日本財団ジャーナル

社会のために何ができる?が見つかるメディア

自衛隊が「面白く」「分かりやすく」発信する防災テクニック。大切なのは「自分ごと化」

画像:自衛隊LIFE HACKチャンネルのトップ画像 そのとき、ジブンを守る、48のワザ 自衛隊OFFICIAL LIFE HACK CHANNEL
自衛隊が発信する防災ノウハウが学べる動画チャンネル「自衛隊LIFEHACKチャンネル」。画像提供:防衛省・自衛隊
この記事のPOINT!
  • 災害大国・日本。災害に不安を抱えつつも、ふだんから備えている人は半数以下
  • 自衛隊では国民の防災意識を高めるため、防災や日常で役立つ“ユニークな動画”を発信
  • ふだんから災害を「自分ごと」として考えることで、いざというときの命を守る

取材:日本財団ジャーナル編集部

2023年2月6日未明に起きたトルコ・シリアでの大地震やハワイ・マウナロア火山の噴火など、世界で大きな自然災害が頻発している。

日本も例外ではない。2022年12月下旬に日本海地域を襲った大寒波は「今冬、最強クラス」といわれ、新潟県から自衛隊の災害派遣要請が出された。また、南海トラフ地震や千島海溝・日本海溝巨大地震、首都直下地震など、いつ起こってもおかしくないと言われる巨大地震(※)がいくつも存在する。

こうした自然災害から身を守り、被害を軽減させるために重要なのは、一人一人の防災意識の向上や防災知識の習得など、災害に対しふだんから備えておくことだろう。

しかし、2022年にセコム株式会社が全国の男女500人を対象に行なった「防災に関する意識調査」(外部リンク)では、「今後災害が増える」と不安に思う人が9割にのぼる一方で、「防災対策をしている」という人は半分以下にとどまっている。

円グラフ:防災対策実施の有無(サンプル数 500人)

・している 47パーセント
・していない 53パーセント
「防災対策をしている」と回答した人は5割に満たなかった。出典:株式会社セコム2022年8月24日報道資料「災害時、スマホの通話機能が使えない際の連絡手段がない人が9割以上」

防災意識を高め、防災に関する知識を持っておくだけでも、災害時や災害後の生存確率は上がるはず。

そこで役に立つのが、陸上自衛隊の採用部門がYouTubeで配信している動画シリーズ「自衛隊LIFEHACKチャンネル」(外部リンク)だ。災害時はもちろん、いざというときに役立つノウハウがコメディ要素も交えながら分かりやすく紹介されている。

動画はたちまち話題になり、2018年には『自衛隊防災BOOK』(マガジンハウス)(外部リンク)として書籍化。30万部を超える大ヒットとなった。

日本の平和を守る自衛隊が、防災についてなぜこのようなユニークな取り組みを始めたのか。採用広報担当の大堀智子(おおほり・ともこ)さんに話を伺った。

きっかけは自衛隊を身近に感じてもらうため

「自衛隊LIFEHACKチャンネル」は、YouTubeの自衛官募集チャンネル(外部リンク)で配信されている動画のシリーズだ。自衛隊の仕事を国民に知ってもらい、身近に感じてもらうための一環として企画されたのが始まりだという。

画像:自衛官2人がけが人役の自衛官を担いでいる
自衛隊LIFEHACKチャンネル動画「けが人の運び方① 二人で運ぶ編」(外部リンク)より。画像提供:防衛省・自衛隊
画像:雪が降る中、自衛隊が腕立て伏せの訓練をしている
自衛隊LIFEHACKチャンネル動画「究極 ! 寒さから自衛する方法③ 筋トレ」(外部リンク)より。実用的なもの以外にも、クリックしたくなるユニークなものも多い。画像提供:防衛省・自衛隊

「私は自衛官採用の仕事をしている関係上、学生の方々と接する機会がよくあります。皆さんから自衛隊は『強そうだけどすごく遠い存在』だとよく言われるのですが、決してそんなことはないんです。何とかして国民の皆さんに私たちを身近に感じてもらいたい、自衛隊の仕事と魅力を知ってもらいたいという思いがありました」

画像
取材に応じてくれた、自衛隊で採用広報を務める大堀さん。階級は2等陸佐

そこで、自衛官の広報に関するアイデアを民間の企業から募集した。その中で最も自衛隊の魅力の発信につながり、かつ国民に自衛隊を身近に感じてもらえると考えたのが、YouTubeでの配信だった。

「当時の担当者が何度も話し合いを重ね、『いざというときにすぐ実践できるノウハウを動画で紹介するのはどうか』という話になり、動画の発信が始まりました。その後、動画がさまざまなメディアで取り上げられるようになり、書籍化も決まりました」

画像:自衛隊防災BOOKと続編の自衛隊防災BOOK2の書影

■自衛隊防災BOOK:簡単、安心、役に立つ、危機管理のプロ直伝のテクニック100

家に一冊、備えあれば憂いなし

・女性一人でけが人を運べます
・地震発生時、危険を察知する方法
・ツナ缶、バターをローソク代わりにする方法
・懐中電灯をランタン代わりにする方法

テレビで話題沸騰!ついに30万部突破
「私たちが伝授します」

■自衛隊防災BOOK2

・パイプ椅子をヘルメット替わりに
・油の鍋の炎に、水をかけない

30万部の大ヒット本、待望の第2弾
全国の自衛隊員が伝授する災害別テクニック厳選129

安心、簡単、役に立つ!
「命を守る行動、お伝えします!」
『自衛隊防災BOOK』(外部リンク)は人気を呼び、第2弾(2023年1月時点)まで発売されている。画像提供:防衛省・自衛隊

災害時に役立つノウハウを面白く、分かりやすく発信

動画や書籍で発信されるライフハックの種類は、災害時はもとより日常生活でも役立つものなどさまざまだ。

例えば、災害時にけが人を避難所まで安全に運ぶため、着ている服と棒2本で担架を作る方法などが紹介されている。

イラスト:棒2本にシャツを通すことで、2人で運ぶ用の担架を作る方法

「担架は自分で作れます」

1.ひとりが二つの棒を両手に持ちます。

2.もうひとりが裾をつかみ、 めくり上げるようにして引っ張ります。 (あらかじめ、 ボタンを2、3個開けておくと通りやすいです。)

3.棒は持ったまま離さず、 もう一人が裾を引っ張り、棒にかぶせるようにしていきます。

4.もう片方の人も同様に行います。(棒の中央は重ね合わせておきます)
服と棒を使って担架を作る方法。画像提供:防衛省・自衛隊

担架が作れない場合、「消防士搬送」という人の運び方があるという。片手を空けた状態でけが人を運べ、かつ背負うよりもはるかに安定度が増すそうだ。

画像:消防士搬送のやり方

1.けが人のお腹を自分のうなじに引っ掛けるように乗せて、担ぎ上げる。

2.けが人の脚の間から自身の片腕を通し、そのままけが人の腕をつかむことで、落ちないように固定する
消防士搬送のやり方。『自衛隊防災BOOK』より。画像提供:防衛省・自衛隊

防災用の保存食についても注意が必要だと大堀さんは語る。

「保存食に関しては、買って終わりにするのではなく食べて味に慣れておくことが重要です。保存食は普段の食事とは味、噛みやすさ、飲み込みやすさが異なるので、災害時に初めて食べることになると結構ストレスになりやすいんですよね。私も訓練で初めて乾パンや、米飯の缶詰を食べた時は衝撃的で、2日ほど気持ちが参ってしまいました(笑)。でも一度でも試しておけば、余計なストレスを感じずに済みますし、今は保存食も色々なメニューがあるので、自分に合ったものを選ぶことで、自分なりにおいしい食べ方も工夫できます。購入した保存食はぜひ試食をしてみてください」

画像:自衛隊おすすめの保存食を使った『かんぱんチョコサンド』の作り方

一押しレシピ
満足感&栄養あり!
『かんぱんチョコサンド』

作り方はかんぱん2枚で板チョコ1片をサンドするだけ。チョコはそのままでも、少し溶かしてからサンドしても。消費期限が切れそうなかんぱんを食べ切りたいときにもおすすめのレシピです。

少量でも満足感のある組み合わせ。
かんぱんはしっかりした食感があるので、少量でも食べ応えあり。
チョコにはブドウ糖が含まれるため、こちらも少量で満たされます。

「かんぱんとチョコレートのコンビはハズレなし!」
『自衛隊防災BOOK』では非常食を使ったレシピも掲載。画像提供:防衛省・自衛隊

また、災害時の服装について、手袋が重要だそうだ。

「災害発生時には『まず、足を守る』というのを聞いたことがある人も多いと思いますが、個人的には手を守ることも同じくらい重要だと思っています。災害時はがれきや、とがったガラスなどがあちこちに散らばっていて、素手で触れると大けがにつながります。自衛隊員も作業時は必ず手袋を着用しているのですが、それは手にけがをして作業に支障が出ることや感染症を未然に防ぐためです。できれば災害時に備えて、軍手などを用意しておくのがいいと思います。」

他にも動画や書籍では、「正しいロープの結び方」「水害時に使える、シャツを浮き輪代わりにする方法」といったいざという時に役立つノウハウや、「静電気のビリビリを防ぐ方法」「ブーツをピカピカにする方法」など日常でも活用出来るノウハウまで紹介している。

災害は普段から「自分ごと化」することが大事

防災のノウハウ一つ一つに信憑性を感じるのは、自衛隊から発信されているからだろう。大堀さんも「国民を守る存在である自衛隊だからこそ、発信する意義が高いと思います」と語る。

「ただ、私たちは単にノウハウを伝えているわけではありません。そこには『命を大切にしてほしい」といったメッセージを込めています。動画や書籍から何か1つでも知識を得て、防災の重要性や命の大切さを感じてもらえれば幸いです。」

昨今は「災害時は公助だけではなく自助・共助も重視するべき」という声も上がっている。災害から自分の身を守り、苦難を乗り越えるには、国や自治体からの助けだけではなく、自身や地域の企業、そこで暮らす人々の力も必要という考えだ。中でも自助は防災を考える上では欠かせない。

「災害が起きた直後、周囲に誰も頼れる人がいないというケースも考えられますよね。一人一人が普段から危機意識を持って、自分の身を守る備えをしておくことはとても重要だと思います。それが結果として、周りの人たちの安全や安心にもつながるのではないでしょうか。自助は共助や公助にもつながる重要な考え方だと思います」

画像
自分自身で命を守ることの重要性について語る大堀さん

大堀さんは「自分ごと化が重要だ」と話す。

「自分が暮らす地域以外の災害情報も気に留め、『自分だったらどう動くかな』『他に方法はなかったかな』と考えてみることは大切だと思います。『被災者は気の毒』という同情で終わるのではなく、自分のことにあてはめて考え、自身の備えに活かしていただきたいと思います。小さな一歩かもしれませんが、その一歩の差で人生が変わることもあるかもしれません。『あのとき、こうしていれば』と後悔しないためにも、『自分ごと化』を意識してみてください」

「自衛隊LIFEHACKチャンネル」はノウハウを紹介する動画を発信し続けている。最近では、「自衛隊式ダイエット」(外部リンク)や、「本気の!自衛隊体操」(外部リンク)などユニーク度もアップしている。ぜひこれを機に、楽しみながら防災を学んでみてほしい。その一歩が命を守る行動につながるはずだ。

撮影:十河英三郎

自衛隊LIFEHACKチャンネル 公式サイト(外部リンク)

  • 掲載情報は記事作成当時のものとなります。