日本財団ジャーナル

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必要なのは個人と社会の2つの視点。JobRainbow代表・星賢人さんに問うLGBTの就労課題

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LGBT専門の転職・就活求人サイト「JobRainbow」を運営する代表の星賢人さん。星さん自身もLGBT当事者だ
この記事のPOINT!
  • 少子高齢化で労働人口が減る中、多様な人材が活躍できないことは大きな機会損失
  • JobRainbowでは求人企業のD&I(※)を可視化することで、当事者が働きやすい職場情報を提供
  • 個人と社会の2つの視点を持つことが、誰もが働きやすい社会につながる
  • 「Diversity&Inclusion(ダイバーシティ&インクルージョン)」の略。性別や年齢、人種、障害の有無などに関係なくそれぞれの多様性を尊重し、活かし合う考え方

取材:日本財団ジャーナル編集部

LGBTとは、「Lesbian(レズビアン)」「Gay(ゲイ)」「Bisexual(バイセクシャル)」「Transgender(トランスジェンダー)」の頭文字をとった、性的少数者(セクシャルマイノリティ)を表す言葉の総称の1つ(※)として用いられる。

  • レズビアン=女性の同性愛者(心の性が女性で好きになる性も女性)
  • ゲイ=男性の同性愛者(心の性が男性で好きになる性も男性)
  • バイセクシャル=両性愛者(好きになる性が女性にも男性にも向いている)
  • トランスジェンダー=「身体の性」は男性でも「心の性」は女性というように、「身体の性」と「心の性」が一致しないため「身体の性」に違和感を持つ人

日本におけるLGBTの割合は、民間の調査団体による調査で「10~13人に1人」(※)が通説となっている。人口にして約950万~1,000万人となり、決して少ない数字ではない。

近年はLGBT関連のテーマがメディアで取り上げられることも増え、D&I推進の一環としてLGBTへの取り組みに力を入れる企業も増えてきた。

しかし、身近な存在になってきたとはいえ、LGBTの就労・雇用における課題はまだまだ多く、2020年に厚生労働省が行った調査(外部リンク)では、LGBの約4割、トランスジェンダーの約5割が職場で困り事を抱えていることが分かった。

図表:職場で困り事を抱えるLGBTの割合

円グラフ:
LGB(同性愛や両性愛者
あり36.4%
なし63.6%
トランスジェンダー	
あり54.5%
なし45.5%
職場で困り事を抱えるLGBは36.4パーセント、トランスジェンダーは54.5パーセントに上った。出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「令和元年度 厚生労働省委託事業 職場におけるダイバーシティ推進事業報告書」

一方で、LGBT専門の転職・就活求人サイトを運営する株式会社JobRainbow(外部リンク)の代表を務める星賢人(ほし・けんと)さんは、企業側も「どのように取り組めばいいのか分からない」などの悩みを抱え、当事者に配慮した採用活動や職場環境が整えられずにいるところも少なくないと言う。

今回は、当事者と企業の間に立ち、共に働きやすい職場・社会をつくるべく尽力している星さんに、誰もが自分らしく働ける社会づくりについてお話を伺った。

LGBTの就労・雇用の課題は山積み

「LGBT?サンドイッチのこと?」

「ダイバーシティを掲げてはいるけど、女性活躍で止まっている」

「うちの地域にはLGBTはいませんよ、家族世帯が多いので」

これらは、星さんがJobRainbowを立ち上げた2016年、企業や行政に対しLGBTの就労問題について説明を行なった際に返ってきた言葉だ。実は星さん自身もゲイであることを公表しているLGBT当事者である。当時はまだLGBTという言葉すら浸透していなかったこと、身近な存在だと認識されていなかったことで、理解してもらうことに苦労したという。

それから6年が経った現在、星さんは「LGBTに対する社会の認知度や理解度は大きく変わった」と話す。

「今では、LGBTという用語をどこで使っても通じますよね。そこにある課題感が見えてきている人も増えつつある。メディア内での表現方法も配慮されるようになりました。以前より、多くの人がLGBTをより身近に感じる社会へと変わってきていると実感しています」

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2016年に、23歳という若さでJobRainbowを立ち上げた星賢人さん

ただ、こうした現状がLGBT当事者にとって生きやすい社会になっているとは言い難く、中でも就労・雇用面に関しては課題が多いと言う。

まず挙げられるのが差別的言動だ。「職場で放った何気ない一言が、直接的ではないにしろ、LGBT当事者の心を傷つけてしまうことがある」と星さん。

「例えば『男は結婚して一人前』という言葉は、昔から会社の飲み会などで耳にすることが多いと思うんですけど、異性同士の結婚と同程度の婚姻制度が整えられていないLGBT当事者にとっては『自分はこの会社では一人前として認められないのか……』と不安を抱える要因になってしまうんです」

また福利厚生の面でも問題を抱えている。

「長い間同性のパートナーがいて、もはや事実婚状態なのに、十分な職場の福利厚生が受けられていない人は多いですね。同性愛者の婚姻制度が整えられていればもらえるはずの家族手当や結婚休暇がもらえていないんです。本来なら平等であるべき権利が、性的指向の違いによって行使できない。LGBT当事者にとって、これほど不平等感を感じる瞬間はないでしょう」

困難さを感じているのは就労時だけではない。LGBTの⼦どもの課題に取り組む認定NPO法⼈ReBitが2018年に行った調査(外部リンク)では、LGBなどの42.5パーセント、トランスジェンダーの87.4パーセトが就職活動時に困り事を経験したと回答した。

図表:就職活動時に困り事を経験した割合

円グラフ:
LGB(同性愛や両性愛者
あり42.5%
なし57.5%
トランスジェンダー	
あり87.4%
なし12.6%
出典:認定NPO法⼈ReBit「LGBTや性的マイノリティの就職活動における経験と就労支援の現状」調査報告_20190207報告会抜粋

LGBなどの当事者でもっとも多かったのは「⼈事や⾯接官から、性的マイノリティでないことを前提とした質問・発⾔」と答えた人が約2割、トランスジェンダーの当事者は「エントリーシートや履歴書に性別記載が必須で困った」と5割近くの人が答えている。

「履歴書の性別欄はいまだ、男と女しか選べないのがスタンダードです。トランスジェンダーの人は、戸籍と性自認(自分自身が感じる性別)のどちらで性別を選べばいいのか困惑するんです。結局、真ん中の点に丸をした、という人もいますね。他にも、CSRを大きく掲げていた企業の面接でカミングアウトをしたら『私は良いと思うけど社内の人がどう思うか分からない』と言われた人も。それがきっかけで就職活動を断念した人もいるんです」

社会の枠組みにおいても、LGBT当事者は厳しい環境下にいる。長い年月を共にしたパートナーが病気やけがで命の危機に陥っても、戸籍上の家族ではないため面会できなかったり、家族の意向によって葬儀にも参列できなかったりするケースもある。法や制度が整えられていないことで、LGBT当事者がさまざまな不利益をこうむっていることは多い。

企業のD&Iを可視化。当事者が働きやすい環境を

星さんがJobRainbowを設立した理由は、こうしたLGBT当事者の就労・雇用面の不平等、不利益を受けやすい現状に憤りを感じたからだ。

「大学時代に仲良しだったトランスジェンダーの先輩が、企業面接時にカミングアウトをした際『あなたみたいな人はいないので帰ってください』と言われて、就職活動も大学も辞めてしまったんです。その時から『少子高齢化で労働人口がどんどん減る中、多様な人材が活躍できないのは大きな機会損失だ』と考えるようになりました」

また、近年LGBTフレンドリーな企業(※1)が増えてきているのに、LGBT当事者との間に「情報の非対称性※2」があることに気付いた。企業側がいくらLGBTに対する取り組みを行い発信していても、情報を欲している当事者にはきちんと届いていないことに問題を感じたと言う。

  • 1.LGBTフレンドリーな企業とは、LGBTに対する取り組みや活動を積極的に行っている企業や団体等を指す
  • 2.情報の非対称性とは、利害関係当事者である人や機関が保有する情報に差があるとき、その不均等な情報構造のことを言う

JobRainbowのサービスの特徴は、求人企業のD&Iに関する取り組みを明確に可視化している点だ。『LGBT』『ジェンダーギャップ』『障がい』『多文化共生』『育児介護』の5項目からなるダイバーシティスコア(外部リンク)で企業を評価。各項目は「行動宣言」「教育/理解促進」「人事制度」「コミュニティ」「働き方」という5つの要素に細分化され、各要素もそれぞれ4つの基準をもとにスコアを付けられており、合計100もの観点で企業のD&Iを独自評価している。

「これによってユーザーは、自分にとって働きやすい環境づくりをしている企業が定量的に分かる仕組みになっています」

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LGBT専門の転職・就活求人サイトJobRainbowのTOPページ
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5つの項目(右)
・介護・育児
・多文化共生
・障がい
・ジャンダーギャップ
・LGBT

各項目ごとに5つの要素(左)
・行動宣言
・教育/理解促進
・人事制度
・コミュニティ
・働き方

各要素ごとに4つの基準
ダイバーシティスコアの評価項目・要素・基準
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LGBT 星5つ
ジェンダーギャップ 星5つ
障がい 星5つ
多文化共生 星5つ
育児・介護 星5つ
LGBTフレンドリー企業のダイバーシティスコアの一例

また2022年4月現在、実装に向けて取り組んでいるのが、ダイバーシティタグの導入だ。応募者が「できること」「できないこと」「マイノリティな部分」などをタグ上に提示することで、他者との違いを特性として企業側に認識してもらうのが狙いだ。

ただなぜ、できないことやマイノリティな部分までタグで提示する必要があるのか。

「確かに、できないことやマイノリティな部分は弱み・マイナス面として捉えられがちです。でも、それはあくまで一方向から見た自己評価であって、他方向から見るとその人を理解するための大事な要素ですし、強みや優位性になる場合もあるんです。マイノリティな部分をマイナスとして捉えるのではなく、その人の個性・魅力として発信できる場にしていきたい、それを企業がもっと評価できる時代をつくっていきたいという思いがあり、ダイバーシティタグの導入を決めました」

ダイバーシティタグは企業側にも提示してもらう予定だという。互いに「できること・できないこと」を明確にすることで、より透明度の高いマッチングを実現し、ユーザーにとって最適な職場環境を提供できると考えている。

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JobRainbowでも、セクシュアリティ・年齢・働き方が異なる多様なメンバーがのびのびと働いている。前列右端が星さん

そんなJobRainbowでは、社会全体でのD&Iムーブメントを加速させるため、2021年7月〜10月にわたってD&Iに取り組む企業を認定する「D&I Award 2021」(外部リンク)を実施。初開催ながらも259社もの企業・団体が参加した。

その中でも星さんが強く感銘を受けたのが、中小企業部門で大賞を受賞した大橋運輸株式会社だ。

「運輸業は男性社会のイメージが強いですし、現に男性社員が多いです。それにも関わらず、大橋運輸さんは社長自ら中心となってLGBTや女性、外国人従業員の比率を増やしていきました。業界に新しい価値観を取り入れることで、多様な人材が活躍できる場をつくり出し大幅な業績アップにもつなげています」

また今回受賞には至らなかったが、星さんが印象に残っていると話すのがタクシー業界の大手、日の丸交通株式会社の取り組み。ダイバーシティとドライバーを掛け合わせて「ドライバーシティ」という標語を掲げ、D&Iに力を入れている。JobRainbow経由で入社したLGBTの社員も多く働いているそうだ。

「D&Iの取り組みを始めた当初は、従業員から『多様な人たちと一緒に働けるのか?』という不安の声もあったそうなんですが、LGBTの方が入社してからは『社内に突風が吹いたくらい変革が起きた』とおっしゃっていました。不安を抱いていた従業員も、最近は『ダイバーシティはみんなが働きやすい環境をつくるために大事だよね』と言っているそうです」

このようなD&Iの取り組みが社内や業界に新しい風を吹かせる好事例を、もっと増やしていきたいと星さんは意気込む。

必要なのは個人と社会から見た2つの視点

企業の中にはLGBTの採用に取り組みたいが「面接でカミングアウトしやすい環境はどうすればいいのか」「どのような制度を設ければいいか」といった悩みを持つところも多い。

そんなニーズに対し、JobRainbowでは、企業向けのLGBT研修や採用支援などにも力を入れている。

そうしてD&Iに取り組む企業が増えることは、誰もが働きやすい社会につながる大きな一因になることは間違いない。ただ星さんは、日本のD&Iはさらなる変化が必要だと指摘する。

「D&Iからさらに進んだ『DEIB(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン&ビロンギング)※』の考え方が企業には必要だと考えています。いまの日本のD&I は企業が主語になっていますが、これからは『社員が何をどう感じているのか』が、企業価値を左右する評価になるのではないかと。企業ではなく働く個人を主語にした考え方『Belonging(帰属意識)』が重要になると考えます」

  • DEIB とはDiversity, Equity, Inclusion and Belongingnessの略。人種や性別、年齢、障害の有無といった多様性を互いに尊重し、認め合い、公平性を重んじる、個を重視した誰もが活躍できる社会づくり

企業にDEIBの考えを浸透させつつ、真摯に取り組んでいる企業が社会から評価されるような仕組みをつくること。またユーザーに対しては、見えにくいマイノリティ性を持った個人も包含して解決に導くような仕組みをつくることが、星さんの目標だ。

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インクルージョンも大事、ただそれ以上に当事者目線に立って考えることが重要と語る星さん

最後に、誰もが自分らしく働ける社会にするために、一人一人ができることについて伺った。星さんは、個人として関わるときの視点と、社会的構造から見るときの視点の両方を持ち、バランスよく使い分けることが大切だと話す。

「LGBTを例にするなら、個々で当事者と関わるときは気張らずにコミュニケーションを取ればいいと思います。性的指向の面で違いはあるけども、そもそも人は違いがあって当たり前。それを前提に、自然に接すればいいのではないでしょうか。ただ、社会的な構造に関しては、『何も気にせず』というわけにはいきません。現状、マイノリティ性を持った人に対する社会的な構造は決して平等とは言えません。社会の中には生まれながらにLGBTというだけで、ファーストキャリアがうまく歩めなかった人、学校でいじめを受けて学歴に差が出てしまっている人は多いです。既にできてしまった溝を埋めるには、当事者の思いに目を向けて行動につなげていく必要があると考えます」

個人のフラットな視点と社会を俯瞰してみる大きな視点。それは、LGBTの問題に限らず世の中にある多くの社会課題と向き合う上で必要な視点ではないだろうか。簡単なことではないが、一人一人が意識して取り組めば、きっとみんなが生きやすく、働きやすい社会につながるはず。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

星賢人(ほし・けんと)

1993年生まれ。22才で東京大学大学院在学中に起業。数々のビジネスコンテストにて優勝、フォーブスが選ぶアジアで最も影響のある若者30人(Forbes 30 under 30)の社会起業家部門に日本人として唯一選出。ソフトバンクの孫正義が直々に選出した孫正義育英財団の財団生としても選出。2016年に株式会社JobRainbowを設立し、若手起業家として国内・海外のテレビやマスメディアなどでも注目を集めている。
JobRainbow 公式サイト(外部リンク)

  • 掲載情報は記事作成当時のものとなります。