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かあさんを頼むと父の…。「ゆいごん川柳」作品からにじみ出る家族への想い

写真:笑顔で見つめ合う老夫婦
五・七・五に託す、家族への想い
この記事のPOINT!
  • 60歳以上の男女の約7割が遺言書の作成に無関心。作成した人は20人に1人
  • 「ゆいごん川柳」は遺言の大切さや必要性を広めるための取り組み
  • 遺言を五・七・五にまとめることで、心の奥にある家族への想いに気付く

取材:日本財団ジャーナル編集部

もしも病気や災害などで自分に万が一のことがあったとき、残される家族のために何ができるだろう…。新型コロナウィルスの感染拡大、多発する自然災害など何が起こっても不思議ではない昨今、誰もが一度は、そんな考えが頭をよぎったことがあるのではないだろうか。

人生の最期の思いを伝える上で、大きな役割を果たすのが「遺言」だ。日本財団は、遺言の大切さを知ってもらうきっかけにしたいと1月5日を「遺言の日」と定め、併せて「ゆいごん川柳」(別ウィンドウで開く)の募集を行っている。

第4回となる今回は「令和」や「AI」など世相を反映したものや、家族や親子間の思いが感じられるものなど、さまざまな作品が寄せられた。応募総数11,768作品の中から見事受賞した4作品の紹介と共に、受賞者の声をお届けする。

遺言書作成者はわずか5パーセント

遺言(ゆいごん)とは、人生の最期を迎えるにあたり、家族や大切な人へ自身の意思を示すための手段。その中には、生前の感謝の思いなどに加えて、生涯かけて築いた財産をどのように処分したいかなどの希望も含まれる。

2017年に日本財団が60歳以上の男女を対象に行った「遺贈に関する意識調査」(別ウィンドウで開く)では、遺言書の作成について無関心な人が7割、 作成済みの人はわずか5パーセントしかおらず20人に1人ととても少ない。また、財産相続について親世代子世代共に3割が話し合いたいが、話し合えていないということも分かった。近年では、相続に関するトラブルも増加傾向にあることから、遺言の大切さや必要性を広く社会に向けて周知することを目的にスタートしたのが「ゆいごん川柳」となる。

図表:遺言書の準備状況

遺言書の準備状況を示す円グラフ。作成済み4.9%、作成検討中4.1%、関心あり18.3%、合計27.3%が遺言書の準備に前向き。無関心72.6%。
遺言書の作成に前向きな人は3割近く。実際に作成した人は5%に満たない

第4回の受賞作品に触れる前に、これまでの大賞作品を講評と併せて紹介しよう。

第1回大賞作品

『ゆいごんは 最後に書ける ラブレター』

さごじょうさん(30代)

〈講評〉遺言を恋文と同格にするのは思案のしどころだが、本当は、遺言は自分が死んだ後言い残す文章とか言葉で財産の分配をもめないよう書き残すことである。この作品の中七「最後に書ける」が本人しか書けないことを強調している点が目立っている。

第2回大賞作品

『こう書けと 妻に下書き 渡される』

あーさままさん(59歳)

〈講評〉遺言の下書きを妻から渡される夫には、もう夫の威厳も父の威厳も何もありません。丸裸で無防備なお父さんにくすっと笑ってしまう一句ですが、そこに見えてくるものは…。遺言の下書きを渡す妻の夫への絶大なる信頼と、そうかそうかとその通りに書く夫の妻への真っ直ぐな愛情です。この揺るぎない信頼と愛こそが本当の遺言ではないでしょうか。

第3回大賞作品

『あわてずに ゆっくり来いと 妻に宛』

茶唄鼓/ちゃかどんさん(65歳)

〈講評〉自分の死期を予測し遺言を書いたのでしょう。黄泉(よみ)から妻に呼びかけているような作品です。ゆっくりだから僕が亡くなっても「長生きしてほしい」との思いやりが感じられる。このような遺言は珍しいです。お金や財産、資産についての遺言が多い中で、妻だけに送る人間愛が感じられる作品です。ひと味違った遺言だと思います。

第1回は応募総数5,868作品、第2回は応募総数1万4,597作品、第3回は1万724作品の中から選ばれたもので、いずれも長い年月を共に過ごした妻への深い愛情が綴られ、ユーモアを感じさせながら温かい気持ちにさせてくれる。

思わず本音がぽろり。ゆいごん川柳に込められた思い

それでは、いよいよ第4回の大賞作品と入賞作品を紹介しよう。

写真
右から大賞作品、入賞3作品

第4回大賞作品

『かあさんを 頼むと父の 強い文字』

もみじさん(58歳)

〈講評〉夫婦でもいずれはどちらかが先に逝きます。父さんが遺言に「くれぐれも母さんを頼む」と家族に念を押して頼んでいます。下五の「強い文字」という表現は愛していた妻への思いを如実に表しています。

第4回入賞作品

『遺言で 結び直した 赤い糸』

富クルーズさん(61歳)

〈講評〉この赤い糸を絶対に切ってはならぬとの切なる思いが伝わってきます。家族はバラバラになってはいけない、ワンチームで仲良くしてほしい、家族のつながりを大事にしてほしい、そんな気持ちを遺言に托しています。

『相続で 困る田舎の 古い家』

紫苑さん(74歳)

〈講評〉古里の古民家、今では過疎化して誰も継ぐ人がいません。最後まで伝来の家を守るつもりでしたが、家族は都会に出て帰る気はありません。この家の相続で財産や孫たちにどう遺言したらよいか分からず、継ぐ人のいない実家の遺言は少子化時代の大きな問題となっています。

『今日は書く 明日は書こうと 遺言書』

ツトムさん(73歳)

〈講評〉遺言書をきちんと書こうと思ってもなかなか書けないのが世の常です。気分的に自分がいなくなるという思いに寂しさもあり、まだまだ書くのは早い、引き伸ばしたい、という思いも浮かんでくるとなかなか書けません。正月の三が日に遺言をしたためるなど、書くきっかけや習慣を身に付けるのも良いかもしれません。

今回の受賞者4名にインタビューをし、作品にどのような思いが込められているのかを聞くことができた。

まず、大賞を受賞したもみじさんは、以前から公募ガイドやインターネットで気になる情報を見つけては、積極的に応募しているという。公募に参加するためにアルバイトをしてパソコンを購入し、パソコン教室にも通い始めたのだとか。

「マウスの動かし方から習い始めたんですよ。まだまだ分からない機能だらけですが、(文字数が少ない)川柳なら気軽に応募できるかなと思って、知恵を絞りました」

受賞作『かあさんを 頼むと父の 強い文字』には、もみじさんの両親を思いやる気持ちが込められている。

「口には出さないけれど、父は専業主婦で世間を知らない母を心配しています。もしも自分が先立ったら…と考えているのでしょう。そんな父の思いを代弁するわけではありませんが、分かりやすく真っすぐな気持ちをイメージして書きました」

まだ遺言は作成していないと言うが、「保険会社に勤めていた経験があり、主人は現在も保険代理店をやっているので、遺産について他の方より目や耳にする機会は多いと思います。“あとは残されたもので仲良く分けて”と曖昧なままご本人が亡くなった場合、仲が良かった親、兄弟でさえしこりが残ることもありますので、明確に書いておくのは優しさかもしれませんね」と語った。

写真:遺言を書く男性の老人
遺言を書くことは家族への思いやりでもある

続いて、入賞者の富クルーズさんの受賞作は『遺言で 結び直した 赤い糸』。これから迎えるエンディングで夫婦の絆を強くしたいという率直な気持ちを表現したと語る一方で、ゆいごん川柳を通して、遺言に対するイメージも変わったとも話す。

「遺言というとお金のことばかりのイメージがありますが、それだけではないのですね。過去の受賞作に『遺言は 最後に書ける ラブレター』という川柳があったように、気持ちを残すものだと思うようになりました。これから遺言書を作成する予定です」

もう1人の入賞者の紫苑さんは、川柳を読むのが趣味で新聞などにも応募しているが入賞したのは初めて。また、今回の受賞者の中で唯一、遺言書を作成している。

「下手な鉄砲方式で数多く応募していますが、なかなか成果が出なかったので、今回はとてもうれしかったです」と話す。受賞作『相続で 困る田舎の 古い家』については「最近では子どもが都会へ行き、故郷へ戻らないことから“限界集落”という言葉ができたという報道を参考にしました。五・七・五の制約があるので、語彙をいかに削るか、工夫しました」と語った。

最後の入賞者、ツトムさんの受賞作『今日は書く 明日は書こうと 遺言書』には、遺言に対する意識はありながらも、なかなか書き出せない心情が良く表れている。

「私は日本の文学や歴史が好きで、暇に任せて時々俳句や短歌などを書いております。たまには応募してみるのもよいかなと送ってみたら、入賞したのでびっくりしました。川柳のとおり、遺言書はまだ書いておりませんが、妻と2人だけですので、妻には必要事項を書いたものを渡してあります。まだまだ余生はこれから。世界遺産を巡る旅というブログを書いていますので、これからも海外旅行を楽しみながらブログを続けて行きたいと思っています」

ツトムさんのように、遺言を書いた方がいいと思いながらも、きっかけがないと書き出せないという人も多いだろう。しかしながら、人生はいつ、何が起こってもおかしくない。ぜひこの機会に、残される家族に対する想いや、伝えておきたいことなどを、改めて考えてみてはいかがだろう。

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