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【増え続ける海洋ごみ】海ごみ削減、生物多様性の保全、地球温暖化———未来につなぐ女子高生たちのアクション

写真左は動物園で実施したエコ啓発イベントで来場者に話をする女子高生。右は、広場で観客を前にダンスパフォーマスを行う女子高生たち
全国の女子高生たちが環境問題について社会に発信するBlue Earth Project。写真提供:Blue Earth Project
この記事のPOINT!
  • Blue Earth Projectは、環境問題に取り組みながら生徒たち自身の成長を促す、女子高生のプロジェクト型キャリア教育
  • 学校の外に出て、自ら考える力、伝える力を養うことで、社会の中で臨機応変に対応する力を養う
  • 「自分だから」できることから始めてみる。その姿勢と行動が、社会に変化をもたらす

取材:日本財団ジャーナル編集部

「女子高生が社会を変える!」を合言葉に、2006年に神戸の松蔭高校で始まり、今や全国・海外の高校へと広がった「Blue Earth Project(ブルー・アース・プロジェクト」(外部リンク)。これは、さまざまな環境問題に対して、女子高生が「自分たちだから」できる身近なアクションを考え、エコ啓発キャンペーンやイベントを実施して社会に向けて発信する、プロジェクト型の新しいキャリア教育だ。

これまでに国内外合わせて19ヵ所、1,000人以上の女子高生が参加し、「環境破壊による生物多様性の危機」「プラスチックごみの削減」「節電・新エネルギー」といったグローバルな環境問題に取り組んできた。

その独自性のある活動内容や、一つの高校から全国の高校生への展開、社会的インパクト等が評価され、2019年より日本財団と環境省が実施する、海洋ごみ対策の優れた取り組みを表彰する「海ごみゼロアワード」2021年度の最優秀賞にも選ばれた。

日本財団・環境省「海ごみゼロアワード2021」授賞式の様子

今回はBlue Earth Projectの生みの親である松蔭高校の嘱託教員でNPO法人Blue Earth Projectの代表理事を務める谷口理(たにぐち・ただし)さんと、メンバーの女子高生たちに、プロジェクトの意義と魅力について話を聞いた。

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学校で蓄積した知識を、社会で活かす経験を

谷口さん「あれは1995年に起きた阪神淡路大震災での出来事。私が教鞭をとっていた松蔭高校は被災地の中心にあり、一時的に授業の継続が難しくなって、一部の学生たちが復興作業を手伝っていました。自分たちも被災しているのに、生き生きした表情で炊き出しなどをする学生たちとそんな彼女たちに感謝する人々。その光景を目の当たりにして『女子高生が世界を変える』というフレーズが、ふと思い浮かんだんです」

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阪神淡路大震災当時のことを振り返る谷口さん

その谷口さんの思いが形となり、2000年にスタートしたのが、Blue Earth Projectの前身となる、高校3年生を主体としたキャリア教育「チャレンジプログラム」。国際理解交流や地域活動、奉仕活動などを通して、目標に向かってチャレンジする姿勢を育むことが目的だった。

谷口さん「学校での勉強はもちろん大切ですが、知識の蓄積一辺倒なところに疑問を感じていました。実際の社会では、どれだけ知識を蓄えたかではなく、その知識をどう使うかが問われるわけで。高校生活の中で、その練習ができるプログラムをつくりたいと考えていたのです」

2006年以降、チャレンジプログラムはBlue Earth Projectへと進化。環境問題をテーマに、3つの取り組みを活動の柱にしている。

  • エコレクチャーを受けてのフィールドワーク(リサーチ活動)
  • 自分たちが広めたいアクションを、商業施設や飲食店に協力をお願いする店舗アタック
  • 社会に向けて、自ら気付いた環境問題や身近なアクションを訴求するエコ啓発イベント
Blue Earth Projectを象徴する取り組みの1つ、店舗アタック。写真提供:Blue Earth Project
写真:森の中で行われたフィールドワークに参加する女子高生たち
環境問題の実情を知るために必要なフィールドワーク。写真提供:Blue Earth Project
写真:商業施設の中でブースを設けて行われた女子高生たちによる啓発イベントの様子
社会にインパクトを与えるために重要なエコ啓発イベント。写真提供:Blue Earth Project

谷口さん「Blue Earth Projectが大切にしているのは『伝えること』『コミュニケーション能力を上げること』です。学校の中ではなく校外の社会の中で自分たちの力を試すことで、時代に臨機応変に対応する力を身に付けてほしいと考えています」

進路が決まった高校3年生を対象に、自由に時間が使える高校3年の12月から本格的にプロジェクトはスタート。1月、2月で合計200時間も費やすというハードな内容だが、「卒業する頃には、参加者の大半がエコラー(環境問題に詳しく、自分なりにアクションを起こせる人)になっており、人としても一回りも二回りも大きくなっています」と、谷口さんはこれまでのプロジェクトを振り返る。

Blue Earth Projectを卒業した女子高生の中にはNPO法人Blue Earth Projectとして活動を続けるメンバーも(2012年12月現在、神戸で30人、東京で20人が所属)。大学で勉強やアルバイトに励み、青春を謳歌しながらも、全国各地の高校を訪れての環境ワークショップや、環境省の関連イベント等で環境問題に関わる取り組みを続けているという。

「女子高生だから」できることで出会った人々に変化をもたらす

Blue Earth Projectはやがて全国の高校へと広がり、ユースチーム「チームY(Youth)」として高校1年生、2年生も参加するようになった。

そして今回、東京、神奈川、富山、神戸の高校に通うチームYに所属する5人の女子高生が取材に応じてくれた。

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オンライン取材に応じてくれたBlue Earth Projectに参加する女子高生たち

清岡優心(きよおか・こころ)さん
神奈川県の高校2年生。街中(飲食店等)でマイボトルの無料給水スポットの開拓を計画。

佐藤望花(さとう・もか)さん
神奈川県の高校2年生。海洋ごみによるウミガメの危機について動画を作成・発信。

中邑真采(なかむら・まあや)さん
富山県の高校2年生。地元、富山の海岸(岩瀬浜海岸)で継続的に清掃活動を実施。

田路心響(たじ・ここね)さん
神戸市の高校2年生。ウミガメに関する動画の作成の他、動物園での海洋ごみの啓発イベントを実施。

平野莉央(ひらの・りおさん)
東京都の高校2年生。海洋ごみによる海鳥(ウミガラス)の危機について動画を作成・発信。

清岡さん「Blue Earth Projectに参加している学校の先輩たちや谷口先生の熱いプレゼンを聞いて、この活動に興味を持ちました。もともと環境問題については興味があり、小学生の頃から勉強したりしていました」

Blue Earth Projectに参加した理由を、清岡さんは振り返る。

Blue Earth Projectへの参加のきっかけを語る清岡さん

他の女子高生たちも「SDGsって何だろう?という気持ちと、参加していた先輩が輝いて見えた」「先輩がやっていて、面白そうだったので」と、環境問題への関心の高さと身近な人の取り組む姿に感化されてといった理由が多い。

現在、佐藤さんと田路さん、平野さんはすでにプロジェクトを終え、清岡さんと中邑さんは活動を継続中とのことだ。

佐藤さん「海洋プラスチックごみの問題について知ってもらうためにアオウミガメの動画を作成しました。動画自体は3分と短いものですが、水族館にアポイントを取って、飼育員の方にインタビューをしたり、実際にウミガメを見て動画を撮影したり、ナレーションを入れたりと仲間と役割分担して作成しました」

自分たちで考え、企画することでSDGsについて理解を深めることができ、取材や動画を作成した経験は今後きっと活きてくると実感したと、佐藤さんは語る。

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アオウミガメの動画を作成した時のことを振り返る佐藤さん

田路さんも同じく、ウミガメに関する動画を作成した。

田路さん「海洋プラスチックごみやウミガメの問題について発信をすることになり、海岸でのごみ拾いも行いました。動画を作る際は、チームでお互いの得意なことを活かしながら、ウミガメの保護活動を行うNPOや動物園にお話を聞きに行ったりしました。知らない大人の人と交渉をするのは初めてのことで緊張しましたが、とてもいい経験になりました」

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海洋ごみやウミガメの問題に対する自分たちの活動を振り返る田路さん

動画を作る際には、子どもたちにも分かりやすいようアニメ風にするなど工夫して、問題を身近に感じてもらえるよう心掛けたという。

そんな田路さんは、2021年11月に動物園内でブースを設けて、屋外での開催は約2年ぶりとなる環境問題啓発イベントも実施した。

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神戸どうぶつ王国で田路さんたちが実施したエコ啓発イベントの様子。写真提供:Blue Earth Project

平野さんは、海洋プラスチックごみの問題を伝えるため、チームの仲間たちと話し合いウミガラスを題材に選んだと言う。

平野さん「私たちは、現在、海洋プラスチックごみが原因で絶滅の危機にあるウミガラスをテーマに動画を制作しました。ウミガラスってメジャーな動物ではないと思いますが、だからこそ多くの人に現状を知ってほしいという思いがあります」

水族館に足を運んでウミガラスの生態や現状について話を聞き、その内容を動画にまとめたと言う。

「動画はYouTubeにアップしたのですが、その際に大事にしたポイントは、視聴する人が最初に目にするサムネイルはインパクトのあるものを選び、どれだけ印象付けられるかを工夫しました」

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動画を作成した時のポイントについて話す平野さん

Blue Earth Projectではエコ啓発イベントを行う際、通常は街中の大きな商業施設等で実施することが多いが、コロナ禍ではYouTube(外部リンク)など動画配信サービスも手段として活用している。

初めての取材や動画作成体験について、苦労したことや工夫したポイントについて語る彼女たちの姿は生き生きとしていた。

画像:「どうぶつたちのすむところ」マップ&ムービーのTOP画面
Blue Earth Projectで制作した動画を視聴できる「どうぶつたちのすむところ」マップ&ムービー。見たい動物のイラストをクリックすると動画が視聴できる

中邑さん「私は、地元にある岩瀬浜海岸で継続的にごみ拾い活動や漂流物の調査を行っています。広い海岸をチームのメンバーだけで清掃するのはとても大変ですが、清掃を行った後にきれいになった海岸を眺めながら、地元の人が喜んでくれる姿を思い浮かべると、やりがいを感じますね。漂流物調査ではマイクロプラスチックのもととなる農業用の肥料カプセルなども見つかることも…。この現状をもっと多くの方に知っていただきたいです」

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海ごみの清掃活動を続けるやりがいについて語る中邑さん

中邑さんは他にも、マイタンブラーのデザインをしたり、子ども向けに海洋問題を扱ったオリジナル紙芝居の読み聞かせをしたりする活動にも取り組んでいる。

高校1年生からBlue Earth Projectに参加しているという清岡さんは、主にプラスチックごみの削減に対する取り組みを行ってきた。

清岡さん「これまでは『傘から広がる未来のあたりまえ』と題して、行き場のなくなった傘の布部分をマイバックや傘袋に改良して再利用する活動を行ってきました。現在は、飲食店の方などに協力してもらって街にマイボトルの無料給水スポットを設置し、それを広げていく計画を立てています」

店舗アタックを通して「みんながマイボトルを活用し、ペットボトルのごみが出ない街づくりを目指したい」と、清岡さんは意気込む。

彼女たちの取り組みは、活動する中で出会った人たちや、キャンペーンやイベントに参加した地域の人々に気付きを与え、元気を与えている。

「高校生たちが頑張る姿を見て、自然と応援してあげたい気持ちにさせられます」

「寒い中で一生懸命に啓発活動する高校生たちの姿を見てとっても感動しました」

「高校生たちに接すると、いままで何もできていなかったな、何かできることをしなければと思うようになりました」

そういった声が彼女たちのもとには多く寄せられている。関わる人々に、確実に意識の変化をもたらしているようだ。

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店舗アタックをする女子高生と協力してくれた飲食店の方(2018年の活動より)。写真提供:Blue Earth Project
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店舗アタックに協力してくれた飲食店の人々(2019年の活動より)。写真提供:Blue Earth Project

「自分だから」できることから始める大切さ

谷口さんは、Blue Earth Projectを通じて、日本の教育に変革をもたらし、環境問題解決のインパクトを高めたいと語る。

谷口さん「学校の枠を超えて学生たちが自由に学べるように、後押しできればと。2025年には大阪万博が開催されますが、そこに向けて他校の女子高生やNPOで活動する大学生ともっと連携を図っていきたいと考えています」

写真:買い物に訪れたたくさんのお客さんの前でダンスパフォーマンスを行う女子高生たち
商業施設の屋外広場で実施したエコ啓発イベントの様子(2018年の活動より)。写真提供:Blue Earth Project
写真:屋外ステージの上で歌って踊りメッセージを届ける女子高生たち
商業施設の屋外ステージで実施したエコ啓発イベントの様子(2019年の活動より)。写真提供:Blue Earth Project

取材に応じてくれた女子高生たちにも今後の抱負を聞いた。

佐藤さん「私たちが作った動画をもっと多くの人に見てもらえるよう工夫したいです」

田路さん「マイボトル、マイバックの必要性について発信していきたいです」

平野さん「海洋プラスチックごみ問題について、日本と世界の比較をして発信できれば」

中邑さん「環境問題は見たり、聞いたりしているだけでは分からないことばかり。多くの方を巻き込んで、一緒に海へ行って活動したい」

清岡さん「新型コロナウイルスの様子を見つつ、私もビーチクリーン活動などを続けていきたいです」

深刻化する環境問題に対し、「女子高生が社会を変える!」を信念に、自ら考え、工夫し、社会に向けて発信し続ける女子高生たち。その姿に「自分にできる」ことから始める大切さに改めて気付かされた。

彼女たちの活動がより多くの地域に広がれば、より多くの人々に変化をもたらし、きっと社会は良くなるだろう。

Blue Earth Project 公式サイト(外部リンク)

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