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課題が山積する難民問題。いまできる支援を「難民・移民フェス」開催者に聞く

写真:会場に設置された「難民・移民フェス」の案内
2023年5月20日に開催された、第3回「難民・移民フェス」 の模様。およそ3,600人が参加した
この記事のPOINT!
  • 日本では難民認定率の低さ、入管の非人道的な対応、入管法の改悪など問題が山積みに
  • 金井真紀さんは「難民・移民フェス」実行委員の一人で、日本に住む人と難民をつなぎ、支援している
  • 難民を知り、積極的に隣人になることが難民問題を解決するための支えとなる

取材:日本財団ジャーナル編集部

2023年5月20日、東京都練馬区のつつじ公園にて「難民・移民フェス」(外部リンク)が行われました。

このフェスは日本に住む難民・移民を知る、関わる、応援することができるチャリティフェス(※)で、今回で3回目の開催となります。

  • 主催の難民・移民フェス実行委員会が販売し、その売上を広く難民支援や運営に使っている

店頭に立っているのは主に外国ルーツの仮放免(※)中の方。自国の料理をふるまったり、手芸品、音楽などを披露したりしながら、訪れたお客さんたちと交流するイベントです。

  • 在留資格が得られず非正規滞在となった外国人に対して、入管が入管収容施設の外での生活を認める制度
たくさんの参加者
前回(2022年11月)1,200人だった参加者が今回は3倍に

主催するのは、難民・移民フェス実行委員会。文筆家でイラストレーターの金井真紀(かない・まき)さんもその一員です。金井さんは「このフェスが日本で起きている難民に関するさまざまな問題を知るきっかけになれば」とも考えているそうです。

今回、金井さんにお話を伺いながら、日本の難民制度の問題について考えたいと思います。

著しく低い日本の難民認定率。制度は課題が山積みに

その前に、「難民」の定義とは何でしょうか?

UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると「人種、宗教、国籍、政治的意見または特定の社会集団に属するという理由で、自国にいると迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れ、国際的保護を必要とする人々」と定義されています。

母国から他国に逃れ、難民申請を行い、認定されると在留資格が与えられるのですが、日本の難民認定率は諸外国と比べて著しく低い傾向にあります。

図表:2021年の難民認定数各国比較

2021年の難民認定数各国比較を示す縦棒グラフ

ドイツの難民認定数 38,918人。認定率 25.9パーセント。
カナダの難民認定数 33,801人。認定率 62.1パーセント。
フランスの難民認定数 32,571人。認定率 17.5パーセント。
アメリカの難民認定数 20,590人。認定率 32.2パーセント。
イギリスの難民認定数 13,703人。認定率 63.4パーセント。
日本の難民認定数 74人。認定率 0.7パーセント。
2021年の日本の難民認定率は0.7パーセントと著しく低い。出典:日本の難民認定はなぜ少ないか?-制度面の課題から | 認定NPO法人 難民支援協会(外部リンク)

また、この難民認定の一次審査(※)には平均して3年11カ月かかり、中には認定が下りるまで10年を超える人もいるといいます。

その入管では収容が長期化していたり、適切な医療へアクセスできなかったりする課題も。2021年にはスリランカ人女性が入管施設内で亡くなり、その管理体制や制度は今もなお問題視(※)されています。

さらに、2023年4月28日には、入管法改正案が衆院法務委員会で可決。「3回以上難民申請をしている人の強制送還を可能にしてしまう」「国外退去命令に従わないと処罰の対象になる」などの問題点があり、今後は参議院などで審議が続きますが、各地で反対のデモや運動(※)などが起きています。

このように難民申請から入管まで、日本の難民制度には課題が山積しています。

自国に戻れば命の危険が。それでも難民認定が難しい現状

難民問題の支援のため、「難民・移民フェス」をはじめとしたさまざまな活動をしている金井さん。しかし、数年前までその現状をほとんど知らなかったといいます。

金井さんが難民問題に飛び込むきっかけとなったのは、金井さんの著書である『日本に住んでいる世界のひと』(大和書房)(外部リンク)の取材で、コンゴ人男性のジャックさんに出会ったことだったそう。

写真:オンラインで取材に応える金井さん
取材に応じてくれた金井さん。もともとは難民問題に詳しいわけではなかった

「ジャックは最初に知り合った時から、穏やかな人という印象でした。でも、通訳の方に間に入ってもらって話を聞くと、想像を絶するような経験を話してくれました」

ジャックさんの故郷、コンゴ民主共和国は独裁者による政治が長く続いたこともあり、紛争が絶えず、現在も国内情勢(※)は混迷しています。

イラスト:世界地図上でのコンゴ民主共和国の位置
アフリカ大陸中央部に位置するコンゴ民主共和国

民主化を目指す活動に参加していたジャックさんは当局から目を付けられ、2011年末の国政選挙の際に起きた暴動事件から、命の危険を感じるようになり、2012年に国外へ逃亡します。さまざまなトラブルがあり、なんとかたどり着いたのが日本でした。

その間に、国に残っていた両親と3歳の甥が警察に殺されるという信じがたい経験もしています。

そんなジャックさんをさらに苦しめたのが日本の対応です。 

「ジャックは2012年の来日以降、難民申請を行い、その間、クリーニング屋とお弁当工場で働き、ちゃんと納税もしていました。それが2021年に突然、理由も分からず在留資格が認められなくなり、働くことができなくなってしまったんです。ジャックは難民申請をし続けていますが、いまだに認められていません。難民の問題はさまざまありますが、申請や決定をめぐる不透明さもその1つだと思っています」

入管法が改正されると、ジャックさんのように「母国に戻ると殺されてしまうかもしれない人」の強制送還率が上がってしまうかもしれない。「難民・移民フェス」の開催には、入管法改正に反対する思いも込められているのです。

得意なものを持ち寄り、支援する側・される側を取っ払う

「難民・移民フェス」のスタートは2022年。その背景には、金井さんがジャックさんを支えながらも、「そばにいる形」について葛藤した経験があったそう。

「一緒にいるとどうしても金銭面などの支援が必要になります。もちろんできることはやりたいとは思うのですが、残念ながら私のお金や時間には限りがあって、難しさを感じていました。何かしてあげたときにジャックが『ありがとう』と言わないことに腹が立ったりして、自分の心の狭さに落ち込んだこともありましたね」

1人の生活を全面的に支援することは簡単なことではありません。難民支援の先輩からも、「1人で支援をするのは難しいよ、共倒れになるよ」と言われていたという金井さん。そこでたどり着いたのが、支援者にならず友達になるという方法でした。

「支援する人と、『ありがとう』と言う人で、役割を固定すると自分がつらくなると思ったんです。そこで仲間を集めて、ジャックからリンガラ語(コンゴで使われている言語)を教えてもらうことにしました。ジャックは教え方が上手で、リンガラ語レッスンはいつも楽しいです。私たちからもジャックに『ありがとう』と言えることが増え、関係性が安定してきたと思います。」

この「得意なものを持ち寄る」という考え方を発展させ、誕生したのが「難民・移民フェス」。料理が得意な人は料理、手芸が得意な人は手芸品などを提供し、その売上や寄付は難民・移民フェス実行委員会が受け取って、それを困窮する難民の生活支援、医療支援に使う仕組みです。

写真:店主が客の腕にアクセサリーをつけている
手作りのアクセサリーなども販売されてる。©️難民・移民フェス実行委員会
写真
「難民・移民フェス」では毎回さまざまな国の料理が提供されている。©️難民・移民フェス実行委員会

フェスという形にしたのには、参加のハードルを低くすることで、難民と交流する人を増やしたいという金井さんたちの思いが込められています。

「抗議デモも必要な行為だと思いますが、中には大勢でシュプレヒコール(※)することに抵抗感がある方もいると思うんです。私もどちらかというとそのタイプだったので、間口を広げることや、楽しく参加してもらうためにはどうしたらいいかと考えて、行き着いたのがフェスという形でした。ニュースで『仮放免・入管・難民』というような言葉を聞いても、どういうことなのか想像ができない人もいるんじゃないかなって。でも、実際に会って話してみることで、その人の面白さや、大変さも分かってもらえるのかなと考えています」

  • 集会や演説など多数の人が集まっている場において、参加者が声を揃えて、同じフレーズを大声で何度も繰り返し唱和すること

実際、「難民・移民フェス」には「楽しそう」という理由で立ち寄り、難民の方の話を聞く中で現状を知り、難民について学んだ人もいるのだそう。

実際にチリ料理屋を出店したクラウディオ・ペニャさんは、TBSラジオの取材に対してこう答えています。

「僕はシェフ。楽しい。だって僕は今、仕事できないから。自分の店みたいだった。みんなチリ料理のこと分からない、みんなチリ料理のこと話してた。すごく嬉しい」

また3回の開催を経て、金井さん自身にも変化があったそうです。

「難民の問題以外にも、世界の情勢、歴史的な背景、さまざまな問題に対するアンテナを張れるようになってきたと思います。全て、遠い国で起きていることではなくて、日本と地続きでつながっているんだということが分かるようになってきました」

積極的に“隣人”になることが、多くの難民の支えに

難民と聞いてもピンとこない人や、自分とは全く関係のない話だと思っている人も多いかもしれません。そんな人たちに伝えたいことは?と、金井さんに尋ねると「難民の人はもうすでに隣にいて、一緒に生きているということを知ってほしい」と金井さんは言います。

「難民って単語だけ聞くと、『日本には関係ない』と考えている人は少なくないと思うんです。でも、実際は違います。そこらじゅうに難民の方がいるんです。私はたくさんの難民の方と出会って、決して『かわいそう』とか『か弱い存在』ではないと知ることができました。迫害されても負けずに生きてきた人、ジャックのように過酷な状況の中でも独裁者に立ち向かって、愛する祖国のために行動してきた人もいます。むしろ『勇敢で強い人たち』なのかもしれません。難民が隣人であることを知って、難民のイメージをアップデートしてほしいですね。ジャックは現在(2023年5月)も難民になれていません。でも、『日本に来たことに後悔はなく、第二の故郷だ』と言ってくれています。それなのに難民として認められず、働くこともできないままジャックの人生が過ぎていくことが本当につらいし、申し訳ない気持ちになります」

入管法改正についての審議が行われている今、「難民・移民フェス」の運営メンバーは「お茶アクション」(外部リンク)も開催しています。

写真:上野駅前に設置された「移民・難民フェス」のパネルが貼られた屋台と、それに集う人々
2023年4月に上野駅(東京)で行われたお茶アクションの様子

「お茶アクション」とはさまざまな国のお茶を飲んで、一緒に難民について考えるイベント。

参加は無料ということで本当にお茶を飲んで帰るだけの人もいますが、難民問題に興味を持った人が集まって、その場で情報交換をしたり、「入管、ひどいよね」というような“茶飲み話”をしたりする場になっています。リアルの場だけでなく、Twitterからもハッシュタグを付けての参加も可能です。

2023年4月に開催された際には、偶然立ち寄った学生が「これ、授業で扱ってもいいですか?」と運営メンバーに話しかけている場面も見ました。こうした気軽に参加できるイベントを入り口として、課題を知ることで、「難民の隣人」になれるのではないでしょうか。

気になった方は、ぜひ参加していただきたいと思います。

画像:難民・移民フェスで配布されているチラシ

「難民の中には居場所を知られることで、本人や祖国に残っているご家族の命に危険が及ぶ可能性がある方がいます。人物が特定できる形での撮影、本人の許可なくカメラを向けることを固くお断りします」と記載されている
「難民・移民フェス」での注意。©️難民・移民フェス実行委員会

また、「難民・移民フェス」では毎回「人物が特定できる形での撮影は禁止」とアナウンスされています。理由は「難民の中には居場所が知られることで、本人や祖国に残っている家族の命に危険が及ぶ可能性がある」から。

こうした注意書きが必要なくなる社会にするための方法の1つが、「積極的に隣人になること」なのではないでしょうか?

〈プロフィール〉

金井真紀(かない・まき)

1974年生まれ。テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て、2015年より文筆家・イラストレーター。任務は「多様性をおもしろがること」。著書に『はたらく動物と』(ころから)、『パリのすてきなおじさん』(柏書房)、『戦争とバスタオル』(亜紀書房)、『聞き書き世界のサッカー民 スタジアムに転がる愛と差別と移民のはなし』(カンゼン)、『日本に住んでる世界のひと』(大和書房)、『おばあちゃんは猫でテーブルを拭きながら言った 世界ことわざ紀行』(岩波書店)、『世界はフムフムで満ちている』『酒場學校の日々』(共にちくま文庫)など。
難民・移民フェス 公式サイト(note)

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