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食の支援が「経験の格差」を埋める。Uber Eatsによる子ども食堂への食事無償提供から見えてきたこと

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写真左から、子ども世界テーブルを運営するスタッフの加藤さん、代表の奈良さん、スタッフの粟井さん
この記事のPOINT!
  • 新型コロナウイルスの影響で、経済的困窮や孤立に直面する子どもたちが増加
  • Uber Eatsが、日本財団を通して困窮世帯に食事を無償提供
  • 食の支援は、単なる経済的な支援にとどまらず、困窮世帯の子どもたちの「経験の格差」を埋める手段となる可能性も

取材:岡本実希

年収200万円未満の世帯においては、3割の世帯で収入が5割以上減少。支援団体には住宅費・学費・食費等に関するさまざまな相談が寄せられている──。

これは、新型コロナウイルスによる子育て世帯への影響を調査した朝日新聞のアンケート(別ウインドウで開く)結果だ。

日本では、およそ7人に1人が相対的貧困(※)の状態にあると言われているが、新型コロナウイルスによる休校措置・休業要請で、困窮状態の子育て世帯には特に深刻な影響が出ている様子が伺える。

  • 相対的貧困とは、その国の等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分に満たない世帯のこと

そんな中、オンラインフードデリバリーサービス「Uber Eats(ウーバーイーツ)」(別ウインドウで開く)が、困窮世帯や難病児がいる世帯、医療従事者等に4万食の食事を無償提供(別ウインドウで開く)。日本財団が支援する第三の居場所(別ウインドウで開く)や「子ども食堂」(※)にも食事が届けられた。

  • 子どもたちに無料もしくは低価格で食事を提供するコミュニティ。地域住民などが主体となり運営されていることが多い。経済困窮世帯に限らず広く門戸が開かれており、食事の提供に加えて子どもたちの孤立を防ぐ居場所機能も持つ

サポートを利用した世帯からは「収入が減って食費を切り詰めていたので安心した」といった声だけでなく、「食事の用意をする時間を、親子で話す時間に当てられた」「普段はできない経験を子どもにさせてあげられた」といった声が寄せられるなど、食の支援の多様な意義が浮かび上がってきた。

今回は、支援先の一つでもある渋谷区の子ども食堂「子ども世界テーブル」(別ウィンドウで開く)に、取り組みから見えてきた食の支援の重要性や、今後子ども食堂が地域で担っていくべき役割について伺った。

新型コロナウイルスの影響で、子育て世帯の負担増

「子ども世界テーブルでは、月に1回、子どもたちとシニアボランティアが集まって、一緒に世界各地の料理を作ったり遊んだりするイベントを行っています。食事の提供にとどまらず、多世代交流などの普段はできない経験を通して、子どもたちの世界が広げられたらと考えています」

写真:みんなの世界テーブルが主催するイベントの様子。左は、スタッフの説明に耳を傾ける子どもたちと高齢者。右は、高齢者と遊ぶ子ども
イベントの様子。核家族が増え、シニア世代と関わる機会の少ない子どもたちも多い。多世代交流は、子どもたちが普段は知ることのできない世界に触れるきっかけになる

そう話すのは、子ども世界テーブルの代表を務める奈良直美(なら・なおみ)さんだ。同団体は2019年から活動を開始。小学生を対象としたイベントには毎回20名ほどの子どもたちが集まるという。

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子ども世界テーブル・代表の奈良さん

東京都渋谷区は、こうした子ども食堂の活動をサポートする「渋谷区こどもテーブル」(別ウィンドウで開く)を2016年から実施。日本財団も「渋谷区×日本財団 ソーシャルイノベーションに関する包括連携協定」(別ウィンドウで開く)に基づき、同プロジェクトを支援してきた(※)。

  • 無償、または低額で食事を子どもたちに提供するなど一定の基準を満たす子ども食堂や子どもの居場所に対して、日本財団より年額2万円~5万円の追加の財政支援を実施。子ども世界テーブルは、2020年度から支援対象団体となっている

これまで子ども世界テーブルは地域交流センターでイベントを実施していたが、新型コロナウイルスの影響で、2月からイベントを休止。代わりに7月からは子どもたちが自宅で取り組める料理・工作キットを配布している。

イベントの中止や活動内容の変更に伴い、奈良さんが保護者の方々に連絡したところ、新型コロナウイルスの影響で「食」に関する負担感が増したと話す人は少なくなかったと言う。

「小学校や保育園の休校・休園で給食がなくなり、食事の準備が大変になったと話す保護者の方は多かったですね。『子どもたちが自宅にいると食事の準備に時間が割けない』『感染予防のために子どもを家に残して買い物に行きたいが、その間子どもを見ていてくれる人がいなくて困っている』といった声も多く、金銭的な負担に加え、精神的な負担も感じられている様子でした」

Uber Eatsが食事を無償提供。単なる経済支援を越えた多様な意義

そうした中、Uber Eatsによる食事の無償提供が行われた。これは、Uberが新型コロナウイルスに関する支援策として世界中で進めている乗車・食事を無償提供する取り組み「Move What Matters」の一環だ。

日本では、医療従事者に対して約3万食を配布。また日本財団が全国で展開する困窮家庭の子どもを支援する施設「第三の居場所」(別ウィンドウで開く)や、日本財団が助成を行う「子ども食堂」、難病の子どもがいる世帯などには、計1万食が届けられた。

今回、子ども世界テーブルを通して食事が届けられたのは、ひとり親世帯や、障害のある子どもや高齢の家族をケアする世帯、不登校の子どもがいる世帯などさまざまだ。

利用者から届いた声からは、食の支援のさまざまな意義が垣間見えたとスタッフの粟井孝恵(あわい・たかえ)さんは話す。

「ひとり親世帯の保護者の方から『UberEatsのサービスを利用したことで、子どもとゆっくり話す時間が取れた。久しぶりに宿題も見てあげられた』と連絡をもらいました。普段は仕事から帰ると、買い物、食事の準備、後片付けと息をつく暇もなかった、と。その手間がなくなったことで、子どもと過ごす時間に当てられたと喜んでいらっしゃいました」

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スタッフの粟井さん(写真右)

さらに、他の利用者からはこんな声も届いたという。

「お子さんの誕生日にUber Eatsでケーキを頼んでお祝いをされたご家庭もありました。保護者の方は『子どもにとって大切な日に、喜ぶ顔を見られてうれしかった』とおっしゃっていました。また、『Uber Eatsではたくさんの種類から食事を選べるのがうれしかった』という声もいただきましたね。普段はあまり食卓に並ばない料理が届いたことで、子どもたちは『お盆とお正月が一気に来たみたい!』と大喜びだったと伺いました」

以前から、困窮家庭においては経済的格差にとどまらないさまざまな「格差」の存在が指摘されてきた。

例えば、困窮家庭やひとり親世帯においては、親子が一緒に過ごす時間が短くなったり(阿部,2011※1)、「子どもの誕生日を祝う」といった経験が少なくなったりする傾向がある(大阪府,2017※2)と言われている。

  • 1.阿部彩 (2011)「子どもの社会生活と社会経済階層(SES)の分析 -貧困と社会的排除の観点から-」こども環境学研究,7(1),p.72-78.
  • 2.大阪府(2017)「大阪府子どもの生活に関する実態調査報告書」,p.121

今回浮かび上がってきたのは、食の支援が単なる経済支援にとどまらず、上記のような子どもの「経験の格差」を埋めていくための手段となる可能性だ。

継続的な支援や、効果に関する丁寧な調査が必要ではあるものの、食の支援には単なる食費の補填(ほてん)を越えた多様な意義があることが示唆された。

今後必要な支援とは?子ども食堂が地域で果たす役割

さらに、代表の奈良さんは、今回の取り組みを通して新たに気付いたことがあると話す。

「子ども世界テーブルは、これまで子どもたちに家族構成や家庭環境などを聞いてはこなかったんですね。『誰でも安心して来られる・居られる場所』でありたいと考えていたので、根掘り葉掘り聞いて、子どもたちに『ここには来たくないな』と思ってほしくなかったからです。でも、今回各ご家庭に食事を届けるに当たって初めてご家庭の状況を保護者の方に詳しく伺いしました。ひとり親家庭の方や、介護・障害のあるお子さん、高齢者の方のケアを行っているご家庭など、特にサポートを必要としている世帯に気付くきっかけになりましたね」

子ども食堂は困窮世帯の子どもに限らず、広く門戸が開かれている。そのため「スティグマ」(※)を避けた支援ができるというメリットがある。

  • ある特定の集団や属性に対して抱かれる「負のイメージ」のこと。差別や偏見を助長する可能性がある

しかし、一方で各家庭の状況が詳細に把握できず、特にサポートを必要とする世帯に対しての働きかけがしづらいというジレンマを抱えることも多い。

そうした中で、今回のように企業等と連携して個別の家庭にアプローチしたことで、これまで見えていなかった困難を知ることができた。今後の活動に生かしていくためのよい機会になったと奈良さんは話す。

今回の取り組みを踏まえ、今後の活動をどのように進めていくのか。最後に、スタッフの加藤美由紀(かとう・みゆき)さんから、子ども食堂が地域において果たす役割についての展望を伺った。

「これまでは、子どもたちや保護者の方への直接支援をメインで行ってきました。しかし、今回の取り組みを通じて、子ども食堂には、サポートをしたいと考えている企業や支援者と、子育て世帯とをつなぐ窓口としての役割もあるのではないかと気付きました。これからもサポートの裾野を広げるために必要な役割を、地域で担っていきたいですね」

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