日本財団ジャーナル

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保護者の支援は子の支援。子どもと保護者、そして保護者同士のつながりも紡ぐ「第三の居場所」

この記事のPOINT!
  • 「第三の居場所」における保護者支援は、子どもの支援につながる
  • 保護者にそっと寄り添う、スタッフは子育ての「パートナー」
  • スタッフが保護者同士もつなぐことで、「みんなで子どもを見守る」居場所へ

取材:中野綾香

日本財団では、困難な家庭状況にある子どもたちに学習や生活面で支援を行う「第三の居場所」事業(別ウィンドウで開く)を実施している。2020年8月現在日本全国に34拠点開設しており、今回紹介する拠点では、生活困窮家庭の子どもたちへの支援だけでなく、保護者への支援にも積極的に取り組んでいる。

追い詰められていく保護者と子ども

「ここに通う子どもの保護者は、自分の困難を一人で抱え込んでしまっている場合が多いように思います。周囲の人にどう頼ればよいか分からない、頼ってよいかも分からない。そのような状況の中で、保護者が自分自身を追い詰めてしまうんです」と、拠点を運営する佐藤さんは話す。

保護者が自分を追い詰めてしまうのは、自身の子どもの言動が理由であることが少なくない。そこで、拠点のスタッフは、まずは小さなところからでも、子どもの言動が変わるように支援しているという。

例えば、ある保護者が、わが子が宿題をしないことに苛立ちやストレスを抱えているときは、子どもが拠点にいる放課後の間に宿題に取り組むようにスタッフが支援したりする。

写真:机の上に置かれたテキストやノート、鉛筆に消しゴム
第三の居場所では、子どもの特性に合わせた学習支援を行っている

ただ、このような子どもへの支援だけでは十分ではない。保護者が自分を追い詰めてしまうことにはもっと根深い要因がある。佐藤さんは、拠点に通うある母子家庭について、保護者の思いを汲み取ってこう語る。

「その子はお母さんのことが大好きで、お母さんもその子のことをとてもかわいがっているんですよね。でも、だからこそ、『あの家庭には、お父さんがいないから、やっぱりね…』と周囲から思われないように、子どもを『良い子』に育てなければ、とプレッシャーを感じてしまっていたんです」

この母親は子育てにおいて、自らに「わが子を良い子に育てなければならない」というプレッシャーをかけていたのである。このプレッシャーに自分自身が追い詰められていく中で、わが子に厳しく当たってしまっていた。

しかし、その根底に潜んでいるのは、わが子への憎しみなどではなく、母から子への大きな愛情であった。この愛情に裏づけされた厳しいしつけによって、子どももまた追い詰められていた。

このケースのように親も子も追い詰められた状況から抜け出すことはとても難しい。保護者にとっては、どのようにしたら、わが子を「良い子」に育てることができるのかも分からない。また、「わが子を良い子に育てなければならない」という考え方自体から抜け出す方法も分からないのである。

佐藤さんは、このようになってしまうのは、保護者が持つ子育ての「経験の幅」が原因だという。

「仕事も忙しい中、一人で子どもに接していると、保護者はご自身の親から受けた扱いや、今自分が知っている子育ての仕方だけから、何とかして子どもへの接し方を絞り出そうとしてしまいます」

子どもと保護者をつなぐ。スタッフは保護者の「パートナー」

保護者も子どもも追い詰められる苦しい状況。この状況を少しずつでも打開していくために、この居場所では、保護者が「子どもの視点に立つ」ための支援を行っている。保護者が一旦、自分の考え方を脇に置いて、子どもの視点に立って、子どもの言動の背景や思いに考えを巡らせることができるように、スタッフは、保護者と一緒に悩み、考える「パートナー」となる。

まずスタッフは、毎日の送り迎えや面談の時間を通じて、保護者と関係を深めながら、保護者が自分自身の感情に向き合うことを促していく。その中でスタッフが保護者に厳しいことを言わざるを得ないときは、スタッフの間で役割分担をして、一部のスタッフが保護者の味方になるなど、保護者が孤立しないように工夫する。

このように、スタッフ同士が連携しながら、一人一人の保護者にきめ細かく寄り添っていくのである。

「そうして保護者に寄り添っていくことで、保護者としては、自らの子育てに関する考え方や感情が整理されていくんですよね。保護者は、子どもが何か約束事を破ったとしても、『叱りつけたい』という思いを一旦、飲み込めるようになっていきます。子どもの視点に立つことで、どうして子どもが約束事を守れなかったのかを、保護者自身も考えるようになる。こうして、保護者は、約束事をできる限り守るための方法について、子どもと話し合うようになっていくんです」

保護者が自分の状況を受け入れてくれると子ども自身が実感できるようになると、子どもは保護者に自分の感情を素直に表現できるようになっていく。つまり、保護者の変化が子どもの変化にもつながっていくのである。

保護者と保護者とをつなぐ。スタッフは保護者同士の架け橋となる「ファシリテーター」

この居場所における保護者支援は、一世帯の中に閉じた短期的な支援にとどまらない。

「ここに通う子どもたちは、近い将来、この『第三の居場所』から巣立っていくことになります。ですが、拠点から巣立った後も、子どもと保護者との関係は、ずっと続いていくんです。その時、保護者にとって頼ることのできる存在が、ここのスタッフしかいなかったらどうなるのでしょうか。そこで、私たちスタッフは、子どもと保護者にいま寄り添うだけでなく、その家庭の未来を見据えて寄り添う必要性を感じています」

こうした考えのもと、この居場所にて取り組んでいるのが、保護者同士のつながりをつくることである。スタッフは、保護者と保護者とをつなぐ「ファシリテーター」としての役割を担い、保護者同士がコミュニケーションを取りやすい環境をつくりだしている。

例えば、ある保護者が悩んでいるとき、過去に同じような悩みを抱えていた他の保護者に、その悩みを乗り越えた経験を語ってもらうよう、さりげなくお願いすることもある。

「同じような経験をした他の保護者からの言葉って、本当に心強いんですよ。自分一人で悩んでいた保護者も、ああ、これでいいんだなって思えることで、子どもと接するときに感じるストレスが減っていくんです。そして、結果的に子どもを安心して受け入れられるようになっていきます」

このように、拠点の活動を通じて生まれた保護者同士のつながりは、日常的な子育てにも生きてくる。

ある父子家庭の保護者は、「自分の娘にどう接したらいいか分からない」という悩みを抱えていた。一方で、ある母子家庭の保護者は、「自分の息子にどう接したらいいか分からない」という悩みに直面していた。

そこで、スタッフが双方の保護者をつなぐことで、保護者同士が互いの視点を補完し合えるようになり、互いの悩みを解決していくことができたという。

写真
保護者会が行われる日に出されたカレー。親子で食事をした後、保護者同士でコミュニケーションをとる場が設けられた

「第三の居場所」は「みんなで子どもを見守る」居場所

この居場所に通うことで、最初は子どもと保護者との間に閉じていたつながりが、外へ外へと広がっていくことになる。子どもたちは、スタッフからの支援を受けることで、言動が変わっていく。そして、保護者もスタッフに寄り添ってもらうことで、自分の言動の裏側にある感情に向き合えるようになる。

また、保護者同士のつながりも生まれることで、今まではわが子への対応で精一杯だった保護者も、他の家庭の子どもに目を向けることができるようになる。そして、拠点全体に、子どもたちをみんなで見守っていく雰囲気が醸成される。

「保護者同士の関係性が出来てくると、自分の子ども以外にも『頑張ってるね』などと、声を掛ける保護者の方々が増えてきます。そうやって、他のご家庭のお父さん、お母さんに話しかけてもらうことで、子どもたちも、自分の親族やスタッフだけではない、外向きの開かれたつながりを意識できるようになっていくんです。私たちにとっては、とてもささいな会話であっても、子どもたちにとっては、『自分はここにいてもいいんだ』という居場所と安心感を得るきっかけとなっています」

保護者だけではなく、スタッフと一緒に子どもの成長を見守っていく。そして、他の保護者も含めて、みんなで子どもたちの成長を応援していく。このように、「第三の居場所」は、まさに「みんなで子どもを見守る」居場所である。

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