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学校じゃなくても子どもは学ぶ。学校に行かない4人の子を育てるお母さんの不登校児支援

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不登校児を支援する活動を行う生駒さんと、料理を手伝う子どもたち
この記事のPOINT!
  • 2022年の調査によると不登校児は24万4,940人。一度不登校になると復帰は難しい
  • 生駒知里さんは長男の不登校で悩んだ経験を活かし、不登校児を支援する活動を行う
  • 不登校は「学ぶ場所が変わっただけ」。学校がなくても子どもは学び、成長する

執筆:日本財団ジャーナル編集部

2022年の文部科学省の調査によると、全国小中学校の不登校児童生徒数は24万4,940人となっており、9年連続で過去最高人数を記録している。

不登校のきっかけは先生のこと(先生と合わなかった、先生が怖かったなど)、身体の不調、生活リズムの乱れ、勉強が分からないなどが多くを占め、「学校に戻りやすいと思える対応は?」という問いに関しては、半数以上が「特になし」と答えている。一度不登校になると復帰するのが難しいことがうかがえる。

生駒知里(いこま・ちさと)さんは、7人の子を持つ大家族のお母さん。7人のうち4人がいわゆる不登校児となる。かつては悩み苦しんだ時期もあったという生駒さんだが、今では家を学び場とするホームスクール(※)方式で子どもたちを育てるだけでなく、全国の不登校の子ども、その親への支援活動も行っている。

  • 学校に通学せず、家庭に拠点を置いて学習を行うこと

生駒さんは不登校について「たまたま学校という場所が合わなかっただけ、その子にも親御さんにも伸びていく力が絶対ある」と話す。

※この記事は、日本財団公式YouTubeチャンネル「ONEDAYs」の動画「【学校に通わなくても…】不登校の子ども4人を育てる大家族のお母さんに1日密着してみた」(外部リンク)を編集したものです

一日の過ごし方は自由。フリースペースに通う日も

朝7時30分、生駒さんは自宅のキッチンで朝食を作っていた。

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子どもを抱えながら朝ごはんを作る生駒さん

生駒家の子どもの一日の過ごし方は自由。起きる時間もその日その時でいろいろだ。三男のりっくんと、長女のふーちゃんが食卓にやって来た。

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まだ眠そうな三男のりっくん
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朝食を盛り付ける長女のふーちゃん

四男のたっくん、五男のそーちゃんは保育園に通っているため、生駒さんが毎朝、車で送っている。車内にはりっくんとふーちゃんの姿も。2人は「フリースペース えん」という、不登校など学校外で育つ子どもたちが集まる施設に通っている。えんには押し付けるようなプログラムはなく、音楽、ゲーム、勉強、散歩など、子どもたちは思い思いの時間を過ごしているという。

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「フリースペース えん」で楽器演奏を楽しむ子どもたち
画像:パソコンでゲームをしている子どもたち
えんでは、パソコンでゲームをして過ごすこともあるという

長男の不登校に悩むも、「学校よりも笑顔」ということに気付く

子どもを送り届けた後、生駒さんは不登校の子どもを持つ親とオンラインでおしゃべり会を始めた。

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オンラインで会話をする生駒さん

生駒さんは、不登校の子どもに寄り添う「多様な学びプロジェクト」(外部リンク)という団体を立ち上げ、街全体を学び場にする活動に取り組んでいる。このおしゃべり会もその一環だ。

「街のとまり木」という取り組みでは、不登校の子どもたちに対し「平日、お昼に来てもいいよ」という施設を募っている。審査を通過すると多様な学びプロジェクトのウェブサイト上に公開され、文字通り、子どもたちにとってのとまり木のような居場所になっているという。

画像:「街のとまり木」として協力している施設の方
現在、カフェ、お寺、児童館など400カ所以上が「街のとまり木」となっている

他にも、農家の方に土を耕すところから野菜を売るまでを学ぶ「コドモ農業大学」など、多様な学びプロジェクトでは学校外で学べる機会を多数提供している。

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コドモ農業大学で畑を耕す子どもたち

生駒さんがここまで不登校の子どもたちのために精力的に活動するは、生駒さん自身が長男の不登校に深く悩んだ時期があるからだという。

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生駒さん(左)と長男

最初は無理やり長男を学校に連れて行っていたというが、長男が学校から帰宅後、包丁を持って「俺を刺してくれ!」と叫んだ時があった。

「まだ生まれてから7年しか経っていないのに、その子に『刺してくれ』と言われたのでびっくりしました。周りのみんなに相談しても、『大丈夫だ』とは言うけれど、この子がどうにかなってしまうかもしれない」

なんとかしたい一心で、2つの病院で長男を診てもらうも、真逆の診断結果を告げられ、どうしたらいいか分からず、生駒さんは精神的に追い詰められる。

「どうしたらいいか分からない。誰も助けてくれない。でも、子どもは育てないといけない。涙も出てくるし、起き上がれないんです。でも、そんな時に隣の部屋から『ケラケラケラ』って、子どもたちの笑い声が聞こえたんですよ。いろいろなものを失ったかのように思ってたんですけど、その笑い声を聞いて、『何も失ってないな』って気が付いて。『子どもたちが笑っていれば、それで良い』って思えたんです」

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長男の不登校で悩んでいた当時の生駒さんの子どもたち

そのことをきっかけに、生駒さんは子どもが幸せに笑顔で暮らせるよう、ホームスクールという選択肢を選ぶ。その後、次男、三男、長女も学校になじめなかったため、ホームスクールに切り替えた。

生駒さんの活動には、あの頃の自分たちのように、不登校に悩む親子を孤立させたくない、不登校への偏見をなくしたいという思いがあるという。

「不登校っていうと『だめな子』みたいな、そういう風に見られてしまうイメージがあります。だから、親御さんも『自分の子育てが下手だったから、不登校になってしまった』って考えてしまうんですけど、たまたま学校という場所が、その子に合わなかっただけかもしれない。その子にも親御さんにも、もともと伸びていく力は絶対あると思うんです」

生きていてくれてありがとう。子育てはその気持ちだけで大丈夫

ホームスクールと聞いて気になるのが子どもの勉強についてだ。生駒さんはどう考えているのか?

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教育方針について話す生駒さん

「私は興味や意思の方が大切だと思っています。そこを入り口にして勉強を進めていく感じですね。例えば、次男が『メダカを10匹以上飼いたい』と言ってきたことがあります。どうやら、メダカを1匹育てるのに水が1リットル必要らしい。『じゃあ、10匹なら水は何リットルで、それが入る水槽のサイズは? そもそも立法センチメートルって何?』と、調べていくうちに学びを深め、理解していく」

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顕微鏡をのぞく次男
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実際、次男が算数の勉強に使用したノート

興味を深めていく中で、学ぶ意欲が高まっていく。

「学校にはなじめなかった。だから、学ぶ場所を変えただけ」

生駒さんはホームスクールのことをそう捉えている。

夜になり、晩ごはんの時間。この日のメインは生駒さんの手作りミートローフ。

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生駒家揃っての晩ごはんの様子
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焼きたてのミートローフを切り分け中

生駒さん:「新しいオーブントースターで初めて作ってみた。……もう少し焼いた方が良かったかも」
三男:「まあ……、おいしい」
四男:「うまくない!うまくない!」
生駒さん:「そうね、要はそう(笑)」
長女:「そういうのはね、『優しい味ですね』って言うんだよ」
生駒さん:「なるほど、ナイスなフォローだね(笑)。『優しい味ですね』っていうのはどこで覚えたの?」

知らないうちに子どもが新しい言葉を覚えている。生駒さんは、今日も子どもの成長を感じている。

「今日もけがなく、今、一緒にいてくれているだけで『ありがとう』って思うんですよ。親がとにかく『生きていてくれてありがとう』って思っていれば、子どもって何かあっても大丈夫なんじゃないかなって思います」

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リヤカーで遊ぶ生駒家の子どもたち

学校があってもなくても子どもは学び成長する。「学校に通う」というのは選択肢の1つであって、「唯一の正解」ではない。大切なのは、大きな視点で子どもたちを見守る大人たち、地域の支えだ。

【学校に通わなくても…】不登校の子ども4人を育てる大家族のお母さんに1日密着してみた(動画:外部リンク)
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