めこん出版社などが積極的にアジアの現代文学を日本に紹介していますが、量的にも話題的にも目立たない存在であることは否めません。今回のような企画が、少しでもアジアと日本の作家との交流を深めるきっかけになってくれればと思っています。そしてアジアの小説が日本語に、日本の小説がアジアの各言語に翻訳される機会が増え、一人でも多くの読者に届いてくれることを願っています」

撮影:川本 聖哉

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