中小企業の力が集まって、ソーシャルインパクトを起こす「社会貢献企業基金」

写真:群馬県みどり市の子ども第三の居場所の前に立つ、社会福祉法人チハヤ会 施設長の石戸悦史さん(左)と大栄産業株式会社 代表取締役社長の戸塚和昭さん(右)

皆さんから日本財団がお預かりしている寄付には、個人からいただくものと、法人からいただくものがあります。個人寄付と同じように日本の寄付を支えてくださっている法人寄付ですが、日本財団ではその中でも特に、中小企業に特化した基金を開設しました。たくさんの中小企業の社会貢献への想いが集まり、大きなソーシャルインパクトを起こす。そんな「社会貢献企業基金」についてご紹介します。

日本の法人寄付の現状

日本ファンドレイジング協会が発行した『寄付白書2021』によれば、2020年の個人寄付総額は1兆2,126億円(うち、ふるさと納税6,725億円)、2019年の日本の法人寄付総額は6,729億円(2020年はデータなし)。

個人寄付と法人寄付の両方のデータが揃っている年では、法人寄付が個人寄付を上回る年もあり、日本の寄付において法人寄付が重要な位置づけであることがわかります。

しかし、データとして発表されている2019年までの調査結果から見ると、必ずしも法人寄付の裾野は広がっているとは言えません。東日本大震災が発生した2011年は52万社が寄付を行ったものの、それから5年は40万社程度、そして2019年には29万社と減少しています。

社会貢献企業基金の開設を担当した日本財団の中村一貴は日本の寄付文化の特徴を次のように語ります。

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日本財団 中村一貴

「個人か法人かに関わらず、日本の寄付文化の特徴としては、コロナ禍や震災など、情勢の変化をきっかけに注目を集めると、寄付が増える傾向にあります。

それゆえメディアが取り上げるようなわかりやすい社会課題には寄付が集まる一方で、あまり表に出なかったり、身近ではない社会課題に関してはなかなか寄付が集まらないのが現状です」(中村)

では、どのように法人の皆さんに常態的に寄付活動に参加いただくか。そこで日本財団が注目したのが日本の全企業数のうち99.7%を占めると言われる中小企業の存在でした。

「以前よりSDGsなど企業の社会的責任を問う世論を背景に、大企業は寄付活動にも積極的にご参加いただいていました。例えば、大企業からの数千万円、数億円という大口のご寄付であれば、1社のご寄付で大きなプロジェクトを推進することもできます。

しかし、中小企業の場合は、やはり利益は従業員に還元してあげたいということもあるでしょうし、大企業のような大口の寄付をするのが難しい場合もあります。

寄付をいただく際も『少額なのですが』という前置きをなさるなど、金額に引け目を感じられる経営者の方もいらっしゃるようです」(中村)

中小企業の経営者の皆さんの社会貢献への想いを無駄にしないためには、どうすればよいのか。そこで生まれたのが社会貢献企業基金でした。

社会貢献企業基金とは

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大企業のように1社で社会に大きなインパクトをもたらすことは、できないかもしれません。でも連帯すれば、それは大きな力になります。

「社会貢献企業基金は、中小企業の社会貢献に特化したネットワークを形成するものです。一口10万円からのご寄付を多くの中小企業からいただき、それが集まることで、世の中を大きく動かすことができます」(中村)

中小企業のネットワーク化を目的とする社会貢献企業基金では、寄付をいただいた企業と「中小企業同士のつながりの強化」「民間同士が助け合う共助の仕組みの構築」という3つの観点で、さまざまな取り組みを実施しています。

また、寄付いただいた企業の名前をウェブサイトに記載したり、100万円以上の寄付をいただいた企業には贈呈式を開催するなど、広報面での協力もさせていただきます。

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日本財団 中村一貴

「今は個人がものやサービスを選択するときに、その企業が社会貢献をしているかどうかを見る時代です。日本財団とのお取り組みを広報させていただくことが、ご寄付いただいた企業様のメリットにもつながればと考えています。

また、大企業がサプライチェーン全体の健全性を問われるようになったため、最近では中小企業であってもSDGsを掲げる企業が増えています。しかし、SDGsに取り組むといっても、いきなりではどうして良いかわからないということもあります。そういった企業様の悩みにも、日本財団ならばお役に立てると考えています」(中村)

中小企業の皆さんの想いを、支援を必要とする人のもとへ

では、実際にどのような企業が社会貢献企業基金に寄付しているのでしょうか。

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群馬県みどり市の子ども第三の居場所

群馬県前橋市に本社を構える大栄産業株式会社は、解体工事、アスベスト除去、産業廃棄物処理などの環境整備事業を展開する会社。この度、社会貢献企業基金を通じて、子ども第3の居場所に寄付いただきました。

なぜ社会貢献企業基金に寄付してくださったのか。その理由について、代表取締役社長の戸塚和昭さんが、自身の生い立ちをなぞりながらお話してくださいました。

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大栄産業株式会社 代表取締役社長の戸塚和昭さん

「私は6歳の頃に母親がいなくなり、そのためにつらい経験もたくさんしました。父親は仕事で家にいないために、いつも一人ぼっち。朝起きるとテーブルの上に菓子パンと牛乳瓶が置いてあって、それを一人で食べるというのが日課でした。

自分がそんな経験をしたからこそ、子どもをサポートする環境はとても大切だと思うんです。1人の人間として、日本の子どもたちが笑っていられるように、何か力になりたいと考えたのがきっかけでした」(戸塚さん)

大栄産業は寄付金をくださっただけでなく、さらには同社で開発製造を手掛ける光触媒のコーティングを、群馬県みどり市にある子ども第三の居場所 おむすび堂に寄贈してくださいました。

光触媒とは、光が当たるたびに、24時間365日ウイルスや菌を除菌してくれるという技術。コロナ禍でも子どもたちが安心して子ども第三の居場所に集えるようにと、戸塚さんが配慮してくださったのです。

社会福祉法人チハヤ会の石戸悦史さんは、みどり市の教育委員を務めた際にみどり市に困難を抱える多くの子どもたちがいることを実感。子どもに手を差し伸べられる場所を用意したいとおむすび堂を開設したそうです。そして、日本財団の子ども第三の居場所に採択されるように至りました。

石戸さんは今回の光触媒の寄贈について、次のように感謝の意を語ります。

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社会福祉法人チハヤ会 施設長の石戸悦史さん

「子ども第三の居場所は安全・安心な場所でなくてはなりません。新型コロナウイルスが完全には収束していない状況下ですので、感染対策をしていても、子どもたちが集まるとやっぱり心配に思うことがあります。

除菌してくれるという光触媒を施設に施していただけるというのは、子どもたちにとっても安心ですし、施設のスタッフにとっても負担の軽減につながります。本当にありがとうございます」(石戸さん)

同じ群馬県に拠点を構え、同じように子どもたちへの想いを抱える大栄産業とおむすび堂。両者の想いがつながったことが、今後の地域の子どもたちの笑顔を守る活動にもつながっていくかもしれません。そのきっかけに社会貢献企業基金がなれたとすれば、これほどありがたいことはありません。

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社会福祉法人チハヤ会施設内の柱に刻まれた、子ども達の成長の記録

今後、社会貢献企業基金にいただいた寄付は日本財団が用途を厳選し、寄付先企業にレポートをいたします。直近では、ウクライナ避難民の日本での受け入れ支援のために使わせていただくことを予定。

中小企業の皆さんの想いを日本、ひいては世界の、支援を必要とする人たちのもとへ。これからも日本財団がハブとなり、皆さんの想いをお届けしたいと思います。