日本財団ジャーナル

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答えがない社会課題にどう向き合い、何を得るのか。生徒が夢中になる探究活動のかたち

写真:左はインタビューに答える三好先生、右上・下は探求活動の成果を発表する生徒たち
東京都立大泉高等学校附属中学校の探究活動の取り組みについて語る三好先生(左)と、生徒たちによる発表会の様子
この記事のPOINT!
  • 東京都立大泉高等学校附属中学校では、中高一貫の6年間を通しての探究活動を実施
  • 探究活動は偏差値など数値で評価を表すことが難しく、教育関係者から理解を得づらいことも
  • 自ら社会課題に取り組むことで生徒は課題の複雑さや苦労を知り、教師は寄り添うことが役割

取材:日本財団ジャーナル編集部

日本財団が2019年に行った18歳意識調査「国や社会に対する意識」(別タブで開く)。若者が自分の国や社会に対しどのような意識を持っているか、国際比較を行うために、インド、インドネシア、韓国、ベトナム、中国、イギリス、アメリカ、ドイツと日本の17〜19歳各1,000人を対象に行ったものです。

その結果は、驚く内容で多くのメディアにも取り上げられました。「将来の夢を持っている」という若者は、他国は全て80パーセント以上だったのに対し、日本は60.1パーセントと大幅に下回りました。

また、「自分で国や社会を変えられると思う」と答えた人は18.3パーセント、「自分の国の将来は良くなる」と答えた人は9.6パーセントと、日本の若者の国や社会への期待値や希望の低さが明らかになりました。

自分の国の将来についてどう思うかを示す横棒グラフ:
「自分は大人だと思う」に対する回答は日本29.1%、インド84.1%、インドネシア79.4%、韓国49.1%、ベトナム65.3%。中国89.9%、イギリス82.2%、アメリカ78.1%、ドイツ82.6%。
「自分は責任がある社会の一員だと思う」に対する回答は日本44.8%、インド92%、インドネシア88%、韓国74.6%、ベトナム84.8%。中国96.5%、イギリス89.8%、アメリカ88.6%、ドイツ83.4%。
「将来の夢を持っている」に対する回答は日本60.1%、インド95.8%、インドネシア97%、韓国82.2%、ベトナム92.4%。中国96%、イギリス91.1%、アメリカ93.7%、ドイツ92.4%。
「自分で国や社会を変えられると思う」対する回答は日本18.3%、インド83.4%、インドネシア68.2%、韓国39.6%、ベトナム47.6%。中国65.6%、イギリス50.7%、アメリカ65.7%、ドイツ45.9%。
「自分の国に解決したい社会議題がある」対する回答は日本46.4%、インド89.1%、インドネシア74.6%、韓国71.6%、ベトナム75.5%。中国73.4%、イギリス78%、アメリカ79.4%、ドイツ66.2%。
「社会議題について家族や友人など周りの人と積極的に議論している」対する回答は日本27.2%、インド83.8%、インドネシア79.1%、韓国55%、ベトナム75.3%。中国87.7%、イギリス74.5%、アメリカ68.4%、ドイツ73.1%。
質問「あなた自身について、お答えください」に対する回答。全体的な結果を見ても日本の若者の数字の低さが目立つ

この調査結果に課題意識を持った東京都立大泉高等学校附属中学校(外部リンク)では、2020年より、中高一貫の6年間を通して取り組む「探究活動」をスタートさせました。

生徒自らが探究課題を掲げ、現場に赴き調査や実践活動を行いながら、社会課題を解決するための思考力と実行力を身につけるカリキュラムになります。

6年間の探究活動のロードマップ
・中1/地域探究、地域課題、クラス・ゼミ活動・課題発掘セミナー
・中2/マイプロジェクト、日本の課題、クラス・ゼミ活動・課題発掘セミナー
・中3/マイプロジェクト、世界の課題、クラス・ゼミ活動・課題発掘セミナー
・高1・2/QC・課題研究(必修)、自己の興味関心にもとづく課題、ゼミ活動
・高3/課題研究(選択)、自己の興味関心にもとづく課題、個別指導・少人数指導
大泉高等学校附属中学校が取り組む探究活動のロードマップ

この取り組みを通じて、生徒たちにはどんな変化が起きているのか。また日本の学校教育にいまどのような課題を感じているのか。同校において探究活動を牽引する主任教諭・三好健介(みよし・けんすけ)さんにお話を伺います。

探究活動を通して社会に対する視野が広がった

――三好先生は日本財団が行った「18歳意識調査」に危機感を覚えたと聞きました。

三好さん(以下、敬称略):他の国と比較すると、日本の18歳が持つ「国や社会に対する意識」が非常に低い。でも、解決したい社会課題はたくさんあるはずなのに、みんな、そこに気づけていない、発見できていないのではないかと思いました。

そして、きっと変えられるはずなのに、「自分では変えられない」と思い込んでしまっている。

若者にそう思わせてしまっているのは、学校教育や社会の影響も大きいのではないでしょうか。だからこそ本校は、生徒たちに社会課題に関心を持ってもらいたいですし、「自分でも社会を変えられるかもしれない」と思ってもらえるような授業をしていきたいんです。

その思いが中高一貫の探究活動をスタートさせたきっかけにもつながっています。

現在の探究活動を始めたきっかけについて話す三好先生

――探究活動を通して、社会に目を向けてもらいたいと考えているんですね。

三好:そうですね。実はいまの探究活動を始める少し前に、本校のミッションを考え直すタイミングがあったんです。

中高一貫校になり、難関大学への進学者の数も増えましたし、進学実績は伸びたと思います。でも、本校が掲げてきた「国際社会のリーダーを育成する」というミッションは達成できていたのかという観点で考えると、改善すべき点があるのではないかという話になりました。

これだけが理由ではないと思いますが、本校に通う生徒の多くは小学生の時から塾や習い事などに通っており、体験機会に比較的恵まれているためか、私が担任をしていた時の高校生も、入学してくる中学生も社会課題に関する反応や関心が薄いという課題を感じていました。

ですが、見方を変えれば自分自身もマイノリティな存在なはずであり、将来自分が当事者になる可能性もありますし、きっと友だちの中にも課題の当事者で苦しんでいる人もいるはずですよね。「支援する側」と「支援される側」という二項対立で考えてほしくないと思っています。

そこで中学から高校まで続く探究活動スタートさせることにしました。中学生には社会課題について考えてもらい、高校生には個人的な興味関心に基づくテーマを探究してもらっています。

写真:多くの生徒や教育関係者、保護者の前で探究活動の成果を発表する生徒たち
同校では、中学校1年生から高校2年生までの5学年合同で1年間における探究活動の成果を発表する「OIZUMI AWARD(オオイズミ・アワード)」を実施
写真:多くの生徒や教育関係者、保護者の前で探究活動の成果を発表する生徒
OIZUMI AWARDでは、自身が行った探究活動の成果を、他のクラスや他の学年の生徒だけでなく、保護者や教育関係者に向けて発表する

誰だって社会課題に取り組むことができるはず

三好:生徒たちのことをより一層リスペクトするようになりました。私自身、仕事が終わってからや休日などにどれだけ社会課題について考えられているのかというと、おそらく、そこまで時間を割けていないと思うんです。

でも、生徒たちは平日も休日も、部活動や勉強、友人との予定などがある中で時間をつくって、社会課題に対してアクションを起こしている。それって大人でもなかなかできないことですよね。生徒たちを見ていると、そういった“強さ”を感じます。

また、私たち大人が「これって仕方ないよね」と諦めてしまっていることも、生徒たちは「先生、これはおかしくないですか?」「これは問題ですよね?」と指摘できるんです。これもすごいことだなと感じています。

一方で課題も感じています。例えば中学校(3年間の探究プログラム)の最後にアンケートを取ってみると、「社会課題を解決するって難しい」という“解決することの難しさ”を知る声が増えてくるんです。

果たして子どもたちにそれを感じさせることに意味があるのだろうか? 解決することがいかに難しいか実感してしまったら、社会を変えたいと思う意志が弱ってしまうのではないかと……。

自身が行った探究活動「教師の労働問題」について成果を発表する生徒たち
写真:発表会の内容について、参加者からの質問に答える生徒
発表会の最後には参加者からの質問に答える質疑応答の時間も設けられている

――確かに、社会に対する無力感を感じてしまったら、気力が削がれてしまいそうです……。

三好:そうですね。でも探究活動の意義って、「物事」を多面的、多角的に見られるようになること」とも感じています。

例えば、過去に子どもの虐待問題に取り組んでいた生徒が、「虐待するなんて最低な親だと思っていたけれど、もしかするとその親も苦しんでいるのかもしれないってことに気づいた」と言ったんです。

社会課題ってどうしても誰かを悪者にしがちですが、生徒たちには悪者探しをすることを目的とせず、その問題をいろんな角度で見てもらいたい。それこそが社会課題を解決する上で大事な視点ですよね。

生徒たちには社会課題は複雑であることを知り、その上で決して諦めずにアクションを起こせるようになってもらいたいと思っています。

――探究活動を続ける上での課題などは見えてきましたか?

三好:探究活動って、偏差値のような“数字”で評価を表すことは難しいですよね。だから、他の教育関係者から「こんなに力を入れてやっていて、目指す大学に合格できるんですか?」と疑問を持たれることもあります。

教育現場では、どうしても偏差値や進学実績を求められてしまう。でも、偏差値だけを重視する学校教育でいいのだろうか? と疑問を抱いています。

そのためにも、探究活動が子どもたちにどんな影響を及ぼすのか、目に見える形で示していく必要がある。そうすることで、生徒たちも自信をもって取り組めるじゃないかと思うんです。自分たちがやっていることって意味があるんだ、価値があるんだと……。

さらには探究活動を頑張ったことで、将来への道が見えてくることもあると思います。そこで人生をかけてでも解決したい問題と出会ったとしたら、進路にも影響しますよね。

中学・高校での探究活動で、とある社会問題を知り、それを解決するための大学や学部に進学し、就職した。そんな生徒が出てきたら素敵ですし、探究活動が生徒たちにとっての生きる“原点”になって欲しいと思うんです。

実際に今年の高校3年生には、探究活動を通して大学で研究したいテーマが見つかり、東京大学や東京工業大などの総合型・学校推薦型選抜で進学を決めた生徒も出てきています。

目指す探究活動の形について話す三好先生

――では最後に、これからを生きる若者たちと、彼らの周りにいる大人に向けてメッセージをいただけますか?

三好:「自ら社会課題に取り組んでいる」と聞くと「意識の高い子たちなんだな」と思われるかもしれません。でも決してそんなことはなくて、本校の生徒たちはごくふつうの中高生なんです。

それはつまり、誰だって社会課題に取り組むことができるということ。本校の生徒たちがまさにそのモデルになっていると思います。

だからこういった取り組みにご自身でも挑戦してもらいたいですし、仲間にもなってもらいたい。そうやって若者相互に影響や刺激を与え合ってくれたら嬉しいですね。

そして大人の皆さんには、社会課題に取り組んでいる子どもたちを温かく見守っていただきたい。実際、本校の探究活動では企業や大学、研究機関、NPO、地域の方々などたくさんの方に協力していただいています。インタビューを受けていただいたり、実践活動の場を提供いただいたり……。だから本当に感謝しています。

私たち教師が「生徒たちのインタビューを受けていただけませんか?」とお願いすればスムーズなのでしょうが、あえて生徒自身にアポイントを取るところからやってもらっているのは、そうやって苦労することで学べることが多いからなんです。

もちちろん、学校の方で事前にアポイントメントの取り方に関してレクチャーを行っていますが、もし何か問題が発生あれば、そのときに頭を下げるのが私たち教師の役目だと考えています。また、皆さんからいただいたご指摘を踏まえて、次年度の改善に生かすようにもしています。

ですので大人の皆さんには、お忙しいとは思いますが、社会に対して何かアクションを起こそうとしている子どもと出会ったら、可能な範囲で子どもの話に耳を傾け、対話していただけると嬉しいです。その上で、良い取り組みだと思ったら快く協力していただけると幸いです。

もちろん、間違っていたり、考えが甘かったりした場合は、ご指摘・ご助言いただけると有り難いです。それが生徒の本当の力につながると考えています。

編集後記

三好先生が言うように、大人になると「仕方ないよね」と妥協したり諦めたりすることが増えているような気がします。

でも、社会課題を前にしたとき、その姿勢を保っていていいのでしょうか? 私たちが「仕方ない」と簡単に諦めている一方で、苦しい思いをしている人たちがいる。それを見過ごすのは非常に残酷なことです。

確かに社会課題を解決するのは難しいことかもしれません。たった一人で頑張っていても、出口が見えないかもしれません。でも、一人一人の力が集まることで、それはやがて大きなうねりとなり、社会を変える可能性が高まります。

そのために必要なのは、まず興味関心を持つこと。そしてどんなに小さなことでもいいから、アクションを起こすこと。探究活動を通じて子どもたちの変化を目にしてきた三好先生のお話から、そんな大切なことに気づかされました。

撮影:十河英三郎

東京都立大泉高等学校附属中学校 公式サイト(外部リンク)

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