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ひとり親家庭の貧困率は約5割。子育てに活用できる国や自治体の支援制度

写真:公園で遊ぶ幼い子どもと母親
ひとり親世帯は貧困を原因とするさまざまな問題を抱える傾向にある。milatas/shutterstock
この記事のPOINT!
  • 母子家庭の平均年収は236万円。生活が困窮し教育格差などが起こりやすい傾向に
  • ひとり親世帯には所得等に応じて、国だけでなく自治体独自の手当、支援がある
  • 国や自治体の支援だけでなく、地域で支えることが誰一人取り残さない社会につながる

取材:日本財団ジャーナル編集部

ひとり親は働き方が制限されるため、生活が困窮しやすい傾向にある。

2019年に内閣府が公表した調査データ(※1)によると、日本における子どもの貧困率は7人に1人、さらにひとり親世帯となると約半分にまで増加。また、厚生労働省が2022年12月に公表した調査データ(※2)では、ひとり親世帯の中でも母子家庭に絞ると平均就労年収は236万円(父子家庭は496万円)となっており、相対的に厳しい経済状況にあることが伺える。

そして近年問題になっているのが、経済的要因による子どもの教育格差、体験格差の拡大だ。貧困家庭の大学進学率や、習い事やクラブ活動への参加率は全世帯と比較してひとり親世帯は低い傾向にある。

こういった問題を解決するために、国や自治体ではひとり親世帯をサポートするためのさまざまな支援制度が用意されている。この記事では、なぜひとり親世帯では貧困が起きやすいのかをひもとくと共に、活用しやすい支援制度の一例を紹介したい。

非正規雇用が4割。ひとり親世帯が困窮する背景

なぜひとり親世帯では、貧困が起こりやすいのか。その背景にはひとりで子どもを育てながら働くことにさまざまな困難が伴うことが挙げられる。

家事と子育てをひとりで担うため短時間労働になってしまうことや、子どもが病気になったときなどにフォローしてもらえる環境に恵まれず非正規雇用になってしまう、そもそも雇用してもらえないというケースも多いようだ。

実際、前出の厚生労働省の調査では、母子家庭の母親は正規の職員・従業員が48.8パーセント、派遣社員が3.6パーセント、パート・アルバイト等が38.8パーセントと非正規雇用が全体の4割を占める。また仕事についていない人は全体の9.2パーセントとなっている。

さらに養育費を受け取っていないひとり親世帯は、全体の56.9パーセントと半数を超えるという結果も。このような背景から収入が少なくなることは、容易に想像できる。

収入が少ないことが及ぼす影響は、生活が苦しいだけではない。経済的な理由により子どもの教育格差、体験格差が広がるというデータも出ている。

2021年の2月から3月にかけて全国5,000組の中学2年生及びその保護者を対象に内閣府が実施した調査報告書(※1)によると、等価世帯収入(※2)が中央値の2分の1未満の家庭の52パーセントが、クラスの中での成績を「下のほう」(「やや下の方」含む)だと答えている。

等価世帯収入の水準別、クラスの中での成績を示す横棒グラフ:
中央値以上(n=1316)/上の方16.6%、やや上の方24.8%、真ん中あたり28.9%、やや下の方15.2%、下の方10.8%、分からない3.7%
中央値の2分の1以上中央値未満(n=966)/上の方11.8%、やや上の方18.4%、真ん中あたり27.7%、やや下の方16.1%、下の方20.2%、分からない5.7%
中央値の2分の1未満(n=336)/上の方6.8%、やや上の方10.7%、真ん中あたり23.8%、やや下の方9.0%、下の方33.0%、分からない6.5%
等価世帯収入の水準別、クラスの中での成績。出典:令和3年12月『令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書』内閣府政策統括官

また地域のスポーツクラブや文化クラブ、学校の部活動への参加状況をみると、等価世帯収入が中央値の2分の1未満の家庭の23.8パーセントが「参加していない」と答えており、世帯収入の低い子どもほどスポーツや文化に触れる機会が少なくなることも見て取れる。

等価世帯収入の水準別、部活動等への参加状況を示す横棒グラフ:
中央値以上(n=1315)/参加している87.6%、参加していない12.4%
中央値の2分の1以上中央値未満(n=964)/参加している86.3%、参加していない13.7%
中央値の2分の1未満(n=336)/参加している76.2%、参加していない23.8%
等価世帯収入の水準別、部活動等への参加状況。出典:内閣府発表『令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書』

そういった子どもたちの状況を打開するため、国は子どもの貧困に対する支援に力を入れ始めている。支援は、次の3つの柱で進められている。

  1. 【教育費等の負担軽減】幼児教育・保育の無償化、義務教育段階の就学援助、高等学校等就学支援金など
  2. 【学校における指導・相談体制の充実】スクールソーシャルワーカーの配置充実、貧困等に起因する学力課題解消のための教員加配措置など
  3. 【地域の教育資源活用】地域と学校の連携・協働体制構築、高校中退者に対する学習相談・学習支援の促進など

また2023年4月1日には、子どもの名前を冠した初めての省庁である「こども家庭庁」(別タブで開く)が発足。これまで別々の省庁で行われてきた子ども政策の司令塔機能を一本化することで、年齢の壁や組織による縦割りの壁を取り払った切れ目のない包括的な支援を行い、子どもたちの健やかな成長を社会全体で後押しすることが目的だ。

児童扶養手当以外にもある、ひとり親世帯への支援制度

このように国が支援に力を入れている背景もあり、ひとり親世帯を対象にした手当や支援制度は数多く設けられている。各制度には適用条件や所得制限などがあったり、自治体によって導入されていない場合もあるため、詳しくは各自治体のホームページ等で確認しよう。

[全ての子育て世帯が対象の手当]

●児童手当(外部リンク)

次代の社会を担う子どもたちの健やかな成長を支援することを目的とした手当。0歳から中学校卒業まで(15歳の誕生日以降の最初の3月31日まで)の子どもを養育する人が受けられる。

児童手当の支給金額を示す表組み:
児童年齢3歳未満/児童手当の金額(1人あたりの月額)一律 1万5,000円	
児童年齢3歳以上小学校修了前/児童手当の金額(1人あたりの月額)1万円(第3子以降は1万5,000円)	
児童年齢中学生/児童手当の金額(1人あたりの月額)一律 1万円
児童手当の支給金額

子どもを養育している人の所得が所得制限限度額以上、所得上限限度額未満の場合は、特例給付として月額一律5,000円が支給される。

●生活保護(外部リンク)

生活に困窮している人に対し、健康で文化的な最低限度の生活を保障し自立をサポートするための制度。保護の種類には、生活・住宅・教育・医療・介護・出産・生業・葬祭扶助があり、受給金額は住んでいる地域や収入、世帯人数などにより異なる。

受給するには、国が定める保護基準(最低生活費)に満たない、家族などの身内に支援してくれる人がいない、持ち家や車など資産を有していないなどの条件が定められている。

[障害児の子育て世帯が対象の手当]

●障害児福祉手当(外部リンク)

重度障害のある子ども・若者に対し、福祉の向上を図ることを目的に支給される手当。精神または身体に重度の障害があり、日常生活において介護を要する在宅の20歳未満の人が受けられる。

金額は月額1万4,850円(2022年4月より適用)。受給資格者(重度障害のある本人)の前年の所得が所得限度額を超える場合や、受給者の配偶者・扶養義務者(同居する父母など)の前年の所得が一定の額以上である場合は、手当を受けることができない。

●特別児童扶養手当(外部リンク)

精神または身体に重度の障害がある子ども・若者に対し、福祉の向上を図ることを目的に支給される手当。20歳未満の障害のある子ども・若者を養育する父母などが受けることができる。

特別児童扶養手当の支給金額を示す表組み:		
障害の級1級/支給金額(月額)5万2,400円	
障害の級2級/支給金額(月額)3万4,900円
特別児童扶養手当の支給金額(2022年4月より適用)

受給資格者(障害のある子ども・若者の父母など)もしくはその配偶者の前年の所得が一定の額以上である場合は、手当を受けることができない。

[ひとり親世帯のみ対象の手当]

●児童扶養手当(外部リンク)

離婚や死亡などによるひとり親世帯、父または母と生計を同じくしていない子どもが育成される家庭の、生活の安定と自立を支援するために支給される手当。18歳に達する日以降の最初の3月31日までの間にある子ども(障害児の場合は20歳未満)を養育する母もしくは父、祖父母などが受けられる。

受給金額は子どもの人数や申請者の前年の所得によって全額支給、一部支給、不支給かが決まる。

児童扶養手当の支給金額を示す表組み:	
児童人数1人/全部支給(1人あたりの月額)4万3,070円、一部支給(1人あたりの月額)4万3,060円〜1万160円
児童人数2人目/全部支給(1人あたりの月額)1万170円、一部支給(1人あたりの月額)1万160円〜5,090円
児童人数3人目以降/全部支給(1人あたりの月額)6,100円、一部支給(1人あたりの月額)6,090円〜3,050円
児童扶養手当の支給金額(2022年4月より適用)

以下は、自治体によっては支給される手当となり、受給条件や所得制限などの詳細は各自治体の窓口にて問い合わせ願いたい。

●児童育成手当

離婚や死亡などによるひとり親世帯、父または母と生計を同じくしていない子どもの健やかな成長を支援するために支給される手当。18歳に達する日以降の最初の3月31日までの間にある子ども(障害児の場合は20歳未満)を養育する母もしくは父、養育者(祖父母など)が受けられる。

児童育成手当の支給金額を示す表組み:	
手当名・育成手当/支給金額(1人あたりの月額)1万3,500円	
手当名・障害手当支給金額(1人あたりの月額)1万5,500円
児童育成手当の支給金額

●ひとり親家庭等医療費助成

ひとり親世帯に対し医療費の一部を支援することにより、ひとり世帯の親や子どもの健康を維持するために支給される手当。18歳に達する日以降の最初の3月31日までの間にある子ども(障害児の場合は20歳未満)を養育する母もしくは父などが受けられる。助成内容は自治体によって異なる。

●乳幼児・義務教育就学児の医療費助成制度

子どもが医療機関を受診した際の医療費の自己負担分が支給される制度。自治体によって子どもの対象年齢や親の所得制限が異なる。

●ひとり親世帯の住宅手当(家賃補助制度)

ひとり親世帯で18歳未満もしくは20歳未満の子どもを養育する人が受けられる制度。家賃の一部が支給されるなど助成内容や、助成を受けるための条件は自治体によって異なる。

生活支援や移住サポートも。ひとり親世帯にやさしい自治体の支援例

手当支給にも自治体によって差があるように、自治体による支援例は大きく異なる。そこでひとり親世帯にやさしい自治体の支援の一例も紹介したい。

●千葉県千葉市 母子家庭等高等職業訓練促進給付金(外部リンク)

看護師や介護福祉士、保育士などの就職に有利な資格取得のため指定された養成機関で修業する場合に、最大10万円が支給される。支給期間は最長48カ月、最後の12カ月は4万円が加算される。

●静岡県伊豆市 伊豆市ひとり親プロジェクト(外部リンク)

ひとり親が希望する就労、居住、子育て環境を提供し、移住・定住を促進。特に旅館業、医療業、介護業へ就業希望者には、補助金が交付される。

メニューは次の3種類。

  • 世帯引越し等支援事業補助金:引越し費用上限10万円、初期費用(敷金・礼金・仲介手数料等)上限15万円を支給
  • 移住定住促進補助金(賃貸補助):月2万円の家賃補助を交付決定月から24カ月間支給
  • 移住定住促進補助金(住宅補助):土地及び住宅を購入した場合上限100万円、住宅のみを購入した場合上限50万円を支給。また小学6年生以下の児童が同居の場合は1人あたり10万円が追加される

●新潟県 ひとり親家庭高等学校卒業程度認定試験合格支援事業(外部リンク)

ひとり親世帯の親もしくは子どもが、より良い条件の就業・転職や、生活の安定を図るために高卒認定試験の合格を目指し対策講座を受講する場合、その費用の一部の助成が受けられる。

助成金額は以下の通り。

  1. 受講修了時給付金:対象講座の入学料及び受講料の20パーセント相当(4,000円〜10万円)
  2. 合格時給付金(※):対象講座の入学料及び受講料の40パーセント相当(1と2の合計額が15万円を超える場合は15万円まで)
  • 受講修了日から起算して2年以内に高卒認定試験に全科目合格した場合

●京都府京都市 ひとり親家庭等日常生活支援事業(外部リンク)

ひとり親世帯が就学などの自立促進、疾病、生活環境の激変など、必要な理由で一時的な生活援助や保育サービスを必要としている場合に、支援員を派遣して日常生活を支援し、生活を安定させることを目的とした支援。家事や乳幼児の保育などの支援を世帯収入に応じて、1時間当たり0円〜300円で受けられる。

ひとり親世帯を支え、誰一人取り残さない社会を目指して

日本財団では、全ての子どもが未来への希望を持ち、社会を生き抜く力を育むことができるように、子どもたちに家庭でも学校でもない、安心して過ごせる場を提供する「子ども第三の居場所」(別タブで開く)プロジェクトを展開している。

食事や歯磨きといった基本的な生活習慣や自己肯定感、人や社会と関わる力などの非認知能力を高めるプログラム、発達段階に応じた学習支援などを実施。学校や地域、専門機関と連携し、全国に153拠点(2023年3月末時点)設置し、誰一人取り残さない地域子育てコミュニティづくりに取り組んでいる。

(左)生き抜く力の育成ピラミッド図。基本的な生活習慣、非認知能力(自己肯定感、人や社会と関わる力)、認知能力(学力)。

(右)誰1人取り残さない地域子育てコミュニティの図。地域(放課後児童クラブ、子ども食堂)から子ども第三の居場所へアウトリーチ。専門機関(子ども家庭支援センター、療育機関、児童相談所、病院等)と子ども第三の居場所の連携。課題に応じて専門機関へ。学校(ソーシャルワーカー)から子ども第三の居場所へアウトリーチ。
(左)「子ども第三の居場所」が取り組む、子どもたちの生き抜く力の育成と(右)誰一人取り残さない地域子育てコミュニティづくり

子どもの教育格差や体験格差の拡大は、将来的に社会にとって大きな損失となる。そうならないためにも家庭だけでなく、地域で支え合うことが大切だ。

写真:円陣を組んで笑顔を向ける子どもたち
困難を抱える子どもたちのために、一人一人ができることはたくさんある。milatas/shutterstock

もしあなたの身近に困っている人がいたら、これまで紹介した支援情報を共有したり、自治体の生活相談窓口につないだりすることで救われる人も多いはず。また子育て支援に力を入れる団体などに寄付をすることも、幅広い支援につながる。

長引くコロナ禍や生活費高騰の影響で、困難を抱える家庭は増えており、すぐそばにいてもおかしくない。ぜひ、他人事と思わず支えの1人になってほしい。

  • 掲載情報は記事作成当時のものとなります。